2014年3月5日水曜日

第66回「犬のグループ その3」

前回紹介したハウンド・グループの犬たちは、主に狩猟犬として、世界各地で狩りの手伝いに欠かせない存在として仕えていますが、狩猟以外の幅広い分野で仕事をしながら人間の生活を支えている犬たちがいます。AKC(アメリカン・ケネル・クラブ)では、それらの犬種をワーキング・グループと称し、狩猟用の犬種と区別しています。今回はその犬たちについてお話しします。

体も気持ちも大きく頑丈

ワーキング・グループの特徴は、体格の大きさと頑丈さ、そして勇敢さでしょう。雪山、氷河、急斜面の山岳、凍る海、また戦火の真っただ中など過酷な条件下で仕事をこなすため、このグループの犬たちは心身共に丈夫でなければいけません。

北極圏の厳しい寒さの中でそり引き犬として活躍するシベリアン・ハスキーやアラスカン・マラミュート。護衛犬や番犬として、また軍用犬、警察犬として人間の生活を守り続けているグレート・デン、ドーベルマン・ピンシャー、ロットワイラー、そしてマスチフ種の犬たち。雪山の救助犬として活躍するセント・バーナードや、アルプスの厳しい山の中でけん引犬として大きな荷物運びを助けるバーニーズ・マウンテンドッグ。厳寒や悪天候、また険しい山岳の中で羊などの家畜を守ってきたグレート・ピレニーズ。水をこよなく愛することから水中での作業に従事するポルトギース・ウォーター・ドッグやニューファンドランド。

これらの作業犬・使役犬は、厳しい状況の中でも懸命に働き、それらの仕事に従事する人々には不可欠な存在であると同時に、より頑丈で勇敢、判断力に優れ、高い知性を持ち備える犬種として改良されてきたのです。

家庭のペットに?

これらのワーキング・グループの犬を作業や使役目的ではなく、家庭のペットとして迎え入れる場合、注意しなければならない点があります。ほとんどの犬種は体が大きく、スタミナに溢れているので、飼い主自身も体力に自信がなければ十分な運動と刺激を与えてあげられないでしょう。また、子犬のころから社会性を養える機会を十分与え、基本マナーを習得させるための訓練もしっかり行うこと。さらに体が大きくなる将来に備えて、周りに対してフレンドリーで、飼い主が楽にコントロールできるようきっちりしつける必要があります。

また、彼らは飼い主からの指示を忠実に従う傾向を持っていますが、飼い主のことを十分に信頼・尊敬し、従えるリーダーだと判断できなければ、自分たちの独自の判断で行動しかねません。さらに、飼い主への忠誠心が非常に強いことから、護衛力が行き過ぎ、いったん守ると決めたらなかなか引き下がらないという性質も持っています。

そんな頑固で強い性格の犬をコントロールするには、ある程度の犬の飼育の経験と知識がなければ飼い主に大きな負担となる可能性があります。残念ながら初心者には不向きな選択でしょう。もし、家族として迎え入れるとするなら、事前にワーキング・グループの犬種を熟知した専門家や飼い主からしっかり情報を入手するのが賢明です。とはいえ、仕事命で忠誠心の大変強いワーキング・グループの犬たち。知識・経験・体力的に相性が良く、これらの犬種たちの要求を満たせる能力があるなら、一度は飼ってみたい夢の犬種かもしれませんね。

次回は「トイ・グループ」について詳しくお話しします。お楽しみに!


雪山で遭難者を助ける仕事に従事するセントバーナード


てらぐちまほ:在米25年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project (www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。愛犬ジュリエットが他界した今は、ニューヨークに移転して新入り犬ノアと活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

『 犬を学ぼう!』講習会をマンハッタンにて開催。詳細は www.doggieproject.com/lecture


2014年2月5日水曜日

第65回「犬のグループ その2」

去年の11月にペンシルベニア州で行われたナショナル・ドッグ・ショーの優勝者は、アメリカン・フォックスハウンドのジュエル(写真参照)でした。彼女の属するハウンド・グループから優勝者が出るのはこの大会始まって以来のことらしく、ジュエルはその快挙を見事に成し遂げたのです。テレビにかじりついていた私も、素晴らしいスタイルでさっそうとリング内を小走りする姿に見ほれ、「この犬が優勝するのでは?」と思っていたらずばり当たりでした!今回はそのジュエルが属するハウンド・グループについてお話しします。

