2017年12月4日月曜日

第110回「犬とホリデーシーズン」

町中がキラキラときれいなイルミネーションで飾られ、気持ちも躍る季節になりましたね。この時期は、きっと多くのお家でパーティが行われることでしょう。最近は、愛犬も家族の一員として、または主役と化して、パーティに同席するのが当たり前になってきました。今回は「犬とホリデーシーズン」と題し、何かとイベントが続くこの時期に怪我・事故のない楽しい時間を過ごすために、飼い主として気を付けておきたい点のお話です。

痛っ!

実は、そういう私も、この夏自宅で行ったBBQパーティの際に、大怪我をしてしまいました。パーティのことで気もそぞろになっている私を愛犬ノアが不意に引っ張り、顔面から転倒するはめに。足も捻挫し、大変な思いをしました。「浮き立つ」という言葉が物語るように、特別なことがあると、飼い主の気持ちがそぞろになってしまい、普段はきちんと出来ている愛犬の監督もおろそかになりがちです。そうすると、計算外のことが起こってしまう時も。そして、せっかくの楽しい時間にも水を差してしまい、良いところなしという結果に……。
お客さんが気を利かせて愛犬の散歩などを買って出るかもしれませんが、自分の犬が一番分かるのは飼い主です。やめた方が良いと思えばはっきり断る。お客さんでも、変な気を遣わずに、正直に対応すると余計な事故やケガを防げます。また、パーティ中に、愛犬が賑やかな場所から隠れることの出来るスペースと時間を提供してあげることも忘れないで。声を出して気持ちの説明が出来ない犬を守ってあげられるのは飼い主です。特別なイベントの際でも愛犬のことを一番に考えてあげましょう。

今日は特別?

特別な時だからと、犬が人間の食べ物をたくさん頂戴することになるのも、このホリデーシーズンです。しかし、それは犬にとって、健康にもしつけにも良くないこと。人間には美味しいものでも、犬には毒になる食べ物も色々あります(*)。また、色んな人から次から次へとトリートなどをもらい、食べ過ぎでお腹をこわす可能性もあるので、食べる量も気を付けてあげましょう。少々の甘やかしは良いにしても、普段絶対にさせないことを「今日は特別」とさせてしまうと、犬を混乱させることになるので、普段だめなものは特別な日でもだめ。それが本当の意味で愛犬のためになっていることを忘れないように。

ギフトに犬!?

クリスマスに犬をプレゼントにすることについては、賛否両論あるでしょう。私は基本的には賛成派です。それというのも、贈り物はそれだけひとしおの心入れになるので、一生大切にするという気持ちを育む意味ではいいアイデア。しかし、サプライズギフトにするのだけは絶対に避けましょう。命ある犬は、店やオンラインショップで買って、気に入らなかったら返品出来る商品とは違います。犬に返品はありません。ギフトで贈ると決めたら、準備の段階から一緒に楽しむ贈り物にすればいいと思います。
今年のホリデーシーズン、愛犬にも可愛くおめかしさせて、お家でゲストいっぱいのパーティで盛り上がるのもよし。それとも、賑やかなイベントを避け、愛犬と車で遠出のホリデー旅行もよし。怪我や事故のない楽しい時間をお過ごしください。

Happy Holidays!
次回は、「おしっこ・うんち」と題し、犬の排泄物の裏に隠されている意味についてのお話です。お楽しみに!

ホリデーシーズン、愛犬の様子をチェックすることも忘れないように

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てらぐちまほ在米29年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com


2017年11月4日土曜日

第109回「迷い犬」

ハリケーン、地震、山火事と2017年は、いつにも増して自然災害の発生が多かったように思います。世界のどこかで大災害があるといつも考えさせられるのが、混乱の中でもし愛犬とはぐれてしまったら……ということです。今回は、「迷い犬」と題し、万が一愛犬がいなくなった時、また、道端で路頭に迷う犬を見かけた時のために気をつけるべき大事なポイントのお話です。

愛犬がいない……

万が一愛犬が行方不明になってしまったことを想定して、以下の準備をしておくことをお勧めします。①マイクロチップを埋め込む:マイクロチップとは小さなガラスのシリンダーに入った電子チップで、そのチップは、注射器のようなものでペットの体に埋め込めます。チップには特定の数字が設定されていて、スキャナーを通すとその数字が読み取れます。チップ販売元に飼い主のインフォメーションを登録しておけば、万が一愛犬が迷子になり、保護された先でスキャンされたら、登録されたインフォをたどって飼い主に連絡が来るという仕組みです。ちなみに、愛犬ノアには、HomeAgainという会社製のマイクロチップが埋め込まれています。②首輪に名札を付ける:愛犬の名前と飼い主の連絡先を記載した名札を首輪につけておきましょう。その際には、書かれた情報が擦れて消えないような名札を選ぶこと。ただ、迷子になった際に首輪が外れてしまう可能性もあるので、マイクロチップは必ずしておくことをお勧めします。③Lost Dogの張り紙を作る:実際に愛犬がいなくなったら、パニック状態になる可能性が大です。普段からいざという時のために写真入りの張り紙を作っておきましょう。また、定期的に内容をアップデートすることを忘れずに。④近所のシェルターなどのリストを作る:保護される可能性のある周辺のシェルターや、警察署の所在地と電話番号やメールアドレスをリストにしておきましょう。また、ソーシャルメディアのLost Dogのサイトもブックマークしておくと良いでしょう。

この子はどこの子?

