2017年10月5日木曜日

第108回「犬はカガミ」

ホモ・サピエンスの人間と、カニスの犬。生態的に大きく違うこの二つの動物ですが、この二者について私が思う一番顕著な違いは、心と裏腹な行動を取れる人間に対して、犬にはそれができないというところではないかと思います。今回は、「犬はカガミ」と題し、私が日頃から、犬たちは人間の「カガミ」だと感じていることについてのお話です。

犬は飼い主の鏡(カガミ)

グループ・レッスンでも、プライベート・セッションの際でも、途中で犬がとんちんかんなことをし始めたり、集中力を欠いてしまったりすることがあります。しかし、飼い主の方はというと、至って平静。でも、実は、この犬の行動の裏には、リーシを握る飼い主の心理状態が大きく関係しています。人間がいらいらしたり、不安になったり、他の事で頭が一杯になったりしたら、リーシの反対側にいる犬は、その人間の心理状態(エネルギー)を丸写しにした行動に出ます。そういう状態を見かけると、私は、すかさず飼い主に「何かに気を取られていますね?」と問いかけます。すると飼い主の方は「どうして分かったのだろう?」というような顔を見せますが、それは自分の犬が鏡になって飼い主の心理状態を教えてくれているからです。人間がいくら平静を装っていても、犬には隠せません。特に飼い主の心理状態は直接的に愛犬の行動に反映されます。
愛犬の問題行動がうまく改善できずに困惑している人に相談を受けたら、「愛犬は飼い主の鏡なので、愛犬の行動を見て、(飼い主の)進歩具合をはかってください」と話しています。すなわち、愛犬の問題行動が直らないのは、飼い主自身の本気度が足りていないからで、飼い主次第で、愛犬の問題行動は変わるということです。
「犬は鏡! と、常に忘れず思っているので、彼の行動で私達の本気度が分かります。思ったよりもっと、もっと、なんでしょうね。意外と奥深いので、その辺を心してやっていこうと思います。犬がきちんと『まだまだだよ!』と教えてくれているんですね。犬は本当に正直でありがたいです」。トレーニングを担当した、ある飼い主さんの言葉です。

犬は生き様の鑑(カガミ)

犬は、飼い主の心を映し出す鏡であると記してきましたが、私にとっては、犬は生き方の鑑(カガミ)です。すなわち、彼らは人生のお手本。犬は、過去を引きずらず、明日に不安を抱かず、とにかく今を一生懸命に生きます。しかし、我々人間はというと、ついつい昔のことにこだわったり、先のことばかり考えたり……。そんな時は、犬の生き様をお手本にすることを心に刻みます。今をしっかり生きることがすべてにつながる! と。
犬が、信頼したり尊敬したりするものを選ぶ尺度も私にとっては人生の鑑です。お金や名誉や学歴や美貌などはまったく関係ない。彼らが信頼し、尊敬する対象は、心身共に強く逞しく、常に冷静な判断が下せる精神の持ち主なのです。そういう要素を基準に、相手を信頼し、尊敬できるかをはかる犬は私には鑑です。
犬の考え方は、すべてが白か黒。行動も白か黒。グレーゾーンのない、直球勝負で生きる犬の世界は私には鑑です。そして、生きる姿勢の鑑である犬との暮らしは、私にとっては何ものにも代えることのできない貴重な財産です。
次回は、「迷い犬」と題し、もし愛犬がいなくなったら、また、飼い主とはぐれて路頭をさまよっている犬を見つけたらどうするかについてのお話です。お楽しみに!

犬をお手本にして生きたい
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てらぐちまほ在米29年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com