2017年9月5日火曜日

第107回『犬が運ぶ青少年の未来』

私が尊敬して止まない人物の一人、ティア・マリア・トレスさんは、仮釈放中の犯罪者とピットブルテリアという、いわゆる世間から風当たりの強い二つのグループを組み合わせ、アニマル・レスキュー団体を経営しています。彼女の偉業は、Animal Planetでもシリーズ番組化され(“Pit Bulls & Parolees”。現在も放映中)エミー賞にもノミネートされたほどの評判です。一体、何が偉業なのか。それは、人生のどん底をさまよってきた犯罪者に、ホームレスのピットブルテリアたちの世話をさせることで、今までとまったく違った人生観を見出していく手助けをしているからです。今を懸命に生きる犬たちの姿勢、そして、犬と築く信頼と絆から彼らは再び生きる糧を見つけていきます。
私の住むLAにも似たようなプログラムがあります。こちらは、様々な問題を抱えて暮らす高校生たちと、シェルターで暮らすホームレス犬という組み合わせ。今回は、その高校生たちとホームレス犬のプログラムのお話です。

犬の力

カリフォルニア州のサンタモニカに、K9 Connectionと呼ばれる非営利団体があります。その団体は、様々な問題を抱えて暮らす周辺地域の高校生たちに、シェルターの犬を訓練させることで更生の機会を提供しています。参加している高校生たちは、低所得家庭、またはホームレスの家庭の子供たちで、貧困、家庭内暴力、精神疾患、ドラッグなどの問題と日々向かい合っています。そんな高校生たちが数週間かけて、シェルターの犬に基本的なしつけを教えるのですが、犬にコマンドを教えることはたやすいことではありません。意思が通じ合わないと、なかなか言うことを聞いてもらえません。また、トレーニングは忍耐力を要します。しかし、正しく教えれば、必ずきちんと応えてくれるのが犬。自分が訓練した犬に新しい家族が見つかってシェルターを旅立って行くという経験は、高校生たちの心を揺さぶります。そして、彼らはその経験を通して、生きるということの本当の意味を見出していくのです。

子供の力

このプログラムを体験した子供たちのほとんどが、学校の成績が伸びたり、性格や行動の改善に成功したりしています。夢にも思っていなかった大学に受かったり、将来の道が具体的に描けたり。また、子供たちはプログラムを通して、チームワーク、友情、信頼関係、責任感を学びます。何といっても、自分のことを頼りにし、待っている犬の存在のお陰で、毎日さぼらず学校にやって来ます。もし、彼らにこんな機会が与えられていなければ、高校は中退。また、犯罪に関わる確率も高くなり、一生希望を持たずに毎日を過ごしていたかもしれません。将来彼らが、世間を困らせる存在になるか、世間で活躍する存在になるかは、こういったプログラムの有無が大きく左右するのです。これからの時代を担っていく少年少女たちに、規律と責任感を教えながら、周りと協力することによって、必要とされる気持ち、将来への希望と夢を抱かせる機会を与え、立派な青少年になってもらうことは、私たち大人が取り組むべき義務なのだと思います。
私自身は、このプログラムを見つけてから、多大な興味と関心を持っているので、そのうち必ずボランティア活動を始めたいと考えています。その時は、実体験の記事をここでご紹介します。
次回は、「犬は鏡」と題し、愛犬は様々な角度で、飼い主の鏡になっているというお話です。お楽しみに!

助けて、助けられて

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てらぐちまほ在米29年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com