2014年12月5日金曜日

第75回「犬たちからのお願い」

今日は私たち犬から、犬をこよなく愛する人間のみなさんに「犬から切に思うお願い」というメッセージを送ります。少し厳しいことを話すかもしれませんが、私たち犬がみなさんと素晴らしい関係でいたいから伝えたいこと。その辺りをどうぞ理解してください。

お願い① :犬が大好きでも、決して衝動的に犬をゲットしないでください。犬と暮らすということは決して容易なことではありません。自分の生活のあらゆるものを犠牲にし、選択をしていかなければならなくなります。またお金もかかります。飼う準備が出来ているかしっかり考えて決断してください。もし犬と暮らすと決めたら、次はじっくり選択してください。流行ってるからとか、見かけが良いからとかでなく、自分のライフスタイルに合った犬種と性格を重視してください。また、簡単で便利だからとペットショップやオンラインで売ってる仔犬を買わないでください。パピーミルという酷い仔犬生産工場を奨励することになり、そこで可哀相な思いをしている犬たちを益々増やすことになります。周りの人や専門家に相談したりして、じっくり、ゆっくり犬探しをしてください。世の中には、1日も早く自分の家族と巡り会いたいと待っているホームレス犬が大勢いることも忘れないでください。

お願い② :私たちはぬいぐるみのおもちゃではありません。「当然でしょ」ですか?街で私たちをぬいぐるみのおもちゃ扱いしている人をよく見かけます。犬を「可愛いぬいぐるみ」のように捉えるのは人間だけです。犬同士は見かけの可愛さなど一切関係ないのをご存知ですか? 私たち犬同士で大切なのは、お互いの社会性や力関係です。見かけだけで「あの犬可愛い!」と考える犬は1匹もいません。犬は犬。5パウンドの小型犬も、130パウンドの超大型犬も、同じ犬という動物です。小さいからとおもちゃ扱いにしたり、甘やかし過ぎたりしないでください。躾や十分な運動を含め、犬として必要なことを与え、マナーある立派な犬に育ててください。

お願い③ :犬を愛するなら、どうぞ犬のことを勉強してください。私たち犬は周りの人間のことを毎日一生懸命勉強しているんです。どうすれば人間と上手くコミュニケーションが取れるんだろうと必死です。多くの人が私たち犬のことを十分理解していると勘違いしているように思います。また、犬のことを擬人化して考える人がいます。残念ながらどんなに愛し合っていても私たち犬と人間は同じ動物ではありません。そこをしっかり分かってください。違う動物だから面白いということが一杯あるはず。犬という動物を楽しんでください。

お願い④ :一度犬を飼うと決めたら、最後の最後まで面倒をみてください。「そんなこと当たり前」と言っている人でも、生活の変化があったり、気が変わったら私たちを簡単に手放してしまう人がいます。また、私たちが年老いて、最期を見届けるのが辛いと考える人もいます。でも、私たちが頼れるのは飼い主だけなんです。一生を共にした私たちの最期まで付き合ってください。犬としてそんなに嬉しいことはないのです。

私たち犬は人間が大好きです。だからこれからもずっとずっと仲良くしてください。

次回は、「愛犬と大陸横断」と題し、今年のビッグ・イベント、愛犬ノアとの「車でアメリカ大陸横断の旅」の体験記をお届けします。お楽しみに!


わたしたち犬からのお願いです

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てらぐちまほ:在米26年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project (www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。今は、15年住み慣れた東海岸を離れ、愛犬ノアとLAに移転して活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2014年11月5日水曜日

第74回「周りの人との関係」

「下の住人が闘犬のトレーニングをしていて怖くて住んでいられない」と苦情が出たとアパートの管理オフィスから連絡があったのは、愛犬ジュリエットとニュージャージーで暮らしていた頃の話。実は引っ越して来たばかりの上階の男性の誘いを断り続けた挙げ句に起こった一件でした。管理オフィスもその人の話を鵜呑みにせず、長期で住んでいる私の日頃の素行や、他の近所の人たちからの評判や情報で「嫌がらせ」と判断し、公平に処理してくれました。しかし、あいにくこの手の話は珍しいことではなく、犬の飼い主と周りの人との間で起こる問題をよく耳にします。無責任な飼い主のせいである場合もありますが、嫌がらせや濡れ衣の時もあります。世の中には犬嫌い・人嫌いで、文句を生きがいのように暮らしている人もいるのは事実。しかし、飼い主のちょっとした努力で防げる、また円滑にできることがあります。今回は、犬の飼い主と周りの人との関係についてお話します。

模範生になる

愛犬との大切な生活を守る術は大きく分けて二つ。一つは、飼い主が人一倍周りにフレンドリーになること。愛犬のフレンドリーさも大切ですが、飼い主のフレンドリー度は周りの人たちとの関係を円滑に保つためにとても重要。生活範囲が密接している近所の人とは言うまでもなく、散歩中に出会う人や配達の人などにもいい印象を与えていると、いざという時に得。もし愛犬が何か問題を起こしても、飼い主の日頃の印象で周りの反応は違うものです。そのためには、人とのコミュニケーションの達人になり、近所でも愛想が良いと評判の飼い主でいるように努めましょう。

もう一つの術は、愛犬の躾。言うまでもなく、愛犬が行儀の良い犬なら周りの人たちの印象は良く、問題がもち上がる確率も少なくなるでしょう。周りと上手く付き合っていくためにも、愛犬の躾は怠らない。

アメリカ社会やアメリカ人に押されがちな人も、決して圧倒されないで、相手が犬の知識に欠けていると思えば、堂々と教える側に立つ。「語学力が…」と引け目を感じず、犬を通して周りの人との会話を楽しみましょう。あまり日本人的になり過ぎないことです。