抜群の嗅覚・視覚

ハウンド・グループは、大きく分けると①セント・ハウンド(嗅覚に非常に優れた犬種)と②サイト・ハウンド(飛びぬけた視力を持つ犬種)の二つに分けられます

セント・ハウンドは、鋭い嗅覚を活用して獲物を追跡する目的で改良され、長い間狩猟犬として人間に仕えてきました。現在では、狩猟以外にも麻薬捜査犬や逃亡者・失踪者探索犬としても活躍してます。このグループの犬は垂れ耳の犬が多く、ビーグル、バセット・ハウンド、ブロッド・ハウンド、ダックスフンドなどが含まれます。セント・ハウンドは、遠吠えのような声も使って獲物を追いつめるところから、吠え声が非常によく通ることでも知られています。ビーグルはサイズも小ぶりで、アパートでペットとして飼う人も多いですが、この遠吠えが近所との問題になることもあります。

サイト・ハウンドは、優れた視覚を利用し、遠い距離から見つけた獲物を抜群の瞬発力で追いかけ仕留めることができます。このグループの犬種は、すらっと脚が長く筋肉質でやせ型が特徴です。グレー・ハウンド、サルキー、アフガン・ハウンド、ウィペット、ボルゾイなどがこのグループに含まれます。これらの犬種をペットとして飼う場合、独立心が強く、また小動物を追いかける習性があるケースが多いことを覚えておく必要があるでしょう。セント・ハウンドとは反対に、吠えることが少ないので、都会の住宅街で暮らす際の利点になります。

ハウンドの抱える問題

ハウンド・グループの中には、一番先に人間に家畜化された犬種がいくつか存在し、このグループの犬たちは長い間、人間の生活を支えてきました。現在も狩猟以外の場で引き続き、さまざまな形で人間に仕えるハウンドですが、同時に彼らへの非人道的な扱いが問題にもなっています。世の中には、人間のより良い生活のため、実験に使われる動物がたくさんいますが、犬の代表選手は、ハウンド・グループのビーグルです。扱いやすいサイズ、人間に従順で温厚な性格であること、多産で食欲旺盛という理由などから、動物実験に一番適した犬種として世界中で使われています。それらは、実験用に繁殖・飼育され、さまざまなテストの実験台になり、ペットとして飼われることもないまま一生を終えます。

人間は娯楽のために多くの動物を利用しますが、世界で一番俊足のグレー・ハウンドの競犬レースもその一例。レース犬は2歳前後から訓練されレースに出場、4歳から6歳で引退します。優良なレース犬は引退後も繁殖犬として使われますが、ほかの引退犬はほとんど殺処分されてきました。その非人道的な扱いに、動物愛護団体などが動き、ここ近年、レースを引退したグレー・ハウンドを家庭のペットにという活動が行われています。ペットとして飼われているグレー・ハウンドの多くは、レース場でのその姿とは正反対に、おとなしく手間のかからない犬が多いので、ローメンテナンスな犬が好みの人におすすめの犬種です。

次回は「ワーキング・グループ」について詳しくお話しします。お楽しみに!


SeeSpotRun Photo at The National Dog Show Presented by Purina

てらぐちまほ:在米25年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project (www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。愛犬ジュリエットが他界した今は、ニューヨークに移転して新入り犬ノアと活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

『 犬を学ぼう!』講習会をマンハッタンにて開催。詳細は www.doggieproject.com/lecture

2014年1月5日日曜日

第64回「犬のグループ その1 」

アメリカのサンクスギビング・ホリデーの定番と言えば、七面鳥、パンプキン・パイ、メイシーズ・サンクスギビング・デー・パレード、フットボールなどでしょうが、ここ数年の我が家の定番はテレビ中継されるドッグショーを観ることです。今年もお昼2時間テレビにかじりつきいろんな犬種を勉強しました。現在、世界中で300から400もの犬種が存在します。この世の中で、犬という動物ほどそのサイズの大小から形や毛並みなどバラエティーに富んだ動物はいないでしょう。それは人間が長い年月をかけてそれぞれの役割に合ったさまざまな犬種を作り上げてきたからです。今号から、AKC(アメリカン・ケネル・クラブ)が分類した犬の7つのグループについてお話しします。まずは各グループの概要を説明します。

ハウンド・グループ:あらゆる狩猟の手伝いのために改良された犬種が集まるグループ。一番古くから存在している。大きく分けて、臭覚に非常に優れた犬種(セント・ハウンド)と視覚力が飛びぬけた犬種(サイト・ハウンド)の2種からなる。ビーグル、グレー・ハウンド、バセンジ、サルーキなど。

