2014年9月5日金曜日

第72回「言葉・音・トーン」

犬は私たち人間が話す言葉を話しません。しかし、犬は飼い主や周りの人間に始終意思表示や感情の伝達をしています。そして、彼らは私たちがそのメッセージをどれほど正しく理解し、反応しているのかをしっかり見ています。犬の発しているメッセージをきちんと理解し、対応できるというスキルは、愛犬からの尊敬と信頼を得るカギとなり、飼い主としてのリーダーシップを示す大きな要素になります。もちろん私たち人間からも犬にたくさんの意思表示をするわけで、言葉で色々話しかけることも大切ですが、犬とのコミュニケーションにおいては、音やトーンを使い分けることで、より効果的な意志の伝達がはかれます。今回は、犬とのコミュニケーションの効果的な方法についてお話します。

自分の音を見つける

犬との「会話」において、音は大変有効です。それを利用したトレーニング方法にクリッカー・トレーニングがあります。カチッという音が鳴る道具を使い、犬が良い行動をした時に音で正の行動の強化をする方法です。正しい行動=カチッの音の連続で、犬は正の行動を頭に植えつけます。

私はレッスンの際にいつも、「愛犬とのコミュニケーションにおいて、正す時に常に使う『自分の気持ちがお腹の底から表現できる音』を見つけましょう」とお話します。カリスマ・ドッグトレーナーのシーザー・ミラン氏の正す時の音「シュッ」は巷でかなり有名になりました。私自身は「ア」と「エ」の中間くらいの音で「アアッ(エエッ)」を使用。他の例では「(鼻から)ウッ」「バッ」「ヘイ」「ヒュイ」と言う音があります。短く跳ねるような音が効果大。そして、大切なのは100%の気持ちが出る音であること。一般的に犬の耳には「NO(ノー)」という音はエネルギーが弱いと言われるため、正す際にはNO以外のものを使いましょう。犬の注意を引く時には「ツゥツゥ」「チュッチュッ」という唇を使った音や口笛などを使うと言葉で伝達するよりも反応が良いです。

私の経験から、日本人の飼い主はこういう音を使うのに抵抗があるようですが、恥ずかしがっていては損。大切なのは愛犬とより良いコミュニケーションがはかれることなので、人の目は二の次。また他人はこちらが意識しているほど関心を寄せていないものです。

メリハリをつける

犬は人間の発する言葉や音のトーンの違いでこちらの気持ちを汲み取ります。これをおおいに利用して犬とのコミュニケーションをはかると効果大。低音と高音のトーンの使い分けを明確にし、二重人格と思われるほどのメリハリをつけることでこちらの気持ちを伝達します。間違った行動を正す(冷静な低音)→ 犬が行動を直す→即座にほめる(喜んだ高音)という犬のしつけは、正す→ほめるの繰り返し。正したら即ほめるということを忘れない。「3秒ルール」を頭に置いて、即座の対応を心がけましょう。

ちなみに、犬をほめる際の音ですが、私自身は「グッド!」「よし!」「賢い!」と、こちらには言葉を使っています。あまり大袈裟に表現すると反応して興奮する犬も多いので、なるべく平静な態度で表現しましょう。

大阪で生まれ育った私は、気がつけばどんな犬にでも母国語の大阪弁で話しています。面白いもので、今まで大阪弁や日本語すら聞いたこともない犬たちもしっかり意思を汲み取ってくれます。それはきっと私の心の底からの気持ちが表現できているからでしょう。

次回は、「愛犬との関係」と題し、犬と飼い主の関係について詳しくお話します。お楽しみに!


首をかしげて一生懸命理解しようとする著者の愛犬ノア

てらぐちまほ:在米25年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project (www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。愛犬ジュリエットが他界した今は、ニューヨークに移転して新入り犬ノアと活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com