2016年1月25日月曜日

第88回「シェルターを離れて」

東海岸に住んでいた頃、14年間アニマ ル・シェルターでとにかくがむしゃらに 働きました。ところが、2014年秋に西海 岸に引っ越し、新生活を築くことに必死 になっているうちに、ふと気がつけばシ ェルター生活から離れて1年という時が 過ぎていたのです。今回は、過去14年間、 生活の大部分を占めていたシェルターで の活動から離れて1年経った今の心境を お話します。

恩返しに

4年半前に他界した愛犬ジュリエット との出会いが、シェルターでの動物愛 護活動の始まりでした。人間に虐待され、 ぼろぼろにされて道端に捨てられた1匹 のピットブル。彼女がたどり着いた先の パセイク・アニマル・シェルターのみん なは、その命を尊び、何とか救おうと懸 命に頑張ってくれました。その彼らの努 力で私とジュリエットは出逢えたのです。 それまで、動物愛護という世界とほとん ど接点がなかった私ですが、彼らの活動 ぶりに大変な感銘を受けました。そして、私もシェルターでチャンスを待っている たくさんのホームレス犬たちの役に立ち たいと15年前にその世界に飛び込んだの です。それはジュリエットの命へ、私と ジュリエットの運命への恩返しでした。

痛んだ心 

大好きな犬たちと思う存分に時間が 過ごせ、たくさんの犬たちと深い絆が築 けるシェルターでの仕事は私にとって夢 のようでしたが、愛するものの無残な運 命を痛いほど見せつけられ、無力を感じ、 悲しみと、悔しさと、怒りで眠れなかっ た夜は数えられません。

シェルターの戸をくぐってやってくる 犬に罪はないのです。彼らが陥った状況 (彼らを手にした人間)のせいで多くの犬 たちは短く儚い一生を終えていきます。1 匹の犬に家族を見つけても、捨てられて シェルターにやってくる犬の数が莫大過 ぎて絶望的になります。クレートの上に クレート、またその上にクレートと、積 み上げられた中に犬たちが窮屈そうに 入っている光景を見て、何度も嗚咽を 上げそうになりました。

それでも、大好きな犬のために、少 しでも役に立っているのならと無我 夢中で働きました。犬の前では絶対 に涙を流さない。自分の中の掟にな りました。後30分で安楽死させら れてしまう犬たちに、最後は楽し い思いのまま逝ってもらおうと一 緒に走って、笑って、そして見 送る。感情を押し殺さなければ できない仕事でした。何年も悲しみや悔 しさを押し殺し、頑張れ頑張れと自分を 励ましてきたせいで、いつの間にか私は 泣けない人間になっていました。14年間も愛するものの辛く悲しい局面を直に経 験し、心が痛みきっていたのです。涙が 枯れきっていたのです。現場を離れ、心 がずたずたになっていたことに気がつき ました。

しかし、私には使命があります。無 念に逝った犬達の命がどれだけ尊いもの であったかをいつまでも覚えていてあげ る、犬のために闘う、この社会問題を周 りの人間と考えていく。現場で体験した ことを絶対に無駄にしてはいけないので す。去年簡単な手術を受けることになり、 緊張の中、麻酔で眠りについた途端、夢 と現実の間から犬たちが何匹も私のベッ ド周りに現れ、私を励ましてくれました。 新たに自分の使命と宿命を確認した体験 です。またシェルター生活という縁が めぐってくるかはわかりません。しかし、 どこで何をしていても「犬と共に生きる」 のが私の道です。



この世の中からホームレス犬が いなくなることが願い

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てらぐちまほ在米27年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com