2017年5月3日水曜日

第103回「犬と相続」

もし今、あなたの身に何かあったら、残された愛犬の運命は? 冒頭から脅かすような話題ですが、そんな「万が一のこと」を考えたことがありますか? 飼い主が突然不幸な目に遭い、この世を去ったために、路頭に迷う運命を辿ることになった犬をたくさん見てきました。飼い主に100%生活を委ねる犬にとって、「飼い主の安否=自分の安否」なのです。今回は、もしもの場合に備えて、飼い主が愛犬のためにしておけることについてのお話です。

世界一大金持ちになった? 犬

今年の始め、医療保険の更新をする際に、Life Insuranceにも入ってみることにしました。受取人は、「息子」のノアです。さすがに、公式の書類に「受取人 愛犬ノア」とは書けませんが、この保険金は、私に万が一何かあった時、残されたノアのために残す遺産です。保険会社の担当者によると、私が特例ではないらしく、最近では、残されたペットのためにとLife Insuranceをかける人がうんと増えたということでした。
私が残すノアへの遺産など、本当に微々たるものに過ぎませんが、溺愛していた愛犬を残しこの世を去った大富豪から、数億ドルの遺産を相続したマルチーズのトラブルの話は有名です。孫にも残さなかった遺産を、溺愛していた愛犬の老後にと数億ドルを残して死んだ時、「世界一大金持ちになった犬」と世間を騒がせました。結局、溺愛してくれていた飼い主が居なくなった後は、「普通の犬」として暮らしてこの世を去ったと、後日談を読んだ記憶もありますが。

もしもの時のために

その大富豪のようなことが出来る人は稀としても、愛犬のために、凡人の私たちにも、もしもの時に備えてやっておけることはあります。①後見人を探す:家族が居れば、後を託せますが、一人の場合は、愛犬を引き取ってくれるか、次の家をきちんと見つけてくれる後見人を探し、事前に話して了承を得る。②遺書を書く:後見人を見つけ、了承を得たら、その旨も含め、残すものなどの詳細を「遺言」として記しておくといいでしょう。また、その記は、後見人にシェアしておくことを忘れずに。③愛犬のResumeを作る:愛犬のProfileを記載した「Resume」を作る。飼い主しか分からない愛犬の好き嫌いや癖、生活習慣などの詳細を、誰が読んでも分かるように書いておきます。また、内容をたまにアップデートすることも忘れずに。④社会性に富み、環境の変化に適応能力のある犬に育てておく:何と言っても大事なのは、愛犬を「暮らしやすい犬」に育てておくことだと思います。飼い主しか受け付けられない犬だと、飼い主を失った時、「次」を見つけるのに大きな壁となってしまいます。こんな時のためにも、日頃から社会性に富む犬に育てておくようにしましょう。
備えあれば憂いなし。絶対に起こって欲しくないことではありますが、万が一の事態も考え、愛犬のために、こういうところまで準備するのが、愛犬をこよなく愛するということだと思います。
次回は、「リーシの意味」と題し、飼い主と愛犬の間に繋がるリーシの深い意味のお話です。お楽しみに!

出来れば永遠に一緒にいたい。けれど…
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てらぐちまほ在米28年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2017年4月3日月曜日

第102回「犬ビジネス」

 昨秋、生まれて初めてひどい腰痛を患いました。大型犬の飼い主としては致命傷。完治するまでの間、愛犬ノアも私も苦労続きの日々を過ごすことに…。散歩はノアとの二人三脚で何とか乗り越えましたが、ノアの持病の湿疹対策のシャワーは、あの腰痛ではさすがに無理。それがきっかけで、近所のDog Self-Washのお店を見つけ、感動と感謝の気持ちで一杯になりました。ペット産業が繁栄する昨今、犬の飼い主には大変便利な世の中になったと思います。今回は、最近発見した犬(犬の飼い主)向け便利製品のお話です。

犬にも乳母車?

 東海岸にいた時、道や地下鉄、公園などで乳母車(ストローラー)に乗る犬を見かけました。中からワンワン吠える犬もいれば、中に何かいる? と確認したくなるほど静かな犬もいました。日頃、犬にとっての散歩の重要性を強調している私が、ストローラーに乗る犬を見た時にどう思ったか。答えは「悪くない」でした。物は何でも使い様一つ。マンハッタンのような混雑した街を、周りに迷惑かけずに、安全に移動したり、公共の場所を訪れたりするには便利な武器です。人混みを長いリードでうろちょろ歩かせるのは非常識。ストローラーを使えば、周りも気遣えるし、愛犬も守れます。

Azukiの新しい味方

 犬用ストローラーの活用法は他にもあります。老犬や障害で歩行困難な犬とその飼い主にとって楽に外出ができる強い味方なのです。
 カリフォルニア在住のヨーキー、Azukiは左前脚の神経が麻痺し、肩より下は使うことが出来ません。そんなAzukiに最高の味方ができました! と大喜びなのは、Azukiのママ。Baby用品でお馴染みのCombi社が開発した犬用ストローラー、Milimili(写真参照)をゲットし、生活が変わったと。「この製品は、以前使っていた物より使い勝手がうんと優れていて、小回りの利き方も非常に素晴らしく、また、座席が取り外しでき、足も簡単に折りたためるその多様性には感動。価値あり!」と絶賛で、大変重宝していることが伺えました。もちろん主役のAzukiも大のお気に入りで、座席の前方の窓部分から地面を見ては、自分で一生懸命歩いているような気になっている様子が大変健気で可愛いいそうです。
 ひと昔前までは、飼い犬と言えば用途は番犬。犬達は一日を裏庭か、玄関先で過ごし、夜は犬小屋で孤独に寝るというのが当たり前でした。しかし、「飼い犬の概念」というものがどんどん変化してきた今、飼い犬を我が子か伴侶のように考える飼い主にとっては、犬ビジネスの発達は願ってもないこと。犬に興味のない人たちに、「行き過ぎでは?」と思われても、飼い主にとっては実際非常に助かっています。ただ、物は使い様。使い方で白にも黒にも転びます。飼い主が犬を擬人化してしまい、犬用の便利なサービスや製品を「擬人化した愛犬」に提供すると、矛盾や問題が生じます。その辺りの線引き基準がきちんと分かり、現代社会で可能になったサービスや製品を上手に活用できる飼い主でありたいものです。
 次回は、「犬と相続」と題し、飼い主に万が一のことがあった時に愛犬のために備えるお話です。お楽しみに!


                  Milimiliに乗って得意気なAzuki
                   Photo by Emiko Mizumoto
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てらぐちまほ在米28年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2017年3月3日金曜日

第101回「エネルギー」

犬の飼い主さんから相談を受ける際、「飼い主のエネルギーを意識して愛犬と接していますか?」という問いかけを必ずします。なぜなら、犬との暮らしにおいて、飼い主のエネルギーは非常に大切だからです。「エネルギー」という言葉を聞くと、物理的なパワーのみを想像する人が多いですが、エネルギーは、「活力」と「気力」から成り立ち、言葉そのものの概念は「物体が仕事をなし得る能力」を意味します。今回は、飼い主の「活力」と「気力」の両方のエネルギーについてのお話です。

犬選びの鍵

毎日の生活を共にする愛犬を選ぶ時、犬と人間の両者の活力エネルギーのレベルの一致を考慮に入れることは大変重要なポイントです。読書や映画鑑賞が趣味で、もっぱら家に籠るタイプの人に、力溢れ余る犬種との暮らしはストレスです。もちろん犬にとっても同じです。愛犬との活力エネルギーがマッチしていないと、毎日がカオス状態になり、生活全体に大きな悪影響をもたらしかねません。それでも、私は「自分の人生にやってくる犬は意味があって巡り会う」と信じるので、バランスが取れてなければ、取れるようにする。その犬はライフスタイルを変えるために現れたのだ、と思うところもあります。例えば、運動嫌いで不健康な人が、活力一杯の犬と巡り会う。それは健康になるための運命であり、犬が差し出す重要な課題なのだと。しかし、チャレンジが、「エベレスト登頂」のようではハードルが高すぎて挑む気持ちになれません。犬の活力レベルは、やはり無理のない選択をする必要があります。見かけや、流行や、「可哀想だったから」という一時の感情で選んだ結果、けた違いな活力レベルの差で苦しむこともあるので、向こう10年以上の毎日の生活のことを考え、賢く選択しましょう。

気力のダイアル

犬は飼い主の「気力エネルギー」を始終観察しています。また犬は、飼い主の気力エネルギーに大きく影響されます。悲しんでいたら愛犬が慰めてくれたという経験や、そんな話を聞いた人も多いと思います。人間が興奮すると、犬も一緒に興奮します。もし飼い主が情緒不安定なら、愛犬の感情に大きな影響を与え、問題行動につながったり、病気になったりもしかねません。反対に、飼い主の気力エネルギーが常に平静で安定していれば愛犬にも自然に伝わります。一心同体と言っても過言ではないでしょう。
飼い主の気力エネルギーの巧みな使い方は、愛犬とコミュニケーションをとる上での鍵になります。気力のダイアル(飼い主の心の本気度・真剣度)を持っていると想像し、上手にその量の調節をします。いつも上げっ放しでは、いざと言う時の切り札的効果が失われてしまうので、「この時」という時のMAXを把握しておき、切り札に使います。愛犬が飼い主の気力エネルギーに全く反応しなければ、リーダーとしての役目を果たしていないという証明です。気力エネルギーの量とその効果を、試行錯誤しながら発見することで、ダイアル操作が上手に出来てくるようになります。そうして経験を積んでいけば、技ある長けた飼い主になり、愛犬との意思の疎通がうまく出来るようになっていきます。
このように、犬の飼い主として、愛犬と快適な暮らしを続けるためには、「活力」と「気力」が上手く兼ね合った巧みなエネルギーバランスが必要です。そのためには、飼い主は心身の健康を維持することに気を配り、常に上質なエネルギーを発散できるようにしていたいものです。
次回は、「犬ビジネス」と題し、昨今の犬に関するビジネスのあれこれのお話です。お楽しみに!
          「僕もヨガでエネルギーのトレーニングです」。著者の愛犬ノア
                   Photo © Maho Teraguchi
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てらぐちまほ在米28年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2017年2月5日日曜日

第100回特別記念号「Dear Juliette - 今は亡き愛犬に捧げる手紙 - 」

 早いもので、あなたがレインボーブリッジのもとに旅立ってから5年半以上もの日々が過ぎました。でもね、形は変わってしまったけど、あなたは今もここに居て、お母さんは毎朝、頭をポンポンと撫で、寝る前は、おやすみのキスをしているんですよ。外に出かける時は、「留守の間、弟のノアを守っていてね」とお願いします。そして、あなたがちゃんとノアを守ってくれているのが分かっているから、安心して外出できます。いつもありがとう。
 「ドギーパラダイス!」が100回を迎えましたよ。100回続いたら、その時は、ジュリエットに捧げる記事を書こうってずっと考えていました。覚えてる? 一番最初の特別記事が発刊される時、編集者さんがうち来てくれて、私たちの写真撮影会をしてくれたね。とても良い思い出です。もし、あなたと出会っていなかったら、この「ドギーパラダイス!」を書く機会もなかったものね。それを言うなら、お母さんがドッグ・トレーニングやレスキュー活動の世界に入れたのも、弟分のノアと出会えたのも、ジュリエットがいたからです。お母さんに、大切な人生の使命を発見するきっかけを運んで来てくれたね。
 ジュリエットと出会うまでは、ピットブルという犬種のことも良く分からず、また、この犬種が被っている差別や、闘犬絡みの人間の悪事も知りませんでした。そんな辛い過去を体験してきたあなたとの出会いで人生が一変しました。あなたのことを愛すれば愛するだけ、辛い思いをしている犬たちを助けたい、人間が犬に犯している罪のつぐないをしたいと、どんどん思うようになりました。愛する犬達のために、とにかく一生懸命になりました。
 あなたと暮らした11年半、振り返ると激動の日々だったけど、ジュリエットがいたから乗り越えられたんだよ。苦も楽も全てをあなたと共にし、あなたは本当に最高の運命共同体でした。生まれて初めて、自分よりも大切なものの存在を知りました。ジュリエットはお母さんの宝でした。その世界で一番大切な宝に「さようなら」をしなければいけなかった時の心の悲痛。今まであんなに辛い気持ちになったことはなかったよ。あなたを失うくらいなら、毎晩夜中に何度でも起きて、あなたを抱き上げ外にトイレに連れて行く、どんなことでもする、だから引き離さないでと願ったけれど、あなたはお母さんのことをちゃんと考えて、「もう力が尽きたから逝かせて」と頼んだね。泣いて、泣いて、泣いて…顔が変わってしまっても、また泣いて。でもね、あなたをこの腕の中で見送れたこと、私たちは運命共同体だったから、最期まで一緒に頑張れたんだと自負しています。
 そんなあなたに教えてもらったお母さんの人生の使命は、この世の中から辛く、悲しく、痛い思いをする犬がいなくなること、人間が犬と本当の意味で共存できる世の中にすることです。出来ることは小さいかもしれないけれど、諦めずに頑張ります。一日一人でも仲間になってもらえたら、一日一匹でも不幸な犬が幸せになったら。こつこつ頑張ります。だから、いつまでも見守っていてね。
 愛する犬達のためにやることはまだまだ一杯だけど、使命を全うしたら、必ずあなたの傍に行くから、レインボーブリッジのふもとで待っていてね。その時は、ノアも一緒に家族で楽しい毎日を過ごそうね。ずっとずっとずっと大好きだよ。
 次回は「飼い主のエネルギー」と題し、力と精神の両面からみた飼い主のエネルギーのお話です。お楽しみに!

第1回の記事を書いた時に撮ってもらった、愛犬ジュリエットとの記念写真
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てらぐちまほ在米28年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2017年1月5日木曜日

第99回「愛情の定義」

「愛犬を愛していますか?」という問いかけに、NOという飼い主はいないと思います。きっと誰もが「もちろん愛しています」と言うでしょう。ただ、溢れ余る愛情を存分に注いでいるから、愛犬とは最高の絆が築けている、という方程式が成立していないこともあります。愛は一杯なのに、誰もが羨むような素晴らしい関係になれないのはなぜか? 今回は、「愛情の定義」と題し、飼い主の愛犬への愛情ということを考えてみます。

可愛過ぎて

 「まるで、ぬいぐるみのようで、可愛いくて、可愛いくて、どうしても厳しくなれない…。」「いじらしい顔で見つめられたら、ついつい甘やかしてしまう…。」心当たりがある人がたくさんいるのではないでしょうか。犬を愛していればいるほど、このような気持ちになりがちです。しかし、犬は自分の行動を飼い主が、“いじらしい”とか、“あどけない”と思っていることを知りません。また、自分の見てくれが、飼い主をとろけさせているとも思っていません。飼い主が自分にぞっこんで、「何をしても許される」という概念は犬には謎です。
 愛犬が可愛過ぎるとこんなことも経験あるのではないでしょうか? 食卓の横でおこぼれをじっと待つ愛犬に人間の食べ物をいそいそ与える。自分のことを好きでいてもらうために、大好物のおやつを欲しがるだけあげる。いつも猫撫で声で赤ちゃん扱いをし、優しい飼い主でいようとする。心配で犬のやることなすことを目で、頭で、体で追い回す。何でも先回りして守ろうとする。しかし、そんな毎日では愛犬も息が詰まってしまいます。大切な愛犬の一挙一動が気になったり、何がなんでも守りたいと思ったりするのは、どの飼い主も同じはず。しかし、ルールもけじめもない、やりたい放題の生活や、行き過ぎた過保護は犬にとって本当の意味で幸せでしょうか? 飼い主の過保護で甘やかし過ぎな愛情表現は、幸せへの障害なのです。

犬が犬であることの大切さ

 人間関係でも同じですが、自分本位で気持ちをぶつける愛は、決してバランスのいい関係につながりません。「愛する」ということは、相手を知ること、相手を幸せにするために、必要な時に必要なものを与えられること。相手を理解し、相手を見守れることだと思います。だからと言って相手が欲しいというものを与えまくり、喜ぶからと好むことだけを一生懸命にして尽くすことが、相手を思う愛ではありません。時には、眉間にしわを寄せ、厳しく低い声を出すことも必要。心を鬼にして、渋い顔でぐっと我慢するのも愛情。人間社会の中で生きる犬は、人間に100%依存して生きていかねばなりません。心身の健康を維持するのも、身の安全を守るのも、社会の一員として周りと協調し共存できるようになるのも、人間の力をかりねばなりません。そして、それを叶えてあげるのは飼い主なのです。
 人それぞれ愛の尺度やその表現は違います。また、何が正しい、間違っているというのも人それぞれ違うので、愛犬への愛情を定義するのは難しいことです。しかし、犬を犬と捉えることは、犬を尊敬するということであり、それこそが犬を愛することではないかと信じます。
 次回は、ドギーパラダイス!100号記念特別記事です。お楽しみに!

犬の一生は短い。限りない愛情で育てたい。

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てらぐちまほ在米28年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2016年12月5日月曜日

第98回「エモーショナル・サポート・ドッグ」

少し前に、朝のテレビ番組「TODAY」を観ていたら、エモーショナル・サポート・ドッグというシステムを悪用し、必要のない人が愛犬を公共の場に堂々と同伴させ、他人に迷惑をかけている事件が氾濫していると報道されていました。しかし、別の番組では、必要な人がエモーショナル・サポート・ドッグを連れて外出したら、店から「犬禁止」と追い出され、大変困ったというニュースも見ました。一方では、システムを乱用し他人に迷惑をかける人がいて、他方では、思うようにシステムを利用出来ず、困っている人がいる…。今回は、最近世間を騒がせている「エモーショナル・サポート・ドッグというシステム」の大切さと問題点を探ってみます。

犬の力

 エモーショナル・サポート・ドッグ(またはエモーショナル・サポート・アニマル)とは、精神的な病気(鬱病、パニックアタックなど)で苦しむ人を精神的に支える犬のことで、特に資格などなくても、病人の助けになるということを医師が認めたら、正式に利用できるシステムです。犬好きには、犬の存在の大きさ、また犬を撫でたりするだけで得られる心の平穏は、言うまでもなく理解できると思います。世の中には、精神的に病み、苦しむ人が数多く存在し、そんな人たちにとって「存在だけ」「撫でるだけ」で薬以上の助けになるのがエモーショナル・サポート・ドッグ。現在、多くの人がこのシステムを利用することで、感情のバランスを保ったり、心の平穏を得たりするのに役立てています。しかし、ここ最近、この便利なシステムに目をつけ、悪用している人間