2015年12月5日土曜日

第87回「嫌な犬」

迷惑ジャック 

ジャックは、斜向えに住む10歳のオスのジャック・ラッセル・テリアです。新居に引越してきた日に、何も知らずジャックの家の前を通りました。すると、窓をガッツンガッツン叩きながら窓越しに私に吠えかかる犬が。それがジャックとの初対面でした。嫌な予感がしましたが、的中。ジャックはとにかくうるさい犬で、彼の家の前を通る犬に、子供に、大人に、物音に、何にでも過敏に反応し、けたたましい声を上げ、玄関の鉄の網戸や窓をバンバン叩き吠え叫びます。前を通るものは迷惑極まりません。 また、ジャックの飼い主が外出すると、今度は「文句吠え」が始まります。戸が閉まった途端、「おい!俺を残してどこに行く!戻って来い!いい加減にしろ!」と言わんばかりの金切り声で吠え叫び続けます。 しかし、ジャックの飼い主が「No」「Stop」「Enough」などとジャックの行動を正すところを見たり聞いたりしたことがありません。

犬だから…

ジャックの飼い主は、愛想のよい優しそうな若いカップルで、近所付き合いも「上手く」やっています。ジャックのことも、可愛い洋服を着せ換え「可愛がって」います。ただ、散歩や運動はというとトイレのため程度で、敷地外で散歩をしている彼らと出くわしたことはありません。ジャック・ラッセル・テリアの気質を知っている人なら、この犬種がどれ程の体と頭の刺激を求めているかが分かると思いますが、生憎ジャックにはそれらが与えられていないようです。そうして溜まったストレスを吐き出す方法が「異常吠え」。さらには、その問題行動さえ正されないという悪循環の毎日です。

もしこれが人間の子供だとしたら…。家の前を通る犬や人に暴言を叫び続けたり、家族が出て行った後、大声で文句を叫びまくったら、大抵の親は子供を叱り、諭すのではないでしょうか?それが、犬だと「いいか」で済むものでしょうか。ジャックに関してはなぜここまで放任なのだろう?と不思議になります。これくらいの吠えは犬だから仕方ないと思っているのか、迷惑は分かっているけど、何をしていいのか分からずここまで来てしまったのか、はたまた、「愛犬は生きたいように生かせたらいい」と言う自由尊重主義なのか。ラッキーな彼らは、近所がみんな寛大だから、今ままで大きな問題にならずに来たのでしょうが、場合によっては警察沙汰になったり、引越し要請が出たりという可能性もあり。そんないざこざが起こってしまったら、困り果てた挙句にジャックをシェルターに連れて行くのでしょうか。可愛い愛犬にはどうしても厳しくなれないと放任していることで、吠えてるジャック自身も、毎日ものすごいストレスになっているということを飼い主が理解してあげるべきです。

飼い主次第で

私は本当に犬が好きです。この世の中の何よりも好きです。ただ、社会性が養われていない、嫌な面ばかりを出している犬は、犬が大好きだからこそ苦手です。犬にいい姿を思い切り出させるか、醜い動物に豹変させるかは一緒にいる飼い主一つ。飼い主の育て方で全部変わります。犬は飼い主を選べません。ジャックも、もし他の飼い主のところで暮していれば、または、飼い主が奮起していれば、彼の良いところをふんだんに見せて、周りに好感を持たれる犬となれるでしょう。犬としてもっと幸せな日々を過ごせる可能性があるのに…と思うと不憫でなりません。いつか何かのきっかけで飼い主が奮起することを願うばかりです。

次回は、「シェルターを離れて…」と題し、14年間通い続けたシェルターでの活動から離れて一年経った今の気持ちについてのお話です。お楽しみに!


窓越しにノアと私を「攻撃する」ジャック

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てらぐちまほ在米27年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2015年11月5日木曜日

第86回「カリフォルニアのビーチ事情」

颯爽とかっこよくサーフボードに乗りサーフィンする犬。砂浜で仲間と楽しそうにたわむれ、水しぶきを浴びながら海の中に走って行く犬。真っ赤なサンセットを背中に飼い主とのんびり砂浜を散歩する犬。カリフォルニアのビーチでは、犬と飼い主が、生活の一部として海を満喫しているイメージがありますが、実はそうではないのです。今回は、意外なカリフォルニアのビーチ事情についてお話します。

行けども行けども

ジュリエットを飼い始めた直後のことです。「さあ、憧れだった”愛犬とビーチで海水浴“を楽しもう!」と意気込んで車を走らせ海に向かいました。下調べもせずに行ってみると、どこもかしこも「犬禁止」のサインが。ジャージー・ショアと呼ばれるニュージャージー州の長い海岸線のビーチを上から一つ一つ当たりましたが、行けども行けども「犬禁止」。唯一OKだったのが、州立公園のビーチのみ。それからと言うもの、泳ぐのが大好きだったジュリエットを連れて行くのは、もっぱら山の中の川か湖でした。 

ニューヨークに越してからも、事情はほとんど変わらず、数少ない「犬天国ビーチ」であるファイアー・アイランドにだけノアを何度か連れて行きました。この島に行く公共のフェリーボートには犬が同乗でき、「DOG」と記された犬用の切符と犬の料金もあり、そのドッグ・フレンドリーさには顔がほころびました。