ウォーキング・グループ:人間のあらゆる仕事(警備や護衛、そり引き、救助活動など)を支えるために品種改良された犬種が集まるグループ。力強さと勇敢さが特徴。セント・バーナード、シベリアン・ハスキー、ロットワイラー、ニューファンドランドなど。

トーイ・グループ:全体にサイズが小さいのが特徴。かつてはそれぞれの役割を持ち人間に仕えていたが、年月と共に人間の愛玩用、装飾用として繁殖されている。チワワ、ヨークシャ・テリア、ペキニーズ、パグなど。

スポーティング・グループ:総合的に活発で機敏、社交性のある犬種が集まるグループ。ポインター、リトリバー、セッター、スパニエルなどから成り立つグループ。コッカー・スパニエル、アイリッシュ・セッター、ラブラドル・リトリバー、ポインターなど。

ハーディング・グループ:羊や牛などほかの動物の群れをまとめる仕事をするために品種改良された犬種が集まるグループ。聡明で飼い主に忠実なのが特徴。コーギ、ボーダー・コリー、ジャーマン・シェパード、シェットランド・シープドッグなど。

テリア・グループ:独立心が強く、エネルギッシュ。行動が激しく、目的を果たすまでなかなかあきらめない。ミニチュア・シュナウザー、アメリカン・スタッフォードシャー・テリア、スコティッシュ・テリア、ボーダー・テリアなど。

ノンスポーティング・グループ基本的にほかの6つのどのグループにも属さない犬種が集まるグループ。チャウチャウ、ダルメシアン、柴犬、フレンチ・ブルドッグなど。ここで紹介したグループ分けはあくまでAKCの分類で、世界のほかの地域ではそれぞれの団体なりに犬種を認め、またグループ分けもかなり異なっています。

以前はドッグショーと聞くと、気位の高いブリーダーや飼い主たちが大金かけて飼育した純血統種の犬たちの集まりという印象があり、近寄り難く思っていましたが、数年前にひょんなことから見物したドッグショーで考えがすっかり変わりました。普段はテレビや本でしかお目にかかれない珍しい犬種をはじめ、本当に数多くの異なった犬種と一気に会える大変「おいしい」機会であり、また特定の犬種をこよなく愛するブリーダーたちから貴重な話が聞ける勉強の場でもあります。犬好きには天国のような催し、機会があればぜひ見に行ってください。

次回は「ハウンド・グループ」について詳しくお話しします。お楽しみに!



「Meet the Breeds」


てらぐちまほ:在米25年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project (www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。愛犬ジュリエットが他界した今は、ニューヨークに移転して新入り犬ノアと活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

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2013年12月5日木曜日

第63回「正しいリード歩行(後編)」

前回、散歩が犬の毎日の生活にどれだけ大切な役割を果たすかをお話ししました。しかし、その重要な散歩も犬が飼い主をぐいぐい引っ張ったり、ほかの犬に吠えかかったり、何にでも飛びついたりというようなマナーの悪さだと飼い主もおっくうになり、排泄のためだけか、全く散歩をしないというケースになることもあるでしょう。すると犬は欲求不満をため問題行動を起こす。誰にとっても満ち足りた毎日にはなりません。快適な散歩をするためには、正しいリード歩行をマスターする必要があります。今回はその方法をマスターするためのテクニックについてお話しします。

まずは道具選び

正しい道具を使用することは快適な散歩の第一歩。リードの長さは6フィートが最適です。また、大抵の地域では6フィートリード着用の法律が定められ、散歩にリードなしや長く伸びるリトラクタブルリードはNG!リードを上手に使うため、リードには何もつけずポーチに必要な物をすべて入れ歩くか、犬にバックパックを使用し持ち歩かせるという手もあります。引っ張る犬、指示を聞かない犬にハーネスの使用は絶対にNG!首輪は総合的にみてマーティンゲールカラーが一番!と私は長年愛用しています。

飼い主の姿勢と心

散歩中、何をおいても大切なのは飼い主の姿勢と心の状態です。顔を上げ、目は前方を見る。肩と手の力を抜き、リードを持つ手はアタッシュケースを持つ感じで常に下に。そして笑顔で歩ければ5重マル。また、街や自然の変化に気がつく心の余裕が持てればなおいいでしょう。散歩中大切なのは、①犬が飼い主に注意を払っていること、②飼い主と犬が共にリラックスしていること、そして③両者が楽しんでいることです。

