2015年12月5日土曜日

第87回「嫌な犬」

迷惑ジャック 

ジャックは、斜向えに住む10歳のオスのジャック・ラッセル・テリアです。新居に引越してきた日に、何も知らずジャックの家の前を通りました。すると、窓をガッツンガッツン叩きながら窓越しに私に吠えかかる犬が。それがジャックとの初対面でした。嫌な予感がしましたが、的中。ジャックはとにかくうるさい犬で、彼の家の前を通る犬に、子供に、大人に、物音に、何にでも過敏に反応し、けたたましい声を上げ、玄関の鉄の網戸や窓をバンバン叩き吠え叫びます。前を通るものは迷惑極まりません。 また、ジャックの飼い主が外出すると、今度は「文句吠え」が始まります。戸が閉まった途端、「おい!俺を残してどこに行く!戻って来い!いい加減にしろ!」と言わんばかりの金切り声で吠え叫び続けます。 しかし、ジャックの飼い主が「No」「Stop」「Enough」などとジャックの行動を正すところを見たり聞いたりしたことがありません。

犬だから…

ジャックの飼い主は、愛想のよい優しそうな若いカップルで、近所付き合いも「上手く」やっています。ジャックのことも、可愛い洋服を着せ換え「可愛がって」います。ただ、散歩や運動はというとトイレのため程度で、敷地外で散歩をしている彼らと出くわしたことはありません。ジャック・ラッセル・テリアの気質を知っている人なら、この犬種がどれ程の体と頭の刺激を求めているかが分かると思いますが、生憎ジャックにはそれらが与えられていないようです。そうして溜まったストレスを吐き出す方法が「異常吠え」。さらには、その問題行動さえ正されないという悪循環の毎日です。

もしこれが人間の子供だとしたら…。家の前を通る犬や人に暴言を叫び続けたり、家族が出て行った後、大声で文句を叫びまくったら、大抵の親は子供を叱り、諭すのではないでしょうか?それが、犬だと「いいか」で済むものでしょうか。ジャックに関してはなぜここまで放任なのだろう?と不思議になります。これくらいの吠えは犬だから仕方ないと思っているのか、迷惑は分かっているけど、何をしていいのか分からずここまで来てしまったのか、はたまた、「愛犬は生きたいように生かせたらいい」と言う自由尊重主義なのか。ラッキーな彼らは、近所がみんな寛大だから、今ままで大きな問題にならずに来たのでしょうが、場合によっては警察沙汰になったり、引越し要請が出たりという可能性もあり。そんないざこざが起こってしまったら、困り果てた挙句にジャックをシェルターに連れて行くのでしょうか。可愛い愛犬にはどうしても厳しくなれないと放任していることで、吠えてるジャック自身も、毎日ものすごいストレスになっているということを飼い主が理解してあげるべきです。

飼い主次第で

私は本当に犬が好きです。この世の中の何よりも好きです。ただ、社会性が養われていない、嫌な面ばかりを出している犬は、犬が大好きだからこそ苦手です。犬にいい姿を思い切り出させるか、醜い動物に豹変させるかは一緒にいる飼い主一つ。飼い主の育て方で全部変わります。犬は飼い主を選べません。ジャックも、もし他の飼い主のところで暮していれば、または、飼い主が奮起していれば、彼の良いところをふんだんに見せて、周りに好感を持たれる犬となれるでしょう。犬としてもっと幸せな日々を過ごせる可能性があるのに…と思うと不憫でなりません。いつか何かのきっかけで飼い主が奮起することを願うばかりです。

次回は、「シェルターを離れて…」と題し、14年間通い続けたシェルターでの活動から離れて一年経った今の気持ちについてのお話です。お楽しみに!


窓越しにノアと私を「攻撃する」ジャック

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てらぐちまほ在米27年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com