犬天国ビーチ

さて、カリフォルニアで見つけた今の住居。付近にある数々の絶景のビーチへは20~30分の距離という便利さ。しかし、「カリフォルニアのビーチは犬と飼い主の生活の一部」というイメージはほぼ夢であったことが判明。所変わっても事情は同じで、衛生面の理由からほとんどのビーチが、砂浜と海水への犬の立ち入りを禁止しています。

そんな犬に悪状況のカリフォルニアでも、評判高いドッグビーチがあると噂を聞きました。一つはLong Beach Dog Beach (www.hautedogs.org/beach.html)。もう一つは、Huntington Beach Dog Beach (www.dogbeach.org) です。この二つのビーチでは、犬も自由に砂浜を駆け回り、海に入ってじゃぶじゃぶ泳ぐことが出来ます。週末はもちろんのこと、平日でも、これらのビーチには、海と自由を満喫する犬とその飼い主がたくさん訪れ、いつもにぎわっています。しかし、美しいカリフォルニアのビーチを犬天国と楽しめるのも、その裏で多大な努力をしている人々がいるからです。これらのドッグビーチは、犬と海をこよなく愛するボランティア団体によって作られ、守られています。彼らが市を説得し、権利を勝ち取ったと言っても過言ではないのです。犬が入れるエリアはきちんと区切られ、また、そのエリアの使用に関して厳しく細かいルールが設けられています。ルールが守れないなら立ち入り禁止。まさしく、それは、海と犬を愛する人たちの自由を守る努力です。

犬好きでなくても、犬天国のビーチを楽しむ犬と飼い主たちの姿を見ていると思わず顔がほころぶもの。機会があれば是非一度訪れてみてください。

次回は、「嫌な犬」と題し、日頃困った気持ちにさせられる犬についての話です。お楽しみに!


ビーチで愛犬ノアと遊ぶ著者

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てらぐちまほ在米27年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com


2015年10月5日月曜日

第85回「飼い主の期待」

親なら子供が生まれた時、その子にさまざまな期待を託すでしょう。「頭のいい子になりますよう」「大物になってほしい!」「優しい子になってください」など。同様に、犬の飼い主も愛犬にさまざまな期待を抱いているのでは?今回は、「飼い主の期待」と題し、自分の懺悔的経験を基に、飼い主の期待がもたらす愛犬との関係についてをお話します。

余裕ができたら

やっと犬を飼うことを決意し迎え入れたジュリエット。そんな彼女との暮らしは、どちらかと言うと無我夢中で、彼女に対してあれこれ期待を持ったという記憶はありません。というのも、ジュリエットは私と出会う前は、人間から拷問、虐待を受ける生活で、飼い主から社会性を学ぶ機会や、十分な運動、また愛情さえも与えられたことなし。期待を抱くより、普通に楽しく暮らせればそれでいい、という気持ちが一番でした。ところが、現在の愛犬ノアをアダプトした頃は、自分に「犬と暮らす」という点で余裕があったために、その頃成長期真っ盛りの彼への期待が、それはそれはたくさんありました。

実はノアと出会う数年前に、その当時通っていたアニマル・シェルターで、「これぞ理想の犬!」という犬を見つけました。当時は高齢のジュリエットとの二人暮らし。残念ながら、どう頑張ってもジュリエットより一回り大きいエネルギー溢れる若い雄犬を迎え入れることは無理でした。しかし、それからも私の頭の中には偶像化したその犬のことが頭の片隅にありました。

何か違う

その理想犬は、なんとも自信に満ち溢れた犬でした。といって他者に恐怖感を与えるようなことはまったくなく超社交的なのですが、実に堂々としていました。だから私は、容姿の似たノアを同じような性質だと勝手に思い込んで、自信に満ちた犬になるのだろうと、大きな期待を抱いていたのです。それもそのはず。うちに来る前に付けられていた名前は「マッチョ(逞しい男)」でした。しかし、実はノアはアメリカで言うなら「チキン」そのもの。体は大きいのに、気の小さい弱心者。ビビリ光線を発しまくるので、いじめるタイプの犬たちに何度も襲われています。私の中で「何かが違う」というギャップを感じていたのは確かです。にも関わらず、勝手に自分の枠に入れようとしていました。しかし、ノアはノア。私の期待に沿えないことは沿えないと、彼なりの意思表示や反発をし、しばらくはちぐはぐな関係が続きました。そのうち、私が「本当のノア」を見ることができ、彼のそのままを受け入れ、それを彼の長所と愛し始めたら、ノアとの関係はぐっと接近しました。

ノアは、牙を剥くことも、唸ることもしません。嫌なら逃げるか観念する。そんなノアですから、赤ちゃんでも、外で初めて会う人でも安心して遊ばせることができます。臆病だけど、ひょうきんで人懐っこいノア。彼のすべてが理解できる今は、以心伝心で何でも分かり合える関係になりました。相手に色々期待を抱くのも愛情のしるし。しかし、現実とのギャップと真っ直ぐ向き合うことが、飼い主の真の愛の証明ではないでしょうか。

*今号で執筆5年になりました。いつもご愛読ありがとうございます。これからも引き続き宜しくお願いします。次回は、「CAビーチ事情」と題し、カリフォルニアのビーチと犬についての話です。お楽しみに!