犬の飼い主の特典

犬を飼うと外に出ることが多いため、出会いが一杯で、道端で会話も弾みます。全く知らない人が、今は亡き愛犬の写真を見せ、話し込んできたり、毎日会う人とは犬の話から転じて井戸端会議。そんな会話から、色んな情報もゲットできたりします。また犬を通じてできる縁は、愛するものが同じという共通点からか、絆の強い関係が築ける気がします。

うちの場合、ピットブルという犬種から、周りの人との付き合いには、他の犬種の飼い主より数倍の努力を要します。この犬種にまつわる偏見から、愛犬ノアの性質を全く無視し、毛嫌いしてくる人たちに腹立たしさを覚えたり、また私は「ピットブルの飼い主」という看板を背負っているので周りの目に過敏になり、より模範犬に近づけなければというプレッシャーを感じています。幸い愛犬本人は自分の受けている差別もプレッシャーも全く感じていないのが救いですが、飼い主の私は、事あるごとに精神修業と、ピットブルの伝道活動です。しかし、その難点が「人の真の顔」を見せてくれる機会になり、偏見や見かけだけで物事を判断しない人たちと仲良くなれるという利点になっています。

周りの人との関わりに感謝し、円滑な関係を築いていけば、それがまた愛犬との絆も深め、より楽しい毎日につながるのではと思います。

次回は、「犬たちからのお願い」と題し、犬たちから大好きな人間に送るメッセージをお届けします。お楽しみに!


大好きな管理人さんとの写真撮影で大喜びの筆者の愛犬ノア

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てらぐちまほ:在米26年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project (www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。今は、15年住み慣れた東海岸を離れ、愛犬ノアとLAに移転して活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2014年10月5日日曜日

第73回「愛犬との関係」

こんなに愛情を注いでいるのになぜか愛犬はつれない態度で関係がちぐはぐ…と困惑状態の飼い主さん数人に出会う機会が続きました。切なく淋しい話です。また近所にはあれやこれや飾り立て、べた可愛がりで自慢の愛犬のはずが、犬のマナーが悪過ぎて近所で悪評をかい、落胆している飼い主が結構います。飼い主につれない態度の犬も、行儀が悪過ぎて嫌われる犬も、犬は犬なりに自己表現をしているわけで、「愛犬が必要とするもの」と「飼い主が良かれと思って提供しているもの」の間にギャップがあるために起こる現象です。同じ時間とエネルギーを使うなら周りに好感をもってもらえる犬に育て、愛犬と相思相愛な関係を築きたいものです。今回は、愛犬と飼い主の関係についてお話します。

愛情の小出し

初めて会う犬にやたらとこびるように接する人をよく見かけます。しかし、犬の反応はいまいちで、挙げ句の果てには「この犬フレンドリーではないですね」などと失望気味のコメント。それは犬のせいではなく、犬だって人に打ち解ける・信頼する・愛情を抱く時間が必要なのです。また、犬にもそれぞれ個性があります。初対面の犬とはあまり大袈裟な表現で接近したり、注意を引こうと一生懸命にならず、自然体で冷静にしていると興味のある犬は必ず近寄って来て調査します。恋の駆け引きではありませんが、Playing hard to get(もったいをつける)のような接し方の方が犬には楽なのです。

飼い主と愛犬の間でも、やたらにかまい過ぎ、注意を引こうとし過ぎで、飼い主がこびているような態度は犬に重さを感じさせてしまい、スペースを欲しがったり、信頼感を失わせたり、また飼い主の存在への価値を落としかねません。限りない愛情を小出しにして接する方が(特に最初は)スムーズな関係作りにつながることがあります。

「幸せな犬」論

Man's best friend(人間の親友)という有名なフレーズがあるように、巷には愛犬を親友と捉え、そういう関係作りをしている人もたくさんいます。しかし、私個人は、犬と飼い主の関係は親子関係だと考えます。なぜなら、犬は生活のすべてを人間に依存し、飼い主は100%の責任をもたされているからです。私の考える「幸せな犬」論は、犬を擬人化せず、犬の習性を理解し、犬の視点にたって飼い主の責任を果たしてくれる人間と一緒に暮らしている犬。また、犬の個性を客観的に見られる飼い主と暮らす犬。この持論を周りにも、また自らにも説いています。言うは易し、行うは難しかもしれませんが、「愛するもの=犬」を勉強し理解することが真の関係作りにつながると信じます。

愛犬との関係が親友であれ、親子関係であれ、飼い主として一番大切なことは、愛犬を責任をもって飼い遂げ、最期を看取ってあげることです。愛犬の命を最初から最後まで引き受けてこそ、本当に素晴らしい関係を全うしたと言えるのではないでしょうか。当たり前のように聞こえますが、世の中にはそれを全うできない飼い主が本当に多いので、飼い主として再度心に刻みたいことです。そのためには飼い主自身がくれぐれも自分の健康管理を怠らないことが大
切です。

次回は、「周りの人との関係」というテーマで犬を飼うことで出てくる人間関係について詳しくお話します。お楽しみに!


愛犬ノアと「一心同体」の関係でいるのが日頃からの目標

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てらぐちまほ:在米26年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project (www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。愛犬ジュリエットが他界した今は、ニューヨークに移転して新入り犬ノアと活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2014年9月5日金曜日

第72回「言葉・音・トーン」

犬は私たち人間が話す言葉を話しません。しかし、犬は飼い主や周りの人間に始終意思表示や感情の伝達をしています。そして、彼らは私たちがそのメッセージをどれほど正しく理解し、反応しているのかをしっかり見ています。犬の発しているメッセージをきちんと理解し、対応できるというスキルは、愛犬からの尊敬と信頼を得るカギとなり、飼い主としてのリーダーシップを示す大きな要素になります。もちろん私たち人間からも犬にたくさんの意思表示をするわけで、言葉で色々話しかけることも大切ですが、犬とのコミュニケーションにおいては、音やトーンを使い分けることで、より効果的な意志の伝達がはかれます。今回は、犬とのコミュニケーションの効果的な方法についてお話します。

自分の音を見つける

犬との「会話」において、音は大変有効です。それを利用したトレーニング方法にクリッカー・トレーニングがあります。カチッという音が鳴る道具を使い、犬が良い行動をした時に音で正の行動の強化をする方法です。正しい行動=カチッの音の連続で、犬は正の行動を頭に植えつけます。

私はレッスンの際にいつも、「愛犬とのコミュニケーションにおいて、正す時に常に使う『自分の気持ちがお腹の底から表現できる音』を見つけましょう」とお話します。カリスマ・ドッグトレーナーのシーザー・ミラン氏の正す時の音「シュッ」は巷でかなり有名になりました。私自身は「ア」と「エ」の中間くらいの音で「アアッ(エエッ)」を使用。他の例では「(鼻から)ウッ」「バッ」「ヘイ」「ヒュイ」と言う音があります。短く跳ねるような音が効果大。そして、大切なのは100%の気持ちが出る音であること。一般的に犬の耳には「NO(ノー)」という音はエネルギーが弱いと言われるため、正す際にはNO以外のものを使いましょう。犬の注意を引く時には「ツゥツゥ」「チュッチュッ」という唇を使った音や口笛などを使うと言葉で伝達するよりも反応が良いです。

私の経験から、日本人の飼い主はこういう音を使うのに抵抗があるようですが、恥ずかしがっていては損。大切なのは愛犬とより良いコミュニケーションがはかれることなので、人の目は二の次。また他人はこちらが意識しているほど関心を寄せていないものです。

メリハリをつける

犬は人間の発する言葉や音のトーンの違いでこちらの気持ちを汲み取ります。これをおおいに利用して犬とのコミュニケーションをはかると効果大。低音と高音のトーンの使い分けを明確にし、二重人格と思われるほどのメリハリをつけることでこちらの気持ちを伝達します。間違った行動を正す(冷静な低音)→ 犬が行動を直す→即座にほめる(喜んだ高音)という犬のしつけは、正す→ほめるの繰り返し。正したら即ほめるということを忘れない。「3秒ルール」を頭に置いて、即座の対応を心がけましょう。

ちなみに、犬をほめる際の音ですが、私自身は「グッド!」「よし!」「賢い!」と、こちらには言葉を使っています。あまり大袈裟に表現すると反応して興奮する犬も多いので、なるべく平静な態度で表現しましょう。

大阪で生まれ育った私は、気がつけばどんな犬にでも母国語の大阪弁で話しています。面白いもので、今まで大阪弁や日本語すら聞いたこともない犬たちもしっかり意思を汲み取ってくれます。それはきっと私の心の底からの気持ちが表現できているからでしょう。

次回は、「愛犬との関係」と題し、犬と飼い主の関係について詳しくお話します。お楽しみに!


首をかしげて一生懸命理解しようとする著者の愛犬ノア

てらぐちまほ:在米25年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project (www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。愛犬ジュリエットが他界した今は、ニューヨークに移転して新入り犬ノアと活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com


2014年8月5日火曜日

第71回「犬のグループ その8」

8回に渡りお届けしてきた「犬のグループ」の紹介記事、シリーズを締めくくる今回はノンスポーティング・グループです。ダルメシアン、チャウチャウ、ボストン・テリア、プードルと言った犬種が集まるグループですが、ドッグショーでこのノンスポーティング・グループの犬たちが登場した際、あまりにも容姿様々な犬種が揃うので「一体このグループの共通点はなんだろう?」と思ってしまいます。というのも、実は共通点は「犬であること」だけといっても過言ではなく、AKC*のグループ分けで他のどのグループにも属さない犬種たちを寄り集めて作られたのがこのノンスポーティング・グループというわけです。

多種多様

基本的にはウォーキング・グループでもスポーティング・グループでもない犬種が属するのがこのグループ。性質や用途が多様なら、犬たちの形態とサイズも色々です。小型では、ビション・フリーゼ、ラサ・アプソ、ミニチュア・プードルなど、中型では、柴犬、シャーペイ、ブルドッグ、アメリカン・エスキモー、キースホンドなど、そしてダルメシアン、チャウチャウなどの大型犬たちもこのグループに属しています。

多種多様なノンスポーティング・グループの特徴を一括してまとめられないので、ここではこのグループの中から数犬種の特徴をお話します。

ビション・フリーゼ:陽気で活発、まるでぬいぐるみのような愛らしい容姿と毛並みを持つこの犬種は、愛情深く、芸などの飲み込みも早い。サイズが小ぶりで、犬にアレルギーがある人でも平気なことが多い点からも愛玩犬として大人気。大変飼いやすい犬種だが、吠え癖があるのでその点はきちんとしつける必要あり。

ボストン・テリア:アメリカのボストンで生まれた犬種。ブルドッグとテリアの血を引くこの犬種は小型ながら筋肉質で頑丈。やんちゃで遊び好きな性質をもちながらも、非常に繊細な面があり飼い主の気分にとても敏感。少し頑固な面もあるが、学習能力は優れている。素早い動作と大きな目がチャーミングなこの犬種は家庭犬として今や大人気。

スキッパーキ:コンパクトで、ずんぐり正方形な胴体を持つこの犬種は、ベルギー産で、かつては番犬かつ害獣駆除犬として大活躍。独立心旺盛ながらも大変活発で元気一杯。愛想がよく楽しい家庭のペットになるが、知らない人・犬には警戒心を見せる一面も。

チべタン・スパニエル:名前の通りチベット原産のこの犬種はチベットの仏教信仰と密接な関係を持つ。獅子が重要なシンボルである仏教において獅子のような姿をしたこの犬種は特別に尊ばれてきた。飼い主に大変忠実で、伴侶犬かつ番犬の役目も十分こなすことができる。

ダルメシアン:アメリカでは「消防署のマスコット犬」として有名なダルメシアン。かつては馬車の伴走犬として上手に馬と足並みを合わせて伴走するので重宝されていた。たくましい骨格を持ち、筋肉質のこの犬種は並外れた耐久力を持つ。今では家庭のペットとして大変人気だが、ペットにする場合は毎日の運動を活力的に。聴力障害をもって産まれてくることがあるのでその際には特別な訓練・しつけが必要。

次回は、また犬とのコミュニケーションの話題に戻り、「言葉とトーン」について詳しくお話します。お楽しみに!

* AKC (アメリカン・ケネル・クラブの略)


ダルメシアンは産まれた時はみんな真っ白。生後3週間程度でスポットが現れる。


てらぐちまほ:在米25年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project (www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。愛犬ジュリエットが他界した今は、ニューヨークに移転して新入り犬ノアと活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com


2014年7月5日土曜日

第70回「犬のグループ その7」

映画「オズの魔法使い」のトト(ケアーン・テリア)、ドッグフード「シーザー」の看板犬
(“ウエスティー”ことウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア)、バドワイザーのスパッズ・マッケンジーにターゲットのブルズアイ(ブル・テリア)、ブッシュ元大統領家の愛犬バーニー(スコティッシュ・テリア)、TVショー「フレイジャー」のエディー(ジャック・ラッセル・テリア)など、テレビや映画、コマーシャルなどで大変人気者のこれらの犬たちが属するグループをAKC*ではテリア・グループと称しています。今回は、フランス語やラテン語で「大地」「地面」を意味するテリア・グループについてお話します。

「なんでもかかってこい!」

大地を意味するその名の由来は、テリア・グループの犬たちが地下に生息する害獣(主にキツネ、イタチ、モグラ、野ねずみなど)を、巣穴に潜り込み駆除していたことからきています。このグループの犬の容姿はバラエティーに富み、短毛・長毛、小型から大型、また短足・長足などさまざまなタイプがいます。どの犬種も体は筋肉質で丈夫、性格的には、どんなことにもひるまない頑固で強靭なところが特徴です。そんなテリア・グループの犬たちを象徴するに一番ふさわしい言葉は「Feisty(けんか早い、元気満々、怒りっぽい、独立心の強い)」。タフで恐れ知らず、競争心旺盛で勝気、いたずらっこ。容姿はさまざまでも、これがテリア・グループ全般に共通する気質でしょう。実は、トイ・グループに属し愛もこのテリア・グループの犬種であり、かつてはねずみ駆除で大活躍。テリア気質を大変顕著に備えています。

外観と中身の違い

このグループの犬の飼い主ま「外観」と「中身」の違いをしっかり把握するということです。テリア・グループの犬たちの中には愛くるしい容貌を持つ犬たちが多く、それゆえにメディア上での活躍も目立つのでしょうが、彼らの性格はその愛くるしい外観から大変かけ離れていて、犬の中でも大変気性の激しい性質を持っていることが多いのです。ジャック・ラッセル、ケアーン・テリア、ウエスティーなど小型サイズのテリアは、小さいサイズと愛くるしい容貌からか、かなり年配の方に慕われるようで、一緒に散歩している姿をよく目にします。しかし、個人的にこの組み合わせには少々の不安をおぼえます。大抵の場合、テリアたちが前をぐんぐん突き進んで歩き、激しい吠え声をあげて飼い主を守っていたりしています。飼い主としてテリア気質を制御するには彼らのエネルギーを上回る熟練されたスキルが必要です。このグループの犬種は、愛玩犬とは違うことを理解しておかねばいけません。また、飼う前に自分のライフスタイルの再確認をする必要があります。犬の中でも気性も行動も人一倍激しいテリア・グループ。彼らはかなりの運動量と頭の刺激、そして熟練したリーダーが必要です。そんなテリアたちには遊び好き、活発、寛大な人が合います。また、このグループの犬たちのプレイ・ドライブ(捕食本能)は他の犬種よりも強く、小動物との共存には注意と監視が必要です。また他の犬への攻撃性も高いということも理解しておいた方が賢明でしょう。こういう性質から、彼らには熟練された飼い主による日々のトレーニングが不可欠となるのです。私はこのやんちゃで気の強いテリア気質が大好きです。

次回は「ノンスポーティング・グループ」について詳しくお話します。お楽しみに!

* AKC(アメリカン・ケネル・クラブの略)


著者が「テリアの中のテリア」と考えるジャックラッセルテリア


てらぐちまほ:在米25年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project (www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。愛犬ジュリエットが他界した今は、ニューヨークに移転して新入り犬ノアと活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com


2014年6月5日木曜日

第69回「犬のグループ その6」

「この犬、なぜか子供たちや私のかかとを鼻で突いたり、軽く噛んだりするんです」と困惑した顔で話す飼い主に遭遇することがあります。そんなコメントを発する飼い主の愛犬は、キャトル・ドッグやコーギー、オーストラリアン・シェパードなど。どうしてそんなことをするのか? それは彼らの遺伝子の中にある「家畜の群れを整頓する」という仕事意識からくるものです。家庭でペットとして飼われていても、自分の守る集団から一人がはぐれたり、別行動を取ると、「集めなければ」という仕事意識がどうしても出てしまうのでしょう。そこで、犬は家畜にするのと同じように子供などの足元を突いて、こちらに動けと合図するのです。今回は、羊や牛などの家畜をまとめて誘導させたり、見張ったりする牧畜犬として改良され、長い間人間に仕えてきたハーディング・グループについてお話します。

仕事をください!

ハーディング・グループの犬たちほど仕事意欲に燃え、働いている時に一番生きがいを感じる犬たちはいないのではないでしょうか。先日ドッグショーに行った際、このグループの中でもダントツに仕事熱心なボーダー・コリーによるデモンストレーションがありました。デモンストレーションそのものの素晴らしさよりもっと驚いたのが彼らの仕事欲でした。ステージわきで出番を待つ犬たちの興奮度はマックスを超え、ワンワン大きな声で全員が吠えたて「早く働かせて!」と必死で叫んでいるようでした。そして、いざハンドラーが綱を放した瞬間、全身の力を集中させて、一目散に与えられた仕事をこなしていました。

このグループには上記にあげた以外にベルジアン・マリノア、ベルジアン・タビューレン、ジャーマン・シェパードなどがいます。牧畜犬としての主な仕事は、家畜を移動・誘導させる仕事と害獣からの見張り業から成り立ちますが、中には牛の群れを誘導し、害獣から守り、農場をも警備しながら荷車まで牽引するブービエ・デ・フランドールなどのように牧畜業の仕事全般を受け持つ万能犬もいます。

肉体運動と知的運動が必須

このグループの犬たちは放牧業の盛んな地域では作業犬として仕えていますが、近年牧畜犬の需要が減った地域では、家庭のペットとして飼われるケースが増えました。彼らは大変聡明で飼い主に忠実です。しかし、ペットとして飼う際には気をつけなければいけない点があります。

このグループの犬に共通する注意点は、アパートメントなど狭いスペースの住居で飼うことが適していないということです。ある程度動き回れるスペースが必要な彼らにとって、狭いスペースに閉じ込められることは大きなストレスの原因になります。

また仕事欲が非常に強く、疲れ知らずに頑張る犬たちなの、その仕事欲を心身共に満たしてあげないといけません。莫大な量の肉体運動はもちろんのこと、服従訓練や群れを動かせるような競技運動もさせてあげることが彼らを心身共に喜ばせる秘訣です。彼らをペットとして飼うには、かなりの覚悟と準備が必要で、ハイメインテナンスであることを認識せずに飼ってしまうと、彼らのニーズに合わせるのが苦になり、また犬もストレスをため、お互い幸せに暮らせない悲劇を迎えてしまいます。見知らぬ人には警戒心を抱くことがありますが、反対に飼い主には忠誠を誓い、従順で行儀のよい伴侶犬となれるハーディング・グループは、愛犬と訓練や競技を楽しみたい飼い主にはまたとない選択でしょう。

次回は「テリア・グループ」について詳しくお話します。お楽しみに!


パピーの頃からしつけをしっかり受けたジャーマン・シェパード。いつも赤ちゃんの子守役。


てらぐちまほ:在米25年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project (www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。愛犬ジュリエットが他界した今は、ニューヨークに移転して新入り犬ノアと活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2014年5月5日月曜日

第68回「犬のグループ その5」

先日、マンハッタンにある勤務先のシェルターに、大都会には珍しい犬種が保護されてきました。ジャーマン・ショートヘアード・ポインターです。普通なら、小さな顔に、長い足、そして筋肉質の体に深い胸とアスリート体型なのですが、保護されてやってきた犬はかなり肥満気味で、若いのに行動もノソノソという感じでした。元々この犬種は一日活発に猟場で仕事をするために改良されてきた犬種です。毎日走り回ったり頭を使ったり心身の運動量をかなり必要とする犬種。果たしてマンハッタンの大都会で満足できる生活を送っていたのだろうか? などと、数人のシェルター関係者で「場違いな環境」にいるその犬の大都会での生活を想像していました。

その昔、人間は狩猟の際に綱などを使って獲物を捕らえていましたが、銃猟が主流になってから狩猟の様子も変わり、同時に猟を共にし、猟師を助ける犬たちの仕事内容も改良されてきました。銃による鳥猟を共にするために改良されてきた犬種たちをイギリスではガン(銃)・ドッグと呼び、AKC(アメリカン・ケネル・クラブ)ではスポーティング・グループという名称で呼んでいます。今回はその鳥猟のために改良されてきた犬種が属するスポーティング・グループについてお話します。

探し屋・回収屋

鳥猟を共にするスポーティング・グループは、獲物の場所を知らせる「探し屋」と、打ち落とされた物を回収してくる「回収屋」に分かれます。探し屋は、獲物を見つけたら、その居場所を吠えて知らせるのではなく、体勢で知らせます。見つけたら片足をあげ獲物をポイントして知らせる犬がポインターで、獲物の場所を伏せて教える犬はセッターです。

一般にポインターと言えばイングリッシュ・ポインターのことを指し、他には上記で触れたジャーマン・ポインターなどがいます。セッターには、アイリッシュ・セッター、イングリッシュ・セッター、ゴードン・セッターなどがいます。また、猟師が獲物を仕留めやすいように動いて獲物を興奮させ、猟師の近くにおびき寄せて猟の手伝いをするスパニエル系の犬種たちもいます。猟師が撃ち落とした獲物を回収してくる回収犬は、水に強いリトリバー種やウォータードッグたち。この回収犬たちは、落ちた獲物をいち早く見つけ、大きな獲物でも丁寧にくわえて猟師の下に持って来るのが役目。ラブラドル・リトリバー、ゴールデン・リトリバー、チェサピーク・ベイ・リトリバーなどが代表選手でしょう。

陽気で活発かつ温厚

上記で紹介した犬たちは、獲物を狩るために改良されたのではなく、探したり回収したりが本来の仕事であるため、攻撃性が低く、全般に温厚な性格かつ飼い主への服従性が高いのが特徴です。また、気質が安定しているために、ペット犬として人気のあるグループです。特に、ラブラドル・リトリバーは、アメリカでは常に人気ランキングのトップを占めています(AKC調べ)。しかし、もともと猟師と一日猟を共に、猟場で忙しく元気に動き回って満足度を高めてきた、このグループの犬たちです。家庭のペットになっても、十分な運動量と心身の刺激を与えてあげないと肥満などからくる健康問題や、退屈からくる問題行動も出てくる可能性が高いでしょう。回収犬たちにはボールやおもちゃなどを取って来る機会を一杯与えてあげること。カウチポテトより断然アウトドア派向きのスポーティング・グループの犬たち。学習能力が高く、服従性に優れているので、飼い主の役割をきちんとこなせば愛犬は楽しい生活を運んで来てくれるはず。

次回は「ハーディング・グループ」について詳しくお話します。お楽しみに!


全米人気犬種第一位のタイトルを保持するラブラドル・リトリバー


てらぐちまほ:在米25年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project (www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。愛犬ジュリエットが他界した今は、ニューヨークに移転して新入り犬ノアと活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

『 犬を学ぼう!』講習会をマンハッタンにて開催。詳細は www.doggieproject.com/lecture


2014年4月5日土曜日

第67回「犬のグループ その4」

現在私が住んでいるニューヨーク市では、マルチーズ、チワワ、シーズー、プードルなどの小型犬が人気で、街でたくさん目にします。地下鉄の中で小さなバッグに入って移動する小型犬に出会うこともしばしば。小型犬人気は、全米でも日本でも住宅事情などからくる都会ならではの傾向でしょう。中でも、”ヨーキー“の愛称で知られるヨークシャー・テリアのニューヨークでの人気度は高く、去年の9月にはマンハッタンのヨーキー崇拝派が「世界一大きなヨーキーの集まりを!」とソーシャルメディアなどを通して近辺の飼い主たちに大会実施を呼びかけたという話もあります。今回は、都会で人気の犬種である小型犬、別名トイ・グループについてお話します。

体は小さくても

トイ・グループの犬たちはすべてスモールサイズ。このグループに属する犬種は、中・大型犬の他犬種の原型から徐々に年月をかけて小型化されたと伝えられています。今ではほとんどのトイ・グループの犬たちが人間のコンパニオンや愛玩犬と化していますが、彼らもその昔は、害獣駆除、水中回収犬、ねずみ取り、小動物の狩猟などで人間のために一生懸命働いていました。ニューヨーカーのアイドル的存在のヨーキーもその昔は使役犬で、それもイギリスのヨークシャー地方の労働階級が、ねずみ駆除のために作り出した犬種と聞けば驚く人も多いはず。

このグループの中には、大型犬をもぎゃふんと言わせるくらい勇敢に向かっていく気心を持った犬も多いのは、かつて使役犬として活躍していた頃の気質がしっかり残っているせいでしょう。ただ、愛くるしい外見と小さなサイズから、人間は早くからこのグループの犬たちを使役犬よりも人間の生活上の装飾や愛玩のためとして飼うようになりました。その代表的な例が、ペキニーズ。その昔、彼らは中国の王朝宮廷でのみ所有できる犬種とみなされ、皇族が至れり尽くせりで溺愛していたと言われています。

動くぬいぐるみ

セレブたちがトイ・ブリード(犬種)の愛犬を飾り立て、まるでアクセサリーか何かのように楽しむ姿を見て「私も!」と飼い始めた人も多いはず。そういう私もシェルターで小型犬たちに「こんな可愛い服があるよ!」とまるで着せ替え人形のように飾ることもあり、巷のトイ・ブリードの飼い主がお人形のように扱っている気持ちもわからないではありません。確かにこのグループの犬たちには独特のキュートさがあり、「動くぬいぐるみ」とでも錯覚させるような魅力を持ち備えていると思います。

しかし、忘れていけないのは、そう思っているのは人間だけということ。犬たちは自分たちのことを正真正銘の犬ととらえているので、犬と飼い主との間に大きな見解の相違ができてしまいます。この相違によって問題行動を起こす小型犬がたくさんいます。そういう意味では、「トイ・グループ」という名称にも問題があるのではないでしょうか。これが人間に誤解を招き、犬との間に大きなギャップを与えてしまっている理由の一つではないかと思います。彼らも他の犬種と同じく、外での散歩に運動、しつけと訓練、心身の刺激、社会性を学ぶ機会などが必要です。これらが満たされてこそ犬は犬として一番の幸せを感じるのであって、いくらトイのように見えても犬であることを忘れずに、外見に惑わされず、犬としてのニーズを満たしてあげられるのが真の飼い主です。

次回は「スポーティング・グループ」について詳しくお話します。お楽しみに!


非公式ながらニューヨーク市犬の「ニューヨーキー」


てらぐちまほ:在米25年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project (www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。愛犬ジュリエットが他界した今は、ニューヨークに移転して新入り犬ノアと活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

『 犬を学ぼう!』講習会をマンハッタンにて開催。詳細は www.doggieproject.com/lecture


2014年3月5日水曜日

第66回「犬のグループ その3」

前回紹介したハウンド・グループの犬たちは、主に狩猟犬として、世界各地で狩りの手伝いに欠かせない存在として仕えていますが、狩猟以外の幅広い分野で仕事をしながら人間の生活を支えている犬たちがいます。AKC(アメリカン・ケネル・クラブ)では、それらの犬種をワーキング・グループと称し、狩猟用の犬種と区別しています。今回はその犬たちについてお話しします。

体も気持ちも大きく頑丈

ワーキング・グループの特徴は、体格の大きさと頑丈さ、そして勇敢さでしょう。雪山、氷河、急斜面の山岳、凍る海、また戦火の真っただ中など過酷な条件下で仕事をこなすため、このグループの犬たちは心身共に丈夫でなければいけません。

北極圏の厳しい寒さの中でそり引き犬として活躍するシベリアン・ハスキーやアラスカン・マラミュート。護衛犬や番犬として、また軍用犬、警察犬として人間の生活を守り続けているグレート・デン、ドーベルマン・ピンシャー、ロットワイラー、そしてマスチフ種の犬たち。雪山の救助犬として活躍するセント・バーナードや、アルプスの厳しい山の中でけん引犬として大きな荷物運びを助けるバーニーズ・マウンテンドッグ。厳寒や悪天候、また険しい山岳の中で羊などの家畜を守ってきたグレート・ピレニーズ。水をこよなく愛することから水中での作業に従事するポルトギース・ウォーター・ドッグやニューファンドランド。

これらの作業犬・使役犬は、厳しい状況の中でも懸命に働き、それらの仕事に従事する人々には不可欠な存在であると同時に、より頑丈で勇敢、判断力に優れ、高い知性を持ち備える犬種として改良されてきたのです。

家庭のペットに?

これらのワーキング・グループの犬を作業や使役目的ではなく、家庭のペットとして迎え入れる場合、注意しなければならない点があります。ほとんどの犬種は体が大きく、スタミナに溢れているので、飼い主自身も体力に自信がなければ十分な運動と刺激を与えてあげられないでしょう。また、子犬のころから社会性を養える機会を十分与え、基本マナーを習得させるための訓練もしっかり行うこと。さらに体が大きくなる将来に備えて、周りに対してフレンドリーで、飼い主が楽にコントロールできるようきっちりしつける必要があります。

また、彼らは飼い主からの指示を忠実に従う傾向を持っていますが、飼い主のことを十分に信頼・尊敬し、従えるリーダーだと判断できなければ、自分たちの独自の判断で行動しかねません。さらに、飼い主への忠誠心が非常に強いことから、護衛力が行き過ぎ、いったん守ると決めたらなかなか引き下がらないという性質も持っています。

そんな頑固で強い性格の犬をコントロールするには、ある程度の犬の飼育の経験と知識がなければ飼い主に大きな負担となる可能性があります。残念ながら初心者には不向きな選択でしょう。もし、家族として迎え入れるとするなら、事前にワーキング・グループの犬種を熟知した専門家や飼い主からしっかり情報を入手するのが賢明です。とはいえ、仕事命で忠誠心の大変強いワーキング・グループの犬たち。知識・経験・体力的に相性が良く、これらの犬種たちの要求を満たせる能力があるなら、一度は飼ってみたい夢の犬種かもしれませんね。

次回は「トイ・グループ」について詳しくお話しします。お楽しみに!


雪山で遭難者を助ける仕事に従事するセントバーナード


てらぐちまほ:在米25年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project (www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。愛犬ジュリエットが他界した今は、ニューヨークに移転して新入り犬ノアと活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

『 犬を学ぼう!』講習会をマンハッタンにて開催。詳細は www.doggieproject.com/lecture


2014年2月5日水曜日

第65回「犬のグループ その2」

去年の11月にペンシルベニア州で行われたナショナル・ドッグ・ショーの優勝者は、アメリカン・フォックスハウンドのジュエル(写真参照)でした。彼女の属するハウンド・グループから優勝者が出るのはこの大会始まって以来のことらしく、ジュエルはその快挙を見事に成し遂げたのです。テレビにかじりついていた私も、素晴らしいスタイルでさっそうとリング内を小走りする姿に見ほれ、「この犬が優勝するのでは?」と思っていたらずばり当たりでした!今回はそのジュエルが属するハウンド・グループについてお話しします。

抜群の嗅覚・視覚

ハウンド・グループは、大きく分けると①セント・ハウンド(嗅覚に非常に優れた犬種)と②サイト・ハウンド(飛びぬけた視力を持つ犬種)の二つに分けられます

セント・ハウンドは、鋭い嗅覚を活用して獲物を追跡する目的で改良され、長い間狩猟犬として人間に仕えてきました。現在では、狩猟以外にも麻薬捜査犬や逃亡者・失踪者探索犬としても活躍してます。このグループの犬は垂れ耳の犬が多く、ビーグル、バセット・ハウンド、ブロッド・ハウンド、ダックスフンドなどが含まれます。セント・ハウンドは、遠吠えのような声も使って獲物を追いつめるところから、吠え声が非常によく通ることでも知られています。ビーグルはサイズも小ぶりで、アパートでペットとして飼う人も多いですが、この遠吠えが近所との問題になることもあります。

サイト・ハウンドは、優れた視覚を利用し、遠い距離から見つけた獲物を抜群の瞬発力で追いかけ仕留めることができます。このグループの犬種は、すらっと脚が長く筋肉質でやせ型が特徴です。グレー・ハウンド、サルキー、アフガン・ハウンド、ウィペット、ボルゾイなどがこのグループに含まれます。これらの犬種をペットとして飼う場合、独立心が強く、また小動物を追いかける習性があるケースが多いことを覚えておく必要があるでしょう。セント・ハウンドとは反対に、吠えることが少ないので、都会の住宅街で暮らす際の利点になります。

ハウンドの抱える問題

ハウンド・グループの中には、一番先に人間に家畜化された犬種がいくつか存在し、このグループの犬たちは長い間、人間の生活を支えてきました。現在も狩猟以外の場で引き続き、さまざまな形で人間に仕えるハウンドですが、同時に彼らへの非人道的な扱いが問題にもなっています。世の中には、人間のより良い生活のため、実験に使われる動物がたくさんいますが、犬の代表選手は、ハウンド・グループのビーグルです。扱いやすいサイズ、人間に従順で温厚な性格であること、多産で食欲旺盛という理由などから、動物実験に一番適した犬種として世界中で使われています。それらは、実験用に繁殖・飼育され、さまざまなテストの実験台になり、ペットとして飼われることもないまま一生を終えます。

人間は娯楽のために多くの動物を利用しますが、世界で一番俊足のグレー・ハウンドの競犬レースもその一例。レース犬は2歳前後から訓練されレースに出場、4歳から6歳で引退します。優良なレース犬は引退後も繁殖犬として使われますが、ほかの引退犬はほとんど殺処分されてきました。その非人道的な扱いに、動物愛護団体などが動き、ここ近年、レースを引退したグレー・ハウンドを家庭のペットにという活動が行われています。ペットとして飼われているグレー・ハウンドの多くは、レース場でのその姿とは正反対に、おとなしく手間のかからない犬が多いので、ローメンテナンスな犬が好みの人におすすめの犬種です。

次回は「ワーキング・グループ」について詳しくお話しします。お楽しみに!


SeeSpotRun Photo at The National Dog Show Presented by Purina

てらぐちまほ:在米25年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project (www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。愛犬ジュリエットが他界した今は、ニューヨークに移転して新入り犬ノアと活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

『 犬を学ぼう!』講習会をマンハッタンにて開催。詳細は www.doggieproject.com/lecture

2014年1月5日日曜日

第64回「犬のグループ その1 」

アメリカのサンクスギビング・ホリデーの定番と言えば、七面鳥、パンプキン・パイ、メイシーズ・サンクスギビング・デー・パレード、フットボールなどでしょうが、ここ数年の我が家の定番はテレビ中継されるドッグショーを観ることです。今年もお昼2時間テレビにかじりつきいろんな犬種を勉強しました。現在、世界中で300から400もの犬種が存在します。この世の中で、犬という動物ほどそのサイズの大小から形や毛並みなどバラエティーに富んだ動物はいないでしょう。それは人間が長い年月をかけてそれぞれの役割に合ったさまざまな犬種を作り上げてきたからです。今号から、AKC(アメリカン・ケネル・クラブ)が分類した犬の7つのグループについてお話しします。まずは各グループの概要を説明します。

ハウンド・グループ:あらゆる狩猟の手伝いのために改良された犬種が集まるグループ。一番古くから存在している。大きく分けて、臭覚に非常に優れた犬種(セント・ハウンド)と視覚力が飛びぬけた犬種(サイト・ハウンド)の2種からなる。ビーグル、グレー・ハウンド、バセンジ、サルーキなど。

ウォーキング・グループ:人間のあらゆる仕事(警備や護衛、そり引き、救助活動など)を支えるために品種改良された犬種が集まるグループ。力強さと勇敢さが特徴。セント・バーナード、シベリアン・ハスキー、ロットワイラー、ニューファンドランドなど。

トーイ・グループ:全体にサイズが小さいのが特徴。かつてはそれぞれの役割を持ち人間に仕えていたが、年月と共に人間の愛玩用、装飾用として繁殖されている。チワワ、ヨークシャ・テリア、ペキニーズ、パグなど。

スポーティング・グループ:総合的に活発で機敏、社交性のある犬種が集まるグループ。ポインター、リトリバー、セッター、スパニエルなどから成り立つグループ。コッカー・スパニエル、アイリッシュ・セッター、ラブラドル・リトリバー、ポインターなど。

ハーディング・グループ:羊や牛などほかの動物の群れをまとめる仕事をするために品種改良された犬種が集まるグループ。聡明で飼い主に忠実なのが特徴。コーギ、ボーダー・コリー、ジャーマン・シェパード、シェットランド・シープドッグなど。

テリア・グループ:独立心が強く、エネルギッシュ。行動が激しく、目的を果たすまでなかなかあきらめない。ミニチュア・シュナウザー、アメリカン・スタッフォードシャー・テリア、スコティッシュ・テリア、ボーダー・テリアなど。

ノンスポーティング・グループ基本的にほかの6つのどのグループにも属さない犬種が集まるグループ。チャウチャウ、ダルメシアン、柴犬、フレンチ・ブルドッグなど。ここで紹介したグループ分けはあくまでAKCの分類で、世界のほかの地域ではそれぞれの団体なりに犬種を認め、またグループ分けもかなり異なっています。

以前はドッグショーと聞くと、気位の高いブリーダーや飼い主たちが大金かけて飼育した純血統種の犬たちの集まりという印象があり、近寄り難く思っていましたが、数年前にひょんなことから見物したドッグショーで考えがすっかり変わりました。普段はテレビや本でしかお目にかかれない珍しい犬種をはじめ、本当に数多くの異なった犬種と一気に会える大変「おいしい」機会であり、また特定の犬種をこよなく愛するブリーダーたちから貴重な話が聞ける勉強の場でもあります。犬好きには天国のような催し、機会があればぜひ見に行ってください。

次回は「ハウンド・グループ」について詳しくお話しします。お楽しみに!



「Meet the Breeds」


てらぐちまほ:在米25年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project (www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。愛犬ジュリエットが他界した今は、ニューヨークに移転して新入り犬ノアと活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

『 犬を学ぼう!』講習会をマンハッタンにて開催。詳細は www.doggieproject.com/lecture