路頭に迷っている犬を保護したが、シェルターに連れて行くと安楽死させられてしまうのでは? と不安になり、自分の家で飼うか、新しい家を見つけてあげようとする人がいます。一見とても尊い行為に思えますが、実は、そうすることで本当の家族との再会のチャンスを妨げてしまっています。迷い犬を保護したら、まずは動物病院やシェルターなど、マイクロチップが埋め込まれているかを確認できる所に連れて行きましょう。また、近辺のシェルターの掲示板や、オンラインなどで、すでに飼い主がLost Dogとして探していないかも確認すること。自分の犬にしたり、新しい家を探したりするより、どこかで夜も眠れずに愛犬を探している飼い主がいるかもしれないということに焦点を当てて、飼い主探しに力を入れるべし。昨今では、ソーシャルメディア上での情報拡散によりインフォメーションが伝達されて飼い主と愛犬が無事に再会を果たすというケースも多いです。
愛犬と飼い主が離れ離れになってしまうことは悲しいことです。最悪の事態になっても、愛犬が飼い主の手元に戻るように、日頃から出来る限りのことをしておきたいですね。
次回は、「犬とホリデーシーズン」と題し、どうしてもいつもと違うルーティーンになるホリデーシーズンに、犬の飼い主として気を付けたい点についてのお話です。お楽しみに!

飼い主のもとに帰らせて……

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てらぐちまほ在米29年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com


2017年10月5日木曜日

第108回「犬はカガミ」

ホモ・サピエンスの人間と、カニスの犬。生態的に大きく違うこの二つの動物ですが、この二者について私が思う一番顕著な違いは、心と裏腹な行動を取れる人間に対して、犬にはそれができないというところではないかと思います。今回は、「犬はカガミ」と題し、私が日頃から、犬たちは人間の「カガミ」だと感じていることについてのお話です。

犬は飼い主の鏡(カガミ)

グループ・レッスンでも、プライベート・セッションの際でも、途中で犬がとんちんかんなことをし始めたり、集中力を欠いてしまったりすることがあります。しかし、飼い主の方はというと、至って平静。でも、実は、この犬の行動の裏には、リーシを握る飼い主の心理状態が大きく関係しています。人間がいらいらしたり、不安になったり、他の事で頭が一杯になったりしたら、リーシの反対側にいる犬は、その人間の心理状態(エネルギー)を丸写しにした行動に出ます。そういう状態を見かけると、私は、すかさず飼い主に「何かに気を取られていますね?」と問いかけます。すると飼い主の方は「どうして分かったのだろう?」というような顔を見せますが、それは自分の犬が鏡になって飼い主の心理状態を教えてくれているからです。人間がいくら平静を装っていても、犬には隠せません。特に飼い主の心理状態は直接的に愛犬の行動に反映されます。
愛犬の問題行動がうまく改善できずに困惑している人に相談を受けたら、「愛犬は飼い主の鏡なので、愛犬の行動を見て、(飼い主の)進歩具合をはかってください」と話しています。すなわち、愛犬の問題行動が直らないのは、飼い主自身の本気度が足りていないからで、飼い主次第で、愛犬の問題行動は変わるということです。
「犬は鏡! と、常に忘れず思っているので、彼の行動で私達の本気度が分かります。思ったよりもっと、もっと、なんでしょうね。意外と奥深いので、その辺を心してやっていこうと思います。犬がきちんと『まだまだだよ!』と教えてくれているんですね。犬は本当に正直でありがたいです」。トレーニングを担当した、ある飼い主さんの言葉です。

犬は生き様の鑑(カガミ)

犬は、飼い主の心を映し出す鏡であると記してきましたが、私にとっては、犬は生き方の鑑(カガミ)です。すなわち、彼らは人生のお手本。犬は、過去を引きずらず、明日に不安を抱かず、とにかく今を一生懸命に生きます。しかし、我々人間はというと、ついつい昔のことにこだわったり、先のことばかり考えたり……。そんな時は、犬の生き様をお手本にすることを心に刻みます。今をしっかり生きることがすべてにつながる! と。
犬が、信頼したり尊敬したりするものを選ぶ尺度も私にとっては人生の鑑です。お金や名誉や学歴や美貌などはまったく関係ない。彼らが信頼し、尊敬する対象は、心身共に強く逞しく、常に冷静な判断が下せる精神の持ち主なのです。そういう要素を基準に、相手を信頼し、尊敬できるかをはかる犬は私には鑑です。
犬の考え方は、すべてが白か黒。行動も白か黒。グレーゾーンのない、直球勝負で生きる犬の世界は私には鑑です。そして、生きる姿勢の鑑である犬との暮らしは、私にとっては何ものにも代えることのできない貴重な財産です。
次回は、「迷い犬」と題し、もし愛犬がいなくなったら、また、飼い主とはぐれて路頭をさまよっている犬を見つけたらどうするかについてのお話です。お楽しみに!