お互いの長所も短所も全部把握し合った仲に

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てらぐちまほ在米27年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2015年9月5日土曜日

第84回「アニマル・ホスピタルで」

去年カリフォルニアに引っ越して来たばかりの頃の話です。ノアの予防注射のために、近所の動物病院に行きました。触診が済み、注射という段階になって獣医師が「すぐに戻って来ますのでここでお待ちください」とノアを連れて別室に行ってしまいました。どうして別室へ?と不思議に思いましたが、そこのやり方を尊重しようと黙っていました。すると5分も経たないうちに、獣医師がノアと戻って来て、「ノア君はお母さんがいる方がいいみたい。何度も後退して逃げようとするので戻って来ました」と。診察や注射の際には、飼い主の私がいつもサポートすることを話し、首輪をスッと持ちました。ノアはじっと立って注射を受けました。獣医師曰く、飼い主のほとんどが、診察、治療を始めるとパニックになり、診察室一杯にネガティブなエネルギーをふりまくので、大変治療がしにくいそうです。それなら、一層飼い主の姿がない方がスムーズに治療が進むと別室に連れて行くのだとか。もし、飼い主の大半がそうだとしたら、それはとても恥ずかしい話。今回は、動物病院やグルーミングストアなどでの飼い主の対応についてのお話です。

可哀相?

治療を受けたり、グルーミングされたりする際に、犬が慣れないことで緊張したり、嫌がると、飼い主の中には、「うちの子があんな顔をしている…。ああ、可哀相…」とわなわなして、ネガティブなエネルギーを放つ人がいます。すると、犬は自分の置かれている状況が恐ろしいものだと思い、もっと酷く反応します。また、万が一の噛み防止につけるマズルに異常に反応する飼い主もいます。あんな姿にさせられて…とでも思うのでしょうか。これはトレーニングでも同じです。今まで飼い主にチャレンジされたことのない犬は、専門家からの初めての指示で大変戸惑い、抵抗します。そんな様子を見た時、飼い主が「可哀相…」と思えば、犬も今起こっていることが悪いことだと思うでしょう。怪我や病気の治療、グルーミング、そして問題行動改善やしつけのレーニングは、すべて愛犬が快適な生活を送るため、と飼い主が心から理解すれば、犬もついてきます。しかし、飼い主が不必要な心配・懸念・間違った同情を抱くと、犬は自分の身に降りかかっていることはネガティブとしか思えません。

自分の犬こそ自分で

誰に何をされるのも平気という犬もいます。そんな犬の飼い主なら楽ですが、残念ながらそんな犬ばかりではありません。噛もうとしたり、逃げようとしたり、反応はさまざま。愛犬にとって大切な治療やグルーミングなどをよりスムーズにこなすためには、飼い主の日頃の努力が必要です。歯磨き、爪きり、耳掃除、ブラッシング、お風呂、家の中に入る際の足拭きなど、日頃から家で飼い主がなんでもできるようにしていれば、特別な状況で、愛犬がいつもよりパニックになっても、飼い主がコントロールできるわけです。また、飼い主が冷静でいられれば、専門家からの大切な情報がきちんと聞け、またレベルの高い飼い主だと認められ、専門家とより良い関係作りにつながります。家での手入れですが、最初は上手くいかなくても、根負けせず、楽しくリラックスした雰囲気の中、毎日少しずつ慣れさせていきましょう。大事なのは、飼い主が「なぜ大切なのか」ということを根本的に
理解すること。そうすると、飼い主としてすべきことが見えてくるはずです。

次回は、「飼い主の期待」と題し、自分の経験談をもとに、飼い主が愛犬に寄せる期待と現実のギャップ、それを乗り越えて得るものの話です。お楽しみに!


家での歯磨きを習慣化させることは大切

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てらぐちまほ在米27年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com



2015年8月5日水曜日

第83回「嫌われたくない飼い主」

日本の我が家は、6人家族プラス犬一匹でした。6人もいると「愛犬が誰を一番好きか」という競争になります。一番好かれていると自信たっぷりだったのは長姉。愛犬プルートは、長姉を見ると、尻尾ふりふり大喜びです。それもそのはず、彼女はプルートに対して、厳しい顔を見せたり、しつけに関わったりしたことはなし。そんな局面に立つと、誰かに「叱って〜」「なんとかして〜」と逃げの構えで、自ら立ち向かわず、常に優しい飼い主としての立場を守っていました。しかし、長姉が我が家の愛犬といい関係を築いていたか? となると疑問です。今回は、「愛犬に好かれたい」と願うばかりに取っている、飼い主の間違った行動についてお話しします。

甘やかしのディスペンサー

愛犬がそばにいてくれるだけで私は幸せだから、溢れんばかりの感謝の気持ちを込めて、贅沢三昧、やりたいようにさせている。あのまん丸でつぶらな瞳で見つめられたら、なんでもハイハイと愛犬の大好きなトリートをあげたり、自分の食事まで寛大に分け与えたりもする。犬の大好きなトリートを使って気を惹こうと必死な飼い主もいます。

「駄目!」と叱った時に見せる、あの悲しそうな顔を見るとなんとも可哀相で、どうしてもしつけられない、また、愛犬の間違った行動を正すと、犬に「嫌な人間だ」と思われるとか、やりたいようにしている行動をコントロールするのは「意地悪」と捉えてしまう人もいます。「愛犬に嫌われたくないから」と、犬のしたいようにさせていると心当たりがある人はいませんか?