問題行動の解決法

吠えたら即正す:散歩中に犬がけたたましく吠えているのに、放ったらかしにしている飼い主を見かけますが、それは駄々をこねる子供が道で大声で泣き叫んでいるのに何もしない親と同じです。犬も飼い主から正されないとしてはいけないことがわかりません。放っておいたり、無理やり引っ張り立ち去ったりするのではなく、その場で即座に正し、ストップさせるのが飼い主の役目です。避けた方が賢明という障害物は避け、貴重な練習台と思えば挑戦するという使い分けもしましょう。

引っ張ったら止まる:犬がリードをぐいぐい引っ張って歩く場合、引っ張れば飼い主はすぐ立ち止まります。そこで犬が振り返りこちらに注目したらおやつをあげるなどして褒めます。再び歩き始めます。引っ張ったらまた止まる。こちらを振り返ったら褒める。この繰り返しです。最初は10歩進むのに何分もかかるかもしれませんが、犬に「引っ張る限りどこにも行けない」という概念をしっかり理解させることが大切。これを繰り返しているうちに犬も「どうすれば前に進めるのか」がわかってきます。またジグザグ歩行は危険なので飼い主が決めた側のみを歩かせましょう。

マーキングやにおい嗅ぎをコントロールする:散歩は飼い主のコントロール下という概念を教えるためにもマーキングやにおい嗅ぎを操作しましょう。3ブロック自由に歩いたら、次の3ブロックは真っすぐに進むという具合にメリハリをつけます。犬は教えれば理解し学びます。大切なのは飼い主の根気と一貫性。教えたことは反復し、常に実行します。後はひたすら根気で勝負。愛犬にとって貴重な学習の場である散歩が楽しいものにもなるために、ぜひリード歩行をマスターしましょう。

次回は「犬種の由来」についてお話しします。


「犬を学ぼう!」の正しいリード歩行の練習風景



てらぐちまほ:在米25年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project (www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。愛犬ジュリエットが他界した今は、ニューヨークに移転し新入り犬ノアと活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

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2013年11月5日火曜日

第62回「正しいリーシ歩行(前編)」

「うちは裏庭があるので散歩はしない」「小型犬だから家の中を走り回って十分な運動をしているので外に出さない」と考える人が多いようですが、果たしてそれは犬にとってどうなのでしょう。「室内犬・座敷犬」という言葉を目にすることがありますが、それは売る側が「手間がかからず飼いやすい」と作り上げた言葉に過ぎず、犬種もサイズの大小にも関係なく、犬には毎日の散歩が必要です。散歩は犬のさまざまな欲求を満たす役目をし、また、飼い主と愛犬の関係作りに大変重要な機会なのです。今号と次号にわたり、犬にとって欠かせない散歩と、その散歩を快適に行うための正しいリード歩行についてお話しします。

散歩の重要性

散歩が単なる排せつと運動のためだと考えると大間違いで、散歩は犬のさまざまな欲求を満たす役目を果たしています。オオカミのころから「群れで移動する」という遺伝子を備えた犬にとって、パック(家族)で歩く行為はその本能を満たす上で大切です。犬にとって散歩は、飼い主と行う一日の最大のイベントであり仕事なのです。さらに、人間社会の中で、飼い主のリードで安全快適に、また他人に迷惑をかけずに散歩をこなすことで良い市民の一員となり、その過程で飼い主は愛犬の信頼と尊敬が得られます。散歩は相互関係作りの絶好の場となるのです。室内や裏庭だけで過ごしていれば、犬は社会と出会う機会がありません。好奇心旺盛で常に刺激が必要な犬にとって、新しいもの、変わったにおい、空気や音、老若男女いろいろな人間、近所の犬たちに出会う機会が必要で、それらを通し社会を学ぶのです。犬同士の汚物のにおいの嗅ぎ合いは掲示板のようなもので、ほかの犬の排せつ物で、犬はどの犬がいつどんな心境でその場を通ったかが分かります。それは彼らにとって欠かせない自己存在の宣伝と情報交換の場。散歩は脳と体の活性化の大切な手段で、その機会が与えられない犬は、慢性のストレスや外気や日光を受けることがないことから病気を引き起こす原因にもなります。

悪循環を好循環に

しかし、そんな大切な散歩も愛犬がリードをぐいぐい引っ張ったり、動くものに激しく反応する癖があったり、ほかの犬を見ると気が狂ったようになるなどマナーがなっていないと、飼い主も外に出るのがおっくうになります。すると犬はますますフラストレーションをためこみ、吠える、噛む、などの問題行動を見せ始めたり、臆病で非社交的な性格になったりという悪循環が起こります。正しいリード歩行をマスターするということは、愛犬との散歩を快適に行えるようにするということで、楽に散歩できれば自然に回数も時間も増えてきます。快適で十分な散歩で心身共に満足した犬は、家に戻るとリラックスし、今までストレス発散のためしていたいたずらをする必要がなくなります。また散歩中に愛犬との関係作りが成立してくれば、家での関係ももっと充実します。意識的な散歩を続け、悪循環を好循環にすることで愛犬との暮らしをより快適にする。ちなみに、散歩の恩恵を受けるのは犬だけではないことは言うまでもないですね。

人間の親子が横に並んで手をつなぎ、楽しい話をしながら時々顔を見合わせ道を歩いている光景を見るのが大好きです。理想の飼い主と犬の散歩姿は、そんな人間の親子がほのぼの歩く姿と同じではないかと思います。他人が見てほのぼのするような姿で散歩ができるよう、私も日々愛犬と訓練に励んでいます。

次回は「正しいリード歩行」のテクニックについてお話しします。お楽しみに!



「犬を学ぼう!」リード歩行練習に参加してくれたみなさんと愛犬たち


てらぐちまほ:在米25年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project (www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。愛犬ジュリエットが他界した今は、ニューヨークに移転して新入り犬ノアと活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

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2013年10月5日土曜日

第61回「みとる」とは

以前、シェルターであぜんとする出来事がありました。若い夫婦が12歳の愛犬を連れて来て飼育放棄したいと。パピーのころから育ててきた愛犬の老いを見たくないからという理由でした。連れて来られた犬は12歳には見えないくらい元気で、うれしそうにみんなに愛想を振りまいています。この夫婦は、家にもう一匹10歳になる犬がいるので、数年後、同じように連れて来るつもりであるとも話していました。長年かわいがってきた愛犬たちの変ぼうを見る勇気がないと…。この夫婦は愛犬との別れを済ませ、寂しそうに去って行きましたが、関係者全員言葉が出ませんでした。飼育放棄でやって来る犬は日常茶飯事なのでそれに驚いたのではなく、パーのころから12年間大切に育てたペットの晩年をそういう形で終える夫婦の考え方に大きなショックを受けたのでした。

老犬介護と最期

確かに愛犬の老いていく姿を見るのは何ともつらいものがあります。また老犬介護は飼い主にとって心身疲労になりかねない大仕事です。2年前の私自身の体験を思い出します。愛犬ジュリエットが14歳になるころ、老化が急速に始まり、いろんなところに支障が出始めました。毎晩のように夜中に起こされ、おしっこのために外出。日中お漏らしすることがあるのでオムツを使用。食欲はあるのに自分で食べる力が無くなり、毎食30分かけて手で食べさせるなどです。そして体重は落ちる一方。三回りほど小さくなってしまいました。また、老犬性認知症のような症状から部屋の隅の角に顔を向けぼーっと立ちすくむこと数十分。突然何を思ったのか遠吠えをしたり…。その急速な変化にジュリエット自身も戸惑っている様子。そして飼い主の私は、10年以上運命共同体として一生懸命一緒に生きてきた相棒ジュリエットの老いと向かい合い、これからどうなるのかと毎日が不安で、感情の渦の中をさまよっていました。ジュリエットの体はどんどん衰退し、そして最期の決断。これ以上苦しい思いを続けさせられないと安楽死を決断しました。飼い主として一番つらい責任を果たすことに、胸が張り裂ける思いでした。しかし、人間も犬もすべての生き物に老いは訪れ、最期はやってきます。別れは本当に悲しいことですが、自宅のリビングで愛用のベッドに横たわり、いつものラジオ局から流れるクラシックを聞きながら私の手の中で静かに息を引き取ったジュリエットも私も本当に幸せです。もっと悲しいのは、飼い主が愛犬をみとれないことだと思うのです。

飼い主なき犬たちへのつぐない

飼育放棄で飼い主に捨てられたり、野良犬としてシェルターにやって来たりする犬の多くは、最後の日々をシェルターで過ごすことになります。人間の勝手でそんな悲惨な運命を背負うことになってしまった犬たち。私とチームメンバーで、そんな犬たちの最期を一緒に過ごす係を申し出ました。最後の数時間、布団の上で日なたぼっこをさせたり、ボール遊びをしたり、公園にのんびり散歩に連れ出したり、この時とばかりおやつを惜しみなくあげたり。何も知らない罪のない犬たちに、最後のひと時は温かく楽しい気分でいてもらおうというせめてもの気持ちです。本当に切なく悲しい任務ですが、人間の手で不幸な運命を歩む羽目になったい主なき犬たちへ、同じ人間としてせめてものつぐないになればと…。

次回は、「正しいリード歩行」についてお話します。お楽しみに!



悲しいながらも愛おしい愛犬ジュリエットのおむつ姿


てらぐちまほ:在米25年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project (www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。愛犬ジュリエットが他界した今は、ニューヨークに移転して新入り犬ノアと活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

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2013年9月5日木曜日

第60回 「犬の生きる力」

13年のシェルター活動歴で出合った犬の数はきっと何万匹。みんないろんな思い出を残してくれるのですが、中でも特別心に残った犬のうちの一匹「ミア」。今回はさまざまな問題を抱えてやってくる、シェルターの犬のお話です。

悲しい別れ

今年6月にミアという8歳のメスのピットブルがシェルターにやって来ました。ミアは7年間老夫婦と暮らしてきましたが、おじいさんは数年前に他界し、おばあさんも老人ホームに入ることになりました。老人ホームにミアを連れていけません。周りに引き取ってくれる人もいなかったのでしょう。ミアは最後の家族だったおばあさんに連れられシェルターに捨てられました。

それから2日間、ミアはまったく同じ場所から動きませんでした。毛布の上に体を丸め背中を向けたまま、食べ物も食べず、水を飲んだ形跡もなく、トイレも行きません。あまりの落胆に遮断状態でした。3日目、やっとの思いでケージから出すことに成功。それでも最初は警戒心が強く、体はがちがち。しっぽを後ろ足の間に入れ、目を大きく開け、恐怖で一杯の心境を語っていました。それからもミアのケージに何度も足を運びました。だんだん彼女が心を開き、打ち解けていくのが分かりました。私がケージの前に行くとすっと立つのです。でも、食べ物と薬だけは絶対に食べません。見る見るうちに痩せていき、体も弱り始め病気になりました。結局「友達」と認めたのも私ともう一人のスタッフだけ。ほかの人が近づくとがちがちに警戒します。なんだかもう彼女の中で人生をあきらめたと言っているようで見ていて本当に悲しくなりました。その老夫婦も7年前にミアを飼い始めた時は、最後がこんな悲しい形になるとは思わなかったのでしょう。

愛される力

数日後、奇跡が起こりました。ミアにセカンド・チャンスがやってきたのです! 正直なところ、ミアが引き取られる確率はかなり低いと思っていたので心がずっしり重くなり、現実の酷さと難しさ、自分の無力さ、いろいろ考えさせられていました。そんな時、うれしいニュースが舞い込みました。ミアを引き取ってくれるというグループが現れたのです!

ミアが去る日、最後のデートをしようと近くの公園に出かけました。するとどうでしょう。ミアが初めてリードを引っ張りぐんぐん歩きだしました。「早く!早く!」とでも言っているかのように。その元気に驚いていると、公園に着くなり今度は芝生の上をうれしそうに走りました。あのミアが走っている。驚きでした。公園のベンチで私になでられながらミアは笑っていました。きっと自分の身に何が起こっているのかわかっていたのだと思います。ミア自身も「私はまだまだ生きたいんです」と言っているようでした。

長年一緒に過ごした家族に捨てられた直後のミアは全く何も受け付けようとせず、自分の命をすっかり見捨てているようでした。それから少しずつ心を開いてくれたミア。彼女を見ていて思いました。愛されている、大切にされているということを感じることで「もう一度」という力が湧き出すことを。ミアは家族とは離れ離れになってしまったけど、この世の中にまだ自分のことを愛し、大切にしたいと思っている人たちがいることをしっかり感じてくれたのだなと。そして、それが「生きたい」という力になったのだなと。しかし、残念ながらみんながミアのようにチャンスをつかめるわけではありません。ミアが引き取られていった日も数匹の動物たちが安楽死させられました。

次回は、「看取るということ」についてお話しします。


心を開いてくれたミア。公園にデートに連れ出したら大喜び


てらぐちまほ:在米25年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project (www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。愛犬ジュリエットが他界した今は、ニューヨークに移転して新入り犬ノアと活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

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