犬をお手本にして生きたい
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てらぐちまほ在米29年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2017年9月5日火曜日

第107回『犬が運ぶ青少年の未来』

私が尊敬して止まない人物の一人、ティア・マリア・トレスさんは、仮釈放中の犯罪者とピットブルテリアという、いわゆる世間から風当たりの強い二つのグループを組み合わせ、アニマル・レスキュー団体を経営しています。彼女の偉業は、Animal Planetでもシリーズ番組化され(“Pit Bulls & Parolees”。現在も放映中)エミー賞にもノミネートされたほどの評判です。一体、何が偉業なのか。それは、人生のどん底をさまよってきた犯罪者に、ホームレスのピットブルテリアたちの世話をさせることで、今までとまったく違った人生観を見出していく手助けをしているからです。今を懸命に生きる犬たちの姿勢、そして、犬と築く信頼と絆から彼らは再び生きる糧を見つけていきます。
私の住むLAにも似たようなプログラムがあります。こちらは、様々な問題を抱えて暮らす高校生たちと、シェルターで暮らすホームレス犬という組み合わせ。今回は、その高校生たちとホームレス犬のプログラムのお話です。

犬の力

カリフォルニア州のサンタモニカに、K9 Connectionと呼ばれる非営利団体があります。その団体は、様々な問題を抱えて暮らす周辺地域の高校生たちに、シェルターの犬を訓練させることで更生の機会を提供しています。参加している高校生たちは、低所得家庭、またはホームレスの家庭の子供たちで、貧困、家庭内暴力、精神疾患、ドラッグなどの問題と日々向かい合っています。そんな高校生たちが数週間かけて、シェルターの犬に基本的なしつけを教えるのですが、犬にコマンドを教えることはたやすいことではありません。意思が通じ合わないと、なかなか言うことを聞いてもらえません。また、トレーニングは忍耐力を要します。しかし、正しく教えれば、必ずきちんと応えてくれるのが犬。自分が訓練した犬に新しい家族が見つかってシェルターを旅立って行くという経験は、高校生たちの心を揺さぶります。そして、彼らはその経験を通して、生きるということの本当の意味を見出していくのです。

子供の力

このプログラムを体験した子供たちのほとんどが、学校の成績が伸びたり、性格や行動の改善に成功したりしています。夢にも思っていなかった大学に受かったり、将来の道が具体的に描けたり。また、子供たちはプログラムを通して、チームワーク、友情、信頼関係、責任感を学びます。何といっても、自分のことを頼りにし、待っている犬の存在のお陰で、毎日さぼらず学校にやって来ます。もし、彼らにこんな機会が与えられていなければ、高校は中退。また、犯罪に関わる確率も高くなり、一生希望を持たずに毎日を過ごしていたかもしれません。将来彼らが、世間を困らせる存在になるか、世間で活躍する存在になるかは、こういったプログラムの有無が大きく左右するのです。これからの時代を担っていく少年少女たちに、規律と責任感を教えながら、周りと協力することによって、必要とされる気持ち、将来への希望と夢を抱かせる機会を与え、立派な青少年になってもらうことは、私たち大人が取り組むべき義務なのだと思います。
私自身は、このプログラムを見つけてから、多大な興味と関心を持っているので、そのうち必ずボランティア活動を始めたいと考えています。その時は、実体験の記事をここでご紹介します。
次回は、「犬は鏡」と題し、愛犬は様々な角度で、飼い主の鏡になっているというお話です。お楽しみに!

助けて、助けられて

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てらぐちまほ在米29年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com


2017年8月5日土曜日

第106回「Dementia(認知症)」

 愛犬ジュリエットが13歳を超えた頃から、「おかしな行動」を見せるようになりました。部屋の隅で何にもないところをずっと見つめていたり、キャビネットの扉を開けっ放しにしていると、その中に頭を突っ込んで必死で中に入ろうとしたり…。椅子やテーブルの脚など、狭くて通れないようなところに無理矢理入り込みたがり、最後には出られなくなってあがいたり…。どれも脳の老化からくる症状でした。家庭犬の寿命が延びた昨今、多くの飼い主が、愛犬の示す様々な老化現象を経験しています。今回は、犬の老化現象の中のDementia(認知症)のお話です。

主な症状

 日本の実家で飼っていた犬、プルートも長寿だったゆえ、老後になってからはおかしな行動を良く見せていました。例えば、ご飯を食べた直後に、台所に立つ母に即座にご飯をおねだり。それも、全然食べさせてもらっていないような悲壮な声で要求していました。「今食べたところ」ということが理解出来なくなってしまっていたのだと思います。
 犬の認知症で良く見られる症状としては、①徘徊(意味もなくぐるぐる回り続ける)、②夜中の遠吠えや泣き続け、③頻尿やお漏らし、④異常な食欲、⑤理解力の低下によるおかしな行動、などがあります。
 愛犬ジュリエットが高齢になった時、幸いにも、昼夜の逆転による夜中の徘徊や、泣き続けはありませんでした。しかし、同じところを円を描いてクルクル歩き回る老犬の話はよく聞きます。止めるとフラストレーションになるので、安全に歩き回れるように工夫して、させてあげる方が無難でしょう。夜中に泣き続けるのは、近所にも飼い主にもストレスです。なるべく夜熟睡出来るように、昼の間に脳にも体にも刺激を与えてあげましょう。ジュリエットは頻尿・お漏らしがあったので、赤ちゃんのおむつを使ったり、頻繁に外に出したりしてしのぎました。しかし最後の数カ月は、毎夜中、むくっと起きるのを察したら、抱き上げて外に出していました。

予防と対策

 ただでさえ人間よりうんと速く歳を取る犬なので、認知症の症状が出始めたらどんどん加速します。原因追究や、治療法発見はまだまだこれからの段階ですが、しかし、老齢になる前から栄養管理や心身に刺激を与えることで予防につながります。いざ発病しても、飼い主の努力で進行を遅くすることも出来るので、シニア期に入ったら、信頼出来る獣医師に犬の認知症について相談してみるのも良いと思います。
 これらの犬の認知症の行動は「赤ちゃん返り」に見えますが、実は本人(本犬)はちゃんと大人の気持ちも持ったままでいます。飼い主は、それを念頭に置き、愛犬の自尊心を傷つけないように、恥をかかせないように対応するのが大切。犬も自分の心身の変化に戸惑い、困っているので、飼い主はそんな愛犬の行動を絶対に「変」扱いせずに、また異常に落ち込んで悲しがったり、まごついたりせず、極力いつも通りに接しながら、犬には必要なだけの時間をかけさせてあげること。そして、横でしっかり支えてあげることだと思います。このステージの愛犬との関係は、愛のみ。それに尽きます。そして、一心同体で老化に寄り添って乗り越える体験は、飼い主と愛犬との永遠の絆になります。
 次回は、「問題児と犬」と題し、問題行動を起こす子供たちが犬と接したり、訓練したりするうちに自らの更生につながっていくお話です。お楽しみに!
                ジュリエットの認知症が始まった頃。   
              こんな姿勢でじっとしているのを見かけるように
                  Photo © Maho Teraguchi    
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てらぐちまほ在米28年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2017年7月4日火曜日

第105回「対犬タイプ」

散歩中に、前方から初対面の犬と飼い主が全速力で走り寄って来て、どきどきした飼い主もいるでしょう。誰もが一度は出くわす経験だと思います。愛犬が他の犬に対し社交的ならまだしも、犬が苦手であれば、大変迷惑な行為です。巷には、犬は犬が好きで当たり前と思い込んでいる人が多くいるようですが、それは大きな勘違い。人間にも、社交的な人がいれば、孤独を好んだり、人と関わったりするのが苦手な人がいるように、犬の中にも、同類の犬と遊ぶのが大好きな犬もいれば、他の犬と関わるのが苦手な犬もいます。 今回は、同類の犬に対して犬がどういう行動をとるかについてのお話です。

4つのタイプ

同類の犬に対する行動は、基本的に以下の4つのタイプに分かれます。
•対犬社交的(Dog Social):他の犬との交流を大いに楽しみ、許容範囲が大変広い。相手の犬が少々乱暴・無作法でものんきに構えられる。しかし、対犬と対人の反応は常に同じというわけではなく、犬には大変社交的なのに人間は大の苦手という犬も多い。このタイプの犬で、人が苦手な犬に人慣れさせるには、人間にも犬にも社交的な犬から、人との交流の仕方と信頼することを学ばせるという方法もある。
•対犬寛容的(Dog Tolerant):同類の犬が特別大好きというわけでもないが、平和に共存できる。気を許した友達の犬たちとの交流は楽しみ、知らない犬と初対面でも、大抵、リラックスした態度を保てる。知らない犬が無作法に接してきても我慢できる。
対犬選択的(Dog Selective):同類の犬の友達はいるが、自分の嫌いな犬のタイプがあったり、無作法な犬に対してすぐにきれてしまったりする。対犬と交流する際、自分のルールで仕切りたがることが多いので(許容範囲が狭い)人間による監視とガイドが必要。繰り返し、犬との正しい交流の仕方をリマインドされる必要もある。家族犬との共存は上手くいく場合が多い。
•対犬攻撃的(Dog Aggressive):同類の犬の友達の数はほんのわずかか、もしくはゼロ。異性なら反応が比較的ましという犬もいる。他の犬には大変短気で我慢がない。リーシ歩行中に対犬に悪い反応を見せる場合は、単にトレーニング不足という理由や、リーシを持つ人間のリーダーシップの弱さが原因のことも。ここでも、犬に対してと、人間への反応は同じというわけではなく、同類の犬は非常に苦手でも、人間は大好きという犬も多い。

タイプは変動する

パピーの頃に対犬社交的だったからと言って、その犬が一生対犬に社交的とは限りません。思春期から成犬期の性格形成の段階で、対犬選択的や対犬攻撃的になる犬もいます。また、対犬との交流で、繰り返し苦い経験をしたことでタイプが変わることもあります。反対に、対犬へのリアクションに問題がある犬でも、地道にきちんとしたトレーニングを続けていけば、他の犬との交流や共存が可能になっていくと場合も多くあります。
大切なのは、飼い主が、一方的な期待や希望で愛犬の対犬タイプを決めたりせず、また、間違った分析をしてしまわないこと。自分の判断に不安があれば、専門家の分析と助けを仰ぐのも良案だと思います。愛犬の対犬タイプがどれかをきちんと認識し、他の犬と関わる際には、タイプに合った交流の仕方をさせることです。また、愛犬以外の他の犬に対しても同じように理解し、対応してあげましょう。要するに、同類の犬の友達がいようがいまいが、平和に共存できれば良いのです。
次回は、「Dementia(認知症)」と題し、犬の寿命が長くなったことで多くみられるようになった老犬にある症状のお話です。
          パピーの頃に同類と交流させて、行儀作法を学ばせることが大事
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てらぐちまほ在米28年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2017年6月6日火曜日

第104回「リーシの意味」

私と愛犬ノアが住むコンドミニアムには、住人同士で情報や意見を交わし合うWeb Siteがありますが、先日そこで、「リーシを使わない飼い主に対する苦情」が投稿されていました。苦い経験談や、苦情、アドバイスなど、活発な意見交換がされ、この件への巷の関心を改めて知る機会になりました
リーシなしで犬を散歩させ、道行く人に不快な思いをさせたり、他の犬とケンカになったり、また自分の犬の用便処理をしなかったり、変な物を拾い食いして病気になったり、あげくの果てには、愛犬が交通事故に遭い、大怪我や死亡事故に至ったり…。それでも、リーシを使わない飼い主は後を絶ちません。今回は、何度も取り上げてきた話題を再び書くことで、読者のみなさんにもう一度「リーシの意味」を考えてもらいたいと思います。

どこまでも怠慢

アメリカの多くの地方自治体には、犬の飼い主に対するリーシ法が存在します。飼い主は愛犬を公共の場に連れ出す際に、6フィート以下のリーシで犬をコントロールする義務があります。これは、飼い主が愛犬及び、周囲を守るためです。私は、公共の場でリーシを使わず、飼い犬をうろつかせる飼い主は、どこまでも怠慢だからなのだろうと思います。こういう法律が存在することを知ろうとしない怠慢さ。法律を知っていたとしても、その意味をきちんと理解せず、守ろうとしない怠慢さ。世の中には犬が苦手で、怖いと思っている人が一杯いることを気に留めず、他人の気持ちを察さない怠慢さ。また、本当はリーシを使いたいとは思いつつ、トレーニングをするのが面倒で、もういいかと諦める怠慢さ。

恰好良い!

リーシなしで外に連れ出せることを「恰好良い」と考えている飼い主もいるでしょう。確かに、一見恰好良く見えないこともありません。しかし、愛犬と周囲を守るという根本の責任を考えたら、その恰好良さも「愚か」に映ります。私は、飼い主と愛犬がリーシで結ばれ、息ピッタリで歩いている姿ほど格好良いものはないと思います。「うちの犬はばっちりトレーニングされているからリーシなし」という言い訳を使うくらいなら、リーシ歩行が完璧に出来るようトレーニングすべきです。また、「うちの犬は誰にも超フレンドリー」と言って、自分の犬を断りもなしに人に近づける飼い主は、犬が怖くて心臓発作を起こしそうな人の気持ちを考えるべきです。他の犬が苦手な犬に、リーシなしの犬が駆け寄って行ったことで、その犬にまた嫌な経験をさせトラウマを与える。大迷惑です。「愛犬に自由をあげたいから」という飼い主は、この世の中は人間のルールで回っていて、犬には危険が一杯。そこで愛犬を守るのは飼い主ということを理解すべきです。
リーシは、飼い主と愛犬のコミュニケーションが図れる大切な道具です。また、リーシは、外に出た際、飼い主が愛犬を守れる一番大事な道具です。それを「命綱」と言っても過言ではないでしょう。どうしてその大切さが理解できないのか? やはり、私には疑問で仕方がありません。
次回は、「対犬タイプ」と題し、犬が同類の犬と接する際の、心理と行動のタイプについてお話します。お楽しみに!
       このサインの真ん前で、毎日オフ・リーシで犬をうろうろさせる飼い主もいる
                   Photo © Maho Teraguchi

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てらぐちまほ在米28年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com


2017年5月3日水曜日

第103回「犬と相続」

もし今、あなたの身に何かあったら、残された愛犬の運命は? 冒頭から脅かすような話題ですが、そんな「万が一のこと」を考えたことがありますか? 飼い主が突然不幸な目に遭い、この世を去ったために、路頭に迷う運命を辿ることになった犬をたくさん見てきました。飼い主に100%生活を委ねる犬にとって、「飼い主の安否=自分の安否」なのです。今回は、もしもの場合に備えて、飼い主が愛犬のためにしておけることについてのお話です。

世界一大金持ちになった? 犬

今年の始め、医療保険の更新をする際に、Life Insuranceにも入ってみることにしました。受取人は、「息子」のノアです。さすがに、公式の書類に「受取人 愛犬ノア」とは書けませんが、この保険金は、私に万が一何かあった時、残されたノアのために残す遺産です。保険会社の担当者によると、私が特例ではないらしく、最近では、残されたペットのためにとLife Insuranceをかける人がうんと増えたということでした。
私が残すノアへの遺産など、本当に微々たるものに過ぎませんが、溺愛していた愛犬を残しこの世を去った大富豪から、数億ドルの遺産を相続したマルチーズのトラブルの話は有名です。孫にも残さなかった遺産を、溺愛していた愛犬の老後にと数億ドルを残して死んだ時、「世界一大金持ちになった犬」と世間を騒がせました。結局、溺愛してくれていた飼い主が居なくなった後は、「普通の犬」として暮らしてこの世を去ったと、後日談を読んだ記憶もありますが。

もしもの時のために

その大富豪のようなことが出来る人は稀としても、愛犬のために、凡人の私たちにも、もしもの時に備えてやっておけることはあります。①後見人を探す:家族が居れば、後を託せますが、一人の場合は、愛犬を引き取ってくれるか、次の家をきちんと見つけてくれる後見人を探し、事前に話して了承を得る。②遺書を書く:後見人を見つけ、了承を得たら、その旨も含め、残すものなどの詳細を「遺言」として記しておくといいでしょう。また、その記は、後見人にシェアしておくことを忘れずに。③愛犬のResumeを作る:愛犬のProfileを記載した「Resume」を作る。飼い主しか分からない愛犬の好き嫌いや癖、生活習慣などの詳細を、誰が読んでも分かるように書いておきます。また、内容をたまにアップデートすることも忘れずに。④社会性に富み、環境の変化に適応能力のある犬に育てておく:何と言っても大事なのは、愛犬を「暮らしやすい犬」に育てておくことだと思います。飼い主しか受け付けられない犬だと、飼い主を失った時、「次」を見つけるのに大きな壁となってしまいます。こんな時のためにも、日頃から社会性に富む犬に育てておくようにしましょう。
備えあれば憂いなし。絶対に起こって欲しくないことではありますが、万が一の事態も考え、愛犬のために、こういうところまで準備するのが、愛犬をこよなく愛するということだと思います。
次回は、「リーシの意味」と題し、飼い主と愛犬の間に繋がるリーシの深い意味のお話です。お楽しみに!

出来れば永遠に一緒にいたい。けれど…
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てらぐちまほ在米28年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2017年4月3日月曜日

第102回「犬ビジネス」

 昨秋、生まれて初めてひどい腰痛を患いました。大型犬の飼い主としては致命傷。完治するまでの間、愛犬ノアも私も苦労続きの日々を過ごすことに…。散歩はノアとの二人三脚で何とか乗り越えましたが、ノアの持病の湿疹対策のシャワーは、あの腰痛ではさすがに無理。それがきっかけで、近所のDog Self-Washのお店を見つけ、感動と感謝の気持ちで一杯になりました。ペット産業が繁栄する昨今、犬の飼い主には大変便利な世の中になったと思います。今回は、最近発見した犬(犬の飼い主)向け便利製品のお話です。

犬にも乳母車?

 東海岸にいた時、道や地下鉄、公園などで乳母車(ストローラー)に乗る犬を見かけました。中からワンワン吠える犬もいれば、中に何かいる? と確認したくなるほど静かな犬もいました。日頃、犬にとっての散歩の重要性を強調している私が、ストローラーに乗る犬を見た時にどう思ったか。答えは「悪くない」でした。物は何でも使い様一つ。マンハッタンのような混雑した街を、周りに迷惑かけずに、安全に移動したり、公共の場所を訪れたりするには便利な武器です。人混みを長いリードでうろちょろ歩かせるのは非常識。ストローラーを使えば、周りも気遣えるし、愛犬も守れます。

Azukiの新しい味方

 犬用ストローラーの活用法は他にもあります。老犬や障害で歩行困難な犬とその飼い主にとって楽に外出ができる強い味方なのです。
 カリフォルニア在住のヨーキー、Azukiは左前脚の神経が麻痺し、肩より下は使うことが出来ません。そんなAzukiに最高の味方ができました! と大喜びなのは、Azukiのママ。Baby用品でお馴染みのCombi社が開発した犬用ストローラー、Milimili(写真参照)をゲットし、生活が変わったと。「この製品は、以前使っていた物より使い勝手がうんと優れていて、小回りの利き方も非常に素晴らしく、また、座席が取り外しでき、足も簡単に折りたためるその多様性には感動。価値あり!」と絶賛で、大変重宝していることが伺えました。もちろん主役のAzukiも大のお気に入りで、座席の前方の窓部分から地面を見ては、自分で一生懸命歩いているような気になっている様子が大変健気で可愛いいそうです。
 ひと昔前までは、飼い犬と言えば用途は番犬。犬達は一日を裏庭か、玄関先で過ごし、夜は犬小屋で孤独に寝るというのが当たり前でした。しかし、「飼い犬の概念」というものがどんどん変化してきた今、飼い犬を我が子か伴侶のように考える飼い主にとっては、犬ビジネスの発達は願ってもないこと。犬に興味のない人たちに、「行き過ぎでは?」と思われても、飼い主にとっては実際非常に助かっています。ただ、物は使い様。使い方で白にも黒にも転びます。飼い主が犬を擬人化してしまい、犬用の便利なサービスや製品を「擬人化した愛犬」に提供すると、矛盾や問題が生じます。その辺りの線引き基準がきちんと分かり、現代社会で可能になったサービスや製品を上手に活用できる飼い主でありたいものです。
 次回は、「犬と相続」と題し、飼い主に万が一のことがあった時に愛犬のために備えるお話です。お楽しみに!


                  Milimiliに乗って得意気なAzuki
                   Photo by Emiko Mizumoto
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てらぐちまほ在米28年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2017年3月3日金曜日

第101回「エネルギー」

犬の飼い主さんから相談を受ける際、「飼い主のエネルギーを意識して愛犬と接していますか?」という問いかけを必ずします。なぜなら、犬との暮らしにおいて、飼い主のエネルギーは非常に大切だからです。「エネルギー」という言葉を聞くと、物理的なパワーのみを想像する人が多いですが、エネルギーは、「活力」と「気力」から成り立ち、言葉そのものの概念は「物体が仕事をなし得る能力」を意味します。今回は、飼い主の「活力」と「気力」の両方のエネルギーについてのお話です。

犬選びの鍵

毎日の生活を共にする愛犬を選ぶ時、犬と人間の両者の活力エネルギーのレベルの一致を考慮に入れることは大変重要なポイントです。読書や映画鑑賞が趣味で、もっぱら家に籠るタイプの人に、力溢れ余る犬種との暮らしはストレスです。もちろん犬にとっても同じです。愛犬との活力エネルギーがマッチしていないと、毎日がカオス状態になり、生活全体に大きな悪影響をもたらしかねません。それでも、私は「自分の人生にやってくる犬は意味があって巡り会う」と信じるので、バランスが取れてなければ、取れるようにする。その犬はライフスタイルを変えるために現れたのだ、と思うところもあります。例えば、運動嫌いで不健康な人が、活力一杯の犬と巡り会う。それは健康になるための運命であり、犬が差し出す重要な課題なのだと。しかし、チャレンジが、「エベレスト登頂」のようではハードルが高すぎて挑む気持ちになれません。犬の活力レベルは、やはり無理のない選択をする必要があります。見かけや、流行や、「可哀想だったから」という一時の感情で選んだ結果、けた違いな活力レベルの差で苦しむこともあるので、向こう10年以上の毎日の生活のことを考え、賢く選択しましょう。

気力のダイアル

犬は飼い主の「気力エネルギー」を始終観察しています。また犬は、飼い主の気力エネルギーに大きく影響されます。悲しんでいたら愛犬が慰めてくれたという経験や、そんな話を聞いた人も多いと思います。人間が興奮すると、犬も一緒に興奮します。もし飼い主が情緒不安定なら、愛犬の感情に大きな影響を与え、問題行動につながったり、病気になったりもしかねません。反対に、飼い主の気力エネルギーが常に平静で安定していれば愛犬にも自然に伝わります。一心同体と言っても過言ではないでしょう。
飼い主の気力エネルギーの巧みな使い方は、愛犬とコミュニケーションをとる上での鍵になります。気力のダイアル(飼い主の心の本気度・真剣度)を持っていると想像し、上手にその量の調節をします。いつも上げっ放しでは、いざと言う時の切り札的効果が失われてしまうので、「この時」という時のMAXを把握しておき、切り札に使います。愛犬が飼い主の気力エネルギーに全く反応しなければ、リーダーとしての役目を果たしていないという証明です。気力エネルギーの量とその効果を、試行錯誤しながら発見することで、ダイアル操作が上手に出来てくるようになります。そうして経験を積んでいけば、技ある長けた飼い主になり、愛犬との意思の疎通がうまく出来るようになっていきます。
このように、犬の飼い主として、愛犬と快適な暮らしを続けるためには、「活力」と「気力」が上手く兼ね合った巧みなエネルギーバランスが必要です。そのためには、飼い主は心身の健康を維持することに気を配り、常に上質なエネルギーを発散できるようにしていたいものです。
次回は、「犬ビジネス」と題し、昨今の犬に関するビジネスのあれこれのお話です。お楽しみに!
          「僕もヨガでエネルギーのトレーニングです」。著者の愛犬ノア
                   Photo © Maho Teraguchi
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てらぐちまほ在米28年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2017年2月5日日曜日

第100回特別記念号「Dear Juliette - 今は亡き愛犬に捧げる手紙 - 」

 早いもので、あなたがレインボーブリッジのもとに旅立ってから5年半以上もの日々が過ぎました。でもね、形は変わってしまったけど、あなたは今もここに居て、お母さんは毎朝、頭をポンポンと撫で、寝る前は、おやすみのキスをしているんですよ。外に出かける時は、「留守の間、弟のノアを守っていてね」とお願いします。そして、あなたがちゃんとノアを守ってくれているのが分かっているから、安心して外出できます。いつもありがとう。
 「ドギーパラダイス!」が100回を迎えましたよ。100回続いたら、その時は、ジュリエットに捧げる記事を書こうってずっと考えていました。覚えてる? 一番最初の特別記事が発刊される時、編集者さんがうち来てくれて、私たちの写真撮影会をしてくれたね。とても良い思い出です。もし、あなたと出会っていなかったら、この「ドギーパラダイス!」を書く機会もなかったものね。それを言うなら、お母さんがドッグ・トレーニングやレスキュー活動の世界に入れたのも、弟分のノアと出会えたのも、ジュリエットがいたからです。お母さんに、大切な人生の使命を発見するきっかけを運んで来てくれたね。
 ジュリエットと出会うまでは、ピットブルという犬種のことも良く分からず、また、この犬種が被っている差別や、闘犬絡みの人間の悪事も知りませんでした。そんな辛い過去を体験してきたあなたとの出会いで人生が一変しました。あなたのことを愛すれば愛するだけ、辛い思いをしている犬たちを助けたい、人間が犬に犯している罪のつぐないをしたいと、どんどん思うようになりました。愛する犬達のために、とにかく一生懸命になりました。
 あなたと暮らした11年半、振り返ると激動の日々だったけど、ジュリエットがいたから乗り越えられたんだよ。苦も楽も全てをあなたと共にし、あなたは本当に最高の運命共同体でした。生まれて初めて、自分よりも大切なものの存在を知りました。ジュリエットはお母さんの宝でした。その世界で一番大切な宝に「さようなら」をしなければいけなかった時の心の悲痛。今まであんなに辛い気持ちになったことはなかったよ。あなたを失うくらいなら、毎晩夜中に何度でも起きて、あなたを抱き上げ外にトイレに連れて行く、どんなことでもする、だから引き離さないでと願ったけれど、あなたはお母さんのことをちゃんと考えて、「もう力が尽きたから逝かせて」と頼んだね。泣いて、泣いて、泣いて…顔が変わってしまっても、また泣いて。でもね、あなたをこの腕の中で見送れたこと、私たちは運命共同体だったから、最期まで一緒に頑張れたんだと自負しています。
 そんなあなたに教えてもらったお母さんの人生の使命は、この世の中から辛く、悲しく、痛い思いをする犬がいなくなること、人間が犬と本当の意味で共存できる世の中にすることです。出来ることは小さいかもしれないけれど、諦めずに頑張ります。一日一人でも仲間になってもらえたら、一日一匹でも不幸な犬が幸せになったら。こつこつ頑張ります。だから、いつまでも見守っていてね。
 愛する犬達のためにやることはまだまだ一杯だけど、使命を全うしたら、必ずあなたの傍に行くから、レインボーブリッジのふもとで待っていてね。その時は、ノアも一緒に家族で楽しい毎日を過ごそうね。ずっとずっとずっと大好きだよ。
 次回は「飼い主のエネルギー」と題し、力と精神の両面からみた飼い主のエネルギーのお話です。お楽しみに!

第1回の記事を書いた時に撮ってもらった、愛犬ジュリエットとの記念写真
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てらぐちまほ在米28年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2017年1月5日木曜日

第99回「愛情の定義」

「愛犬を愛していますか?」という問いかけに、NOという飼い主はいないと思います。きっと誰もが「もちろん愛しています」と言うでしょう。ただ、溢れ余る愛情を存分に注いでいるから、愛犬とは最高の絆が築けている、という方程式が成立していないこともあります。愛は一杯なのに、誰もが羨むような素晴らしい関係になれないのはなぜか? 今回は、「愛情の定義」と題し、飼い主の愛犬への愛情ということを考えてみます。

可愛過ぎて

 「まるで、ぬいぐるみのようで、可愛いくて、可愛いくて、どうしても厳しくなれない…。」「いじらしい顔で見つめられたら、ついつい甘やかしてしまう…。」心当たりがある人がたくさんいるのではないでしょうか。犬を愛していればいるほど、このような気持ちになりがちです。しかし、犬は自分の行動を飼い主が、“いじらしい”とか、“あどけない”と思っていることを知りません。また、自分の見てくれが、飼い主をとろけさせているとも思っていません。飼い主が自分にぞっこんで、「何をしても許される」という概念は犬には謎です。
 愛犬が可愛過ぎるとこんなことも経験あるのではないでしょうか? 食卓の横でおこぼれをじっと待つ愛犬に人間の食べ物をいそいそ与える。自分のことを好きでいてもらうために、大好物のおやつを欲しがるだけあげる。いつも猫撫で声で赤ちゃん扱いをし、優しい飼い主でいようとする。心配で犬のやることなすことを目で、頭で、体で追い回す。何でも先回りして守ろうとする。しかし、そんな毎日では愛犬も息が詰まってしまいます。大切な愛犬の一挙一動が気になったり、何がなんでも守りたいと思ったりするのは、どの飼い主も同じはず。しかし、ルールもけじめもない、やりたい放題の生活や、行き過ぎた過保護は犬にとって本当の意味で幸せでしょうか? 飼い主の過保護で甘やかし過ぎな愛情表現は、幸せへの障害なのです。

犬が犬であることの大切さ

 人間関係でも同じですが、自分本位で気持ちをぶつける愛は、決してバランスのいい関係につながりません。「愛する」ということは、相手を知ること、相手を幸せにするために、必要な時に必要なものを与えられること。相手を理解し、相手を見守れることだと思います。だからと言って相手が欲しいというものを与えまくり、喜ぶからと好むことだけを一生懸命にして尽くすことが、相手を思う愛ではありません。時には、眉間にしわを寄せ、厳しく低い声を出すことも必要。心を鬼にして、渋い顔でぐっと我慢するのも愛情。人間社会の中で生きる犬は、人間に100%依存して生きていかねばなりません。心身の健康を維持するのも、身の安全を守るのも、社会の一員として周りと協調し共存できるようになるのも、人間の力をかりねばなりません。そして、それを叶えてあげるのは飼い主なのです。
 人それぞれ愛の尺度やその表現は違います。また、何が正しい、間違っているというのも人それぞれ違うので、愛犬への愛情を定義するのは難しいことです。しかし、犬を犬と捉えることは、犬を尊敬するということであり、それこそが犬を愛することではないかと信じます。
 次回は、ドギーパラダイス!100号記念特別記事です。お楽しみに!

犬の一生は短い。限りない愛情で育てたい。

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てらぐちまほ在米28年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com