犬と上手な関係を作れる人は、犬の気を惹こうと一生懸命媚びたりしません。なぜなら、犬と関係を築くために、人間が媚びる必要がないからです。異常に好かれようと努力しても、犬は信用できない人は分かります。反対に、犬が「この人!」と思えば、必ず犬の方から愛情表現を示してきます。

Tough Love

私が学校の教師をしていた時に、子供たちに「私たちが悪いことをしていたらもっと厳しく叱ってください」と言われたことがありました。正直、驚きましたが、子供たちがそこまで上からのガイダンスの必要性を感じていることに感動したものです。まさか犬が「問題行動していたら、きちんとしつけてください」と催促してくることはありませんが、即時に「正す」「褒める」の繰り返しで、きちんとしたガイダンスを提供すれば、どんどん犬が飼い主を信頼するようになり、尊敬できる存在として接してくるのです。

本当の意味の愛犬への愛情とは、いつでも、どんな時でも安心し、ついていける飼い主がそばにいてあげること。信頼され、尊敬される飼い主であること。そう思われるためには、犬に不可欠な質と量の運動を提供し、犬が立派な社会の一員となるためのしつけをし、そして、健康管理をすること。それこそが、愛犬をこよなく愛しているということではないかと思います。そうなって初めて、犬は「この人!」と感じ、飼い主は本当の意味で犬から愛されるのです。

次回は、「動物病院にて」と題し、獣医師やグルーマーなど、犬の専門家たちが困っていることについてお話しします。お楽しみに!

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てらぐちまほ在米27年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com



2015年7月5日日曜日

第82回「庭犬の悲劇」

限りなく真っ青な空、燦々と照りつける太陽、カラッと爽やかな空気、空高くそびえ立つパームツリー。南カリフォルニアに引っ越してから、愛犬ノアと私は、この土地が惜しみなく提供してくれるこれらを満喫しています。しかし、この土地に住み始めてから、とても嫌な思いもしています。それは散歩中に遭遇する「庭犬」。彼らの凄まじい行動に、何度怖い経験をしたか…。今回は、南カリフォルニアで異常生息している庭犬たちの悲劇についてお話します。

ハラスメントだ!

私が定義する「庭犬」とは、1日中庭に閉じ込められ、その欲求不満から、前を通るものに異常な反応を示す犬のことを言います。「うちは庭が広いんだから犬も十分満足だろう」とか、「散歩は面倒」と言う人間に飼われているのが庭犬です。以前、何の悪気もなく「うちにはものすごく広い裏庭があるので犬も大満足ですよ。獣医のところに行く時以外に外に出したことがない。必要ある?」という10歳のラブラドルの飼い主に出会いました。そして自分がそこの家庭の犬でなくって本当によかったと思いました。

庭犬は、東海岸にもたくさんいましたが、気候がよく、土地も広い南カリフォルニアでは、丸1日、1年中庭で暮らす犬が本当にいっぱい。ノアと気持ちよく住宅街をお散歩していても、フェンス沿いに激走し、歯を剥き出して向かってきたり、横の木戸に全速力でかけ走り、体を投げつけ吠えたぎったりする犬たちのハラスメントが酷すぎて、楽しいはずの散歩も台無しに。実は、ジュリエットもノアも、また友人の愛犬たちも「庭犬」が飛び出してきて、襲われて大変な経験もしています。しかし、庭から異常反応する犬たちには正当な言い分があるのです。

教えなければ…

好奇心旺盛な犬は、家や敷地の外に出て、外界で起こっていることを知る必要があります。また、外で色々なものに遭遇することで頭を刺激し、社会性を養う大切な機会にしているのです。庭はあくまで自分の敷地で、外であれ「監禁」に変わりはありません。体を動かす散歩は、健康維持のためにも大切な肉体運動です。そして飼い主との絆を深めるのに絶好の場。しかし、犬がぐいぐい引っ張り、ゼイゼイ言って人に見られると恥ずかしい…とか、出くわすものに何でも向かっていくから怖い…とか、引っ張られると腕も疲れるし、ストレスも溜まるし、全然楽しい気分になれない…などと言って散歩をやめてしまうと、犬は欲求不満をどんどん溜め、色々な問題行動を起こします。

教えられないで最初からきちんとしたリーシ歩行ができる犬などいません。犬も教えられて初めてリーシを引っ張らず飼い主の指示に注意を払いながら歩けるようになるのです。犬も自分も正しい歩行の練習をせず、「あんな大変な思いはしたくないから散歩はなし」と言うのはあまりにも無責任過ぎます。そういう努力をする気も時間もないなら、最初から犬を飼うのをやめるべき。そういう人に飼われた犬は哀れです。

犬が好きで、犬を幸せにしたいなら、犬も自分もきちんとトレーニングをし、快適な散歩ができるようにすること。それが愛犬への愛です。

次回は、「嫌われたくない飼い主」と題し、愛犬に嫌われるのでは…との懸念が愛犬との関係をどんどん悪くするお話です。お楽しみに!


