2016年10月5日水曜日

第96回「タイミングは命」

「好機逸すべからず」「鉄は熱いうちに打て」などという諺が示すように、私たちの暮らしの中で、今だと思えば即座に事を起こすことが大切な場合があります。物事には、絶妙なタイミングというものがあり、それがきちんと判断出来て、取るべき行動を取るか否かで、明暗を分けてしまいかねません。犬との暮らしの中でも、飼い主が絶妙なタイミングをしっかり理解し、正しく行動が起こせているかで、関係作りが大きく左右します。今回は、犬との生活におけるタイミングの重要性についてお話しします。

物には時節

 私たち人間は、「あの時のことだけど…」と過去に起きたことに対し、相手に謝罪したり、非難したりもします。しかし、その概念が理解し合えるのは人間同士のみで、犬に「あの時の」は通用しません。犬の概念は「全てが今」なのです。過去も未来もなく、今を生きるのが犬。それゆえに、犬とのやりとりは、瞬時しか通用しないということを忘れてはいけません。例えば、留守中に愛犬が悪戯をし、帰宅した際に発見。そこで犬に説教したところで、犬にしたら「お帰りなさいと挨拶したら叱られるの…?」と思います。悪戯は現行犯で正す。でなければ効果がないばかりか、間違ったメッセージを送ってしまうことになります。
 私はレッスンの際にいつも「”スリー・セカンド・ルール”と覚えておきましょう。」と説明します。愛犬の問題行動を正す時は3秒以内に行う。もし、時間が経ちすぎていたら、次に即時に正せる機会を待ちましょう。その方が絶対に効果的です。愛犬の良い行動を褒めるのにもスリー・セカンド・ルールを適用します。と言うのも、飼い主の多くが、即時に正すことは実行出来ても、褒めることを忘れがちだからです。犬にとって飼い主から褒められるということは、大好物のおやつよりも何よりも一番のリワードです。愛犬が自分で考える時間と機会を与えてあげ、問題行動を正したり、良い行いをしたりすれば、飼い主は直ちに褒める。愛犬の行動に対し、瞬時に正して、褒めて。この繰り返しで、犬は「何が間違いで、何が正しい」か、を学んでいくのです。

虫歯と同じ

 冷たい水が沁みる…。虫歯だ…と思ったら歯医者に行く。虫歯は放っておくと、治らないばかりか、どんどん悪化していきます。それと同じで、犬が問題行動を起こし始めたら、放っておいて自然に直るということはありません。しかし、愛犬の問題行動に歯止めが効かなくなったら、多くの飼い主は犬を責めるだけでなく、中には放棄してしまう人もいます。問題の原因のほとんどが飼い主にあり、気がついた時に早期に対処していれば、そこまでいかずに済みます。愛犬が問題行動を示し始めたら、まずは飼い主である自分の行動を振り返り、自分を正す。何をどうしていいか分からない場合は、迷わずに専門家の助けを得ることです。
 早期発見、早期対処。早く手を打っていれば、案外簡単に改善出来ることでも、伸ばし伸ばしにしていたために大変なことになることもあります。今を生きる犬との暮らしにおいて、飼い主も一緒に今を生きることはとても大切なポイントです。
 次回は、「The Sato Project」と題し、プエルトリコの海岸に捨てられた犬達をレスキューし、アメリカに運んで来て、新しい家族を見つける活動をする団体のお話です。お楽しみに!

「ごめんなさい」という表情より、「すごいでしょ!」という顔を引き出したいもの

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てらぐちまほ在米28年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com