2016年12月5日月曜日

第98回「エモーショナル・サポート・ドッグ」

少し前に、朝のテレビ番組「TODAY」を観ていたら、エモーショナル・サポート・ドッグというシステムを悪用し、必要のない人が愛犬を公共の場に堂々と同伴させ、他人に迷惑をかけている事件が氾濫していると報道されていました。しかし、別の番組では、必要な人がエモーショナル・サポート・ドッグを連れて外出したら、店から「犬禁止」と追い出され、大変困ったというニュースも見ました。一方では、システムを乱用し他人に迷惑をかける人がいて、他方では、思うようにシステムを利用出来ず、困っている人がいる…。今回は、最近世間を騒がせている「エモーショナル・サポート・ドッグというシステム」の大切さと問題点を探ってみます。

犬の力

 エモーショナル・サポート・ドッグ(またはエモーショナル・サポート・アニマル)とは、精神的な病気(鬱病、パニックアタックなど)で苦しむ人を精神的に支える犬のことで、特に資格などなくても、病人の助けになるということを医師が認めたら、正式に利用できるシステムです。犬好きには、犬の存在の大きさ、また犬を撫でたりするだけで得られる心の平穏は、言うまでもなく理解できると思います。世の中には、精神的に病み、苦しむ人が数多く存在し、そんな人たちにとって「存在だけ」「撫でるだけ」で薬以上の助けになるのがエモーショナル・サポート・ドッグ。現在、多くの人がこのシステムを利用することで、感情のバランスを保ったり、心の平穏を得たりするのに役立てています。しかし、ここ最近、この便利なシステムに目をつけ、悪用している人間も増えています。オンラインで安価で簡単に非公式な認定証を入手し、「病に必要」と平気な顔で自分の愛犬を飛行機の乗客席に連れ込んだり、レストランで一緒のテーブルで食事をしたり。しかし、それらの家庭犬は、公共の場で邪魔にならない厳しい訓練を受けたサービスドッグのように平静に振る舞えないことがあり、周りに迷惑をかけるケースが多発しているようです。

人間の勝手

 愛犬ノアは私にとっての世界で唯一のエモーショナル・サポート・ドッグです。彼の存在が、どれだけ日々のストレスや不安・心配・喜怒哀楽の感情のコントロールのバランスを保つために役立っているか…。しかし、私は医師に診断された心身を病む患者ではありません。ネットで非公式の認定証を入手し、ノアを無料で飛行機の座席の横に乗せるような試みはしません。誰も彼もが、きちんとしたステップを踏まずに、安易に、自分勝手にシステムを乱用すると、不必要な問題が起こってしまいます。それに歯止めが効かなくなると、「システムすべて」が廃止になりかねません。そういう人たちのせいで、本当にエモーショナル・サポート・ドッグの力が必要な人たちや、果てには、常識ある犬の飼い主が迷惑するはめになるのです。関係機関は、本当にエモーショナル・サポート・ドッグを必要としている人たちを守るために、認可方法の再検討と、システム管理の強化をする必要があると思います。
 愛犬との暮らしは、自分と愛犬だけの世界ではなく、周りと平和に共存できてこそ、快適なのです。犬の飼い主一人ひとりが、大きな目で物事の判断をすることが、愛する犬を守るのだということを再認識したいものです。
 次回は、「愛情の定義」と題し、愛犬を愛するとは? というお話です。お楽しみに!

システムの悪用・乱用が、本物に悪影響を与えることにもなる

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てらぐちまほ在米28年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com