庭犬の存在は迷惑だが、哀れで仕方ない

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てらぐちまほ在米27年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com



2015年6月5日金曜日

第81回「犬を助けるということ(後編)」

先日も職場で、同僚達が一生懸命になって、飼い主を失くした犬の家探しをしていました。ペットストアや動物病院などの掲示板は「家族募集中」のホームレス犬たちのポスターで溢れ、また、Petfi nder.comなどのインターネットのサイトに掲載されているホームレス犬の数は後を絶ちません。毎日ものすごい数の犬が殺処分される中、パピーミルやバックヤード・ブリーダー、また一般家庭でも、仔犬がどんどん作られ、ペットストアやオンラインショップでは、仔犬が何百ドル、何千ドルで売買されています。その世間の矛盾と人間の悪行に、やるせない思いが募ります。

長い目で、広い視野で

「愛する犬を1匹でも多く幸せにしたい!」と、動物愛護の世界に飛び込みましたが、前回お話したように、同志であるはずのアニマル・レスキュー団体の中には、安楽死寸前の命を救うことに固執し過ぎるところがあります。衝動的かつ、感情的な行動で犬を保護し、その結果発生するさまざまな問題で世間から信用を失い、結果として、シェルターなどで保護されている犬たちのアダプションの妨げになっているのです。

今そこにある1匹の命を助けるのは本当に大切です。しかし、長い目で、広い視野でこのホームレス犬問題の解決策を考えないと、いつまでも同じことが続きます。犬というのは人間の家族と暮らしてこそ幸せなのです。だから、すべての犬に家族が与えられるような環境を作ること。そこにゴールを持って行くことが大切なのではないでしょうか。そのためには去勢・避妊の奨励、法律化にまで進めるべきです。また、車の免許のように、犬の飼い主教育を受けたものだけが得られる飼い主ライセンスを作るのも一案でしょう。そして、犬の専門家はもっと飼い主の立場とレベルになって犬の飼い主教育を提供し、飼い主の意識の向上に貢献すべきです。

「ただの飼い主」ができること

私はただの犬の飼い主だから何もできないとか、世間の犬を苦しめるようなことはしてない…ではなく、飼い主としてできることはいっぱいあります。また、実は犬を愛しているはずの飼い主が、知らずに犬を苦しめていることが多いのです。それは「犬」という動物をきちんと理解せず、よく知っているものだとたかをくくっているところがあるからです。犬が問題行動を起こしたら、飼い主の知識不足が原因なのに、対処できないと簡単にシェルター送り…。犬が好きなら、犬について勉強し、理解し、責任を持って育てる。それが犬を助けるということなのです。

飼わないという選択

犬を飼わないという選択も、犬を助けるためにできることの一つです。これだけの数のホームレス犬が家を求めているのに、それはおかしいのでは?と思われそうですが、飼えない時に飼えないと言い切れるのは大切です。今、犬の親になれないなら飼わない。犬を飼うということは親業を担うことなのです。それなりの責任と覚悟が必要です。また、もう1匹増やすことができないなら受け入れない。安易な考えや、衝動的、感情的な行動は往々にして悪い結果をもたらします。そして、そこで苦しむのは犬なのです。犬を愛するなら、まず犬を学ぶ。犬には何が必要なのか。それを理解し実行する。それが愛する犬を助けることなのです。

次回は、「庭犬の悲劇」と題し、カリフォルニアに来て異常に出くわすことの多い「庭犬」のお話をします。お楽しみに!


胸を張って「うちの愛犬は幸せです!」と言える飼い主になりたい…

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てらぐちまほ在米27年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com


2015年5月5日火曜日

第80回「犬を助けるということ(前編)」

15年前、人間によってこの上ない虐待を受け、後に無事保護されたにも関わらず、結局行き場がなく、安楽死寸前のところで救出されたジュリエットと出会いました。それがきっかけで、私は動物愛護・福祉にどんどん関心が湧き、気がつけば、その中にどっぷり入り込んで働いていました。動物愛護活動の世界に入って10数年の間にこの世界の喜怒哀楽をすべて体験し、周りのさまざまな考え方を学びながら、「犬を助ける」ということについて考えてきました。今号・次号と2回に渡り、私なりの「犬を助ける」という哲学をお話します。

命が救えれば?

アニマル・シェルターに通い始めてから、これでもかと言うほどの悲しく厳しい現実に直面する日が続きました。勤務初日に仲良くなった犬が、次に行った時には安楽死させられていなくなっている…信じられない状態で保護されてくる犬たちが後を絶たないかと思えば、お金をかけ可愛がっていたはずの犬を不要品のように簡単に手放す人も。その惨状に、帰りの車の中で号泣すること度々。捨てられて保護されてくる動物の数は後を絶たないのに対し、アダプトされる動物の数はほんのわずか。行き場のない動物たちは殺処分という悲しい運命を辿ることになります。そうなると命を救うためにさまざまな手段が取られます。

小さい公営のシェルターでボランティアを始めた頃のことです。ジャーマン・シェパードやロットワイラーのような大型犬は保護されてもなかなか貰い手がありません。人間に慣れてないとなれば尚更です。そのうち保護期間終了の日が迫り、「死刑宣告」が下ります。すると近所でガードドッグのレンタルビジネスを営む人がやってきて、行き場がなくなった大型犬を引き取って行くのです。引き取られた犬たちは家庭のペットではなく、誰もいない真っ暗などこかの敷地で悪者からビジネスを守るガードドッグとしてのみ生かされます。それでも、犬たちは「死刑」を逃れ、命はつながったわけです。

入ってくる犬を拒めない公営のシェルターでは、ほとんど毎日のように安楽死処分が行われています。外部の私営レスキュー団体は全力を挙げてシェルターにいる犬たちの行き場探しをします。我が家の愛犬ジュリエットもノアもそういう団体によって救出されました。そんなレスキュー団体のお陰で、幸せな家に辿り着いた犬は山ほどいます。しかし、レスキュー団体の中には、死刑宣告を受けた犬を引き出す行為に執着してしまい、引き出された犬たちに家はなく、結局シェルターから場所が移動しただけ。行き場のない犬たちは、小さな檻に入ったまま何カ月も、何年も、また一生そういう状態で過ごすことになることもあります。命は救われたにしても、それが犬にとっての幸せと呼べるでしょうか?

犬屋敷と呼ばれるホーダーズも同じです。可哀相な犬を見過ごすわけにはいかないとどんどん保護していくうちに、家は犬と糞とゴミで溢れ、仕舞いには収拾がつかず地獄絵のような状態にまで陥ることも。助けられたはずの犬たちが「助けてくれ、この場から出してくれ」と請っている。良かれと思って取った行為が、反対に犬の首を締め付けるのです。誰もが「1匹でも多くのホームレス犬の命を救いたい」と思っているはず。でも、もっと大切なのは「ホームレス犬を作らない世界にする」ではないでしょうか。それが犬を助けることだと信じています。それでは、私たち人間は何をすればいいのでしょうか? 

次回は、私の信じる「犬を助ける」ためにすべきことをお話します。


シェルターに辿り着く犬たちを助けるということは…

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てらぐちまほ在米26年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com


2015年4月5日日曜日

第79回「犬と性別」

2000年に一大決心で「犬を飼おう!」と思った時、なぜか私の頭の中には雄犬しか浮かびませんでした。日本で長く飼っていた犬が雄だったことや、私の性格には雄の方が合うだろうと勝手に決め込んでいたようです。ところが、運命の出逢いでわが家にやって来たジュリエットは雌犬。雄犬にこだわっていたくせに、いざ生活を始めてみると、雌犬の魅力にも引き込まれていったのでした。うちの愛犬は、雄↓雌↓雄の順。個々の性格の発見と比較はもちろん、性別の比較の勉強にもなります。今回は、科学的証拠には基づかない、私個人の経験からくる「犬と性別」についてお話します。

オンナは図太い

女性は底力があり、いい意味で図太くたくましいというのが、私の女性論の一つなのですが、犬についても同じことが言える気がします。図太く、たくましく、サバイバルスキルがあるのは雄犬より雌犬というのが私の見解です。シェルターにやって来た犬の中でも、若い雄犬(去勢してないなら尚更)が一番早くシェルターでの暮らしで「だめに」なってしまいます。ストレスが溜まる度合いが遥かに速く、それによって生じる、健康面や精神面の問題でどんどん崩れていくのです。もちろん、これも犬種によるので、1日のほとんどを監禁された状態で過ごすことにどうしても適応できない犬種は、性別関係なくすぐに崩れます。そんな中でも、中年の雌犬は、比較的シェルター生活への適応性に優れていて長期で頑張れる犬が多いです。

これはうちの愛犬にも言えますが、雄犬の方が色んなことに繊細で敏感。例えば、ちょっと様子が変わったり、食べものを変えると、ノアは躊躇して食べなかったり、用便にしても、雌犬のジュリエットは必要な時は即するというのに対し、ノアの場合は、あれこれ場所選びが大変で、こちらをイライラさせる時もあります。しかし、それはやはり雄犬のDNAにある「縄張り争い」というものからくるもので、世間(犬社会)への大切な自己表現に関しては、どうしても細かく神経質になるのでしょう。それに対し、雌はあくまでも周りの雄犬たちに「私Availableですけど」と知らせるのみなのかもしれません。

「いけてる」女?

シェルター勤務で体験した「面白い現象」に、生理時の人間の女性に対する雄犬の反応というのがあります。とにかく臭いに敏感な犬なので、いつもより過剰な反応を示すのですが、ただそれだけの犬と、その上に、こちらの弱みを握ったかのように優位に立とうと挑戦的になってくる犬もいます。そういうこともあり、私も含め、女性スタッフの多くは、生理の時にはいつもより気を張っています。また、雄犬は「いけてる」女性(フェロモンを発生させている)と、そうでない女性への興味の示し方の違いも顕著です。ノアは、うちの母のことは大好きですが、「女」としては興味なし! というのをはっきり示していました。近所のおばあさんへの反応も同じ。なので、私の周りではノアにお尻をくんくん嗅がれ、興味津々でべたべたされているのは「いけてる」証拠だと笑い話になっています。

世間には、一般的な性別の特質をあまり示さない犬もいます。また、育て方によっては「中性的な行動」をする犬もいます。たとえ雄と雌の間で基本的な違いがあるにしても、結局はそれぞれの個体の特質ではないでしょうか。犬を選ぶ際、雄か雌かもポイントの一つかもしれませんが、やはり一番大切なのは、その特定の犬の気質と条件が自分のライフスタイルとどれほどマッチしているかということだと思います。

次回は、「犬を救うということ」と題し、長年動物福祉・愛護活動に携わってきた私が思う、犬を救うこととは何か、について徹底的に語ります。お楽しみに!


「女の子だから」とあれこれ飾りつけられ、まんざらでもない愛犬ジュリエット

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てらぐちまほ:在米26年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2015年3月5日木曜日

第78回「愛犬と家探し」

ニューヨークで条件に合った賃貸物件を探すのは至難の業。これは、犬の飼い主であるなしに関わらず言えることですが、そこに犬、それも大型犬の飼い主という条件がつけば、ほとんど不可能に近い話です。その苦労体験談は、数年前にここでも記事にし、紹介しました。それがまた、ここ新天地LAでも同じように「このまま家が見つからず、路頭に迷うかも…」と言う大変な思いをするはめに…。今回は、去年の秋に再び体験した大型犬との家探しの苦労談をお話します。

所変われば?

ここカリフォルニアでの賃貸物件探しは、所変わればシステムも違い、至るところで「For Rent」のサインを目にし、直接管理オフィスに交渉に行けます。アプリケーションが承認されたら即入居OKという例も珍しくありません。今回、もし私に大型犬の飼い主という条件がついていなければ、きっと2、3日中に気に入った物件に巡り会え、即引越しという運びになっていたかも。しかし、私にその条件削除はありえません。大事な家族である大型犬ノアと安心して住める場所を見つけなければいけない…。予想はしていましたが、その過程はとてつもない「いばらの道」でした。

まず、ペットOK の物件はここでも希少。あった!と喜んでも、猫か小型犬のみというところばかり。一度は小型犬のみというところの管理人さんと討論にもなりました。サイズではなく行儀の良さではないか?という私に、言い分は分かるが、住人は犬好きばかりではなく、管理する方としては全体のバランスを考えてルールを決めていると。また、サイズ関係なしという朗報が入り、そこのペットルールを見せてもらうと、「どういうこと?」という程の犬種の制限付き。飼える犬種と言えば、結局小型犬かディズニー映画やCMに登場するリトリバー系のみという程の犬種規制ぶりでした。

そんな悪状況の中でも、「どんな犬種、サイズもOK」な物件にも出会うのですが、治安が心配な地域であったり、家自体が「住めないかも…」という程手入れされていない物件だったりというわけです。

奇跡の物件!

そんなある日、お願いしていたエージェントの方から「きっと気に入る物件があるので見に来ますか?」と。聞けばペットOKと。早速アポを取り内覧に出かけました。するとその物件は、奇跡! というようなものでした。見た瞬間に「ここに住みたい」と切望しましたが、果たして大型犬、ピットブルという犬種は大丈夫なのだろうか…。エージェントの方が管理オフィスに確認している数時間、期待と不安が駆け巡りました。なんと奇跡的にサイズも犬種も規制なしという返答があり、肩から力がどっと抜け、足が宙に浮いて踊る程の喜びに変わりました。

いつも思うのは、犬の飼い主がどうしてこうまで大変な思いをせねばならないのかということ。でも、それは同志の飼い主が起こしている問題でもあるので、「自分は完璧な飼い主」と思っていても、どんな時でも、どんなことにも責任ある飼い主という姿勢を貫き通さねばならないと痛感しました。また、それらの規制も統計に基づいているものであり、やはり周りの同志と共に向上し、素晴らしい犬の飼い主人口を広げていけば、もっと暮しやすい世界に変わっていくのではと思います。

さて、新天地で快適な新居が決まった今、ノアと私はと言うと、カリフォルニアに求めて戻ってきた「ゆとり」を毎日ひしひしと感じながら、楽しい生活を送っています。

次回は、「犬と性別」と題し、犬の性別による違い、また犬が人間の性別に対してする反応の違いなどについてお話しします。お楽しみに!



新しいアパートの敷地内には至るところにこのような犬用ゴミ箱が

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てらぐちまほ:在米26年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com


2015年2月3日火曜日

第77回「愛犬と大陸横断(後編)」

2014年の一大イベントに、秋に実現させた愛犬との大陸横断引っ越しがありました。実は、車での大陸横断引っ越しは15年前にも経験済み。その時は、西から東へ。今回は東から西へ。しかも、今回は犬連れでの旅。果たして無事に完走できるのだろうか…という一抹の不安も襲いましたが、「何が何でもやるしかない!」という意気込みでとにかく出発しました。

不安と興奮が半々の出発でしたが、蓋を開けてみれば全てが計画通りに運んだ旅。途中で車も人もエンストするというようなハプニングもなく、なんなく完走。ほとんどが順調だったこの旅ですが、一つ困ったのは食事でした。この旅行中、愛犬ノアが生活の変化から来る緊張やストレスで、ほとんど食事をしなくて、とても心配したことは前回の記事で触れましたが、食事に関しては人間側もかなり苦労しました。秋という季節柄、外に出されているテーブルなどで、犬連れで食事をすることが不可能。今回はノアにとっても普段と違うドキドキの毎日ということもあり、一人にして不安にさせないようにしたかったので、ノアを残して人間だけ出かけることは避けました。そこで取った私たちの策はと言うと、旅に同行してくれた友人が一人でレストランに入り食事しながら、私用のテイクアウトを注文。私はそれを車やホテルで食べるという、人間側から見れば淋しい食事の仕方でした。やがて、旅の後半で西に向かって行くと気温も上がり、外での食事が出来るようになり、ようやく皆でテーブルを囲んで楽しいひと時がもてました。

ホテルはペット大歓迎

出発前一番心配したのが、宿泊先のことでした。周りからペット・フレンドリー・ホテルがたくさんあることは聞いていましたが、事前に調べたホテルが本当にペット歓迎か、サイズや犬種の規制は厳しいのか。また、計画した距離を予定通り走って予約した宿にたどり着けるか。逃したらペット可のホテルが簡単に見つけられるか。最悪は車で一夜を明かすことになるのか。など色んな不安が頭を過ぎりました。でも、そんな心配はただの取り越し苦労で終わり、事前に情報を得ていたチェーンのホテルは、どこも広告通りペット可、というより大歓迎でした。ちなみに利用したのは、La Quinta Inn & Suites、Red Roof Inn、Days Inn、Motel 6です。他にもEcono LodgeやHoliday Inn、また大手のHiltonやSheraton Hotelでもペットとの宿泊オーケーのようです。本当に愛犬と旅行がしやすい世の中になりました!

この旅で得たもの

この貴重な体験で得たものが一杯あります。同行してくれた友人との車中での人生論。短期間でアメリカの端から端をダイジェスト版のように味わったこと。自分の体力・気力をあらためて知ることができたこと。しかし、何と言っても一番貴重だったのは、ノアとの絆が一層深められたことでした。ノアは状況がどうであれ「母」である私がいれば安心ということを覚え、私は予想以上の頑張りで、この旅を見事に乗り切ったノアへの誇りと信頼度がぐんとアップしました。いつかまた、ノアとの大陸横断旅行をすることになるのかは分かりませんが、ノアも私も、力を合わせて何でも乗り越えられるという大きな自信が出来ました。

次回は、「犬と家探し」と題し、新天地LAでの犬連れの物件探しの苦労と飼い主のあり方についてお話しします。お楽しみに!


「僕も立派な宿泊客です」と威張る著者の愛犬ノア

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てらぐちまほ:在米26年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2015年1月5日月曜日

第76回「愛犬と大陸横断(前編)」

1999年2月にカリフォルニア州からニューヨーク市に引っ越してくる際、車で大陸横断をしました。確か16州を1週間弱で走り抜けた記憶があります。それから15年後の2014年の秋に、今度はニューヨーク市からカリフォルニア州に引っ越すことになり、再度車で大陸横断することにしました。今回は愛犬ノアを連れての引っ越し。もちろん不安がなかったとは言えません。しかし、蓋を開けてみると全て滞りなく計画通りに進み、本当にスムーズな旅になりました。今回は、その体験談を「愛犬と車で大陸横断の旅」と題し2号に渡りお届けします。

車とノア

ニューヨークで生活していると、車を持っている方がかえって面倒になることが多く、普段ほとんど使わない車を処分しました。ノアはうちにやって来てからほとんど私と車に乗る機会がなく、彼にとって車に乗るのは特別なこと。その度に大興奮でした。「これでは大陸横断の旅が大変だ…。旅まで特訓!」と早めに車をゲットし、文字通り毎日ノアとの車の特訓が始まりました。安全第一のために、運転席や助手席に来ないように犬用のバリアを設置。また、急ブレーキで転倒しないように犬用シートベルトを購入し、必ず着用させることにしました。この効果は大きく、ノアの中で「運転中は絶対に私の近くに来て邪魔できない」というコンセプトが即通じました。私の方でもどんな場合でも一切助手席に来させることは止め、「前部はオフ・リミット」と叩きこませました。少し退屈になったら鼻をクーンクーン鳴らすことがあっても、結局、未だに前部に来ようと試みたことがありません。また、出発前の特訓の効果があって、長距離ドライブ中、スピードが出るとすぐに後部座席で熟睡するようになりました。それがあまりに静かなので、途中何度も振り返り、ノアがちゃんと居るか確認したくらいでした。

ノアの食事

この旅で一番困ったのが「食事」だったかもしれません。それはノア自身の食事に関しても、同行してくれた友達たちと私の間での食事に関しても言えることでした。とにかくノアの食事には困りました。うちの場合、日頃はホームメードの食事を食べているため、旅行中の代用食探しが必要でした。見かけによらずノアはピッキーで、嫌なものには顔を背けてしまいます。事前に色々なフードを試食させ、旅行中の代用に使えるもの探しをしましたが、どれもだめ。悩んでいた私に友人が、「真夏でもないからいつもの自家製フードをカチカチに凍らせてクーラーで持って行けば?」と提案してくれました。よく考えればホテルにつけば冷蔵庫はあるし、氷を毎日変えることも可能。結局、自家製フードを1週間分程作って持っていくことにしました。しかし、肝心のノアは旅行中全く食事をしませんでした。がつがつとキレイに完食したのは多分一度か二度。毎日変わる土地にホテル、また1日のほとんどを車の中で過ごすという日々で精神的にかなり参っていたようです。私の食べ物のお裾分けなら少しは口にするものの、水とおやつだけの毎日が続きとても心配でした。でも「絶対必要」となればそのうち食らいついてくるだろうと私も腹を括りました。結局ノアが普通に食事をしたのは目的地のカリフォルニアに到着して2日目のことでした。

次回も引き続き、「愛犬と車で大陸横断の旅」をお届けします。お楽しみに!


アリゾナ州セドナの壮大な景色をバックに大喜びのノア

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てらぐちまほ:在米26年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project (www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。今は、15年住み慣れた東海岸を離れ、愛犬ノアとLAに移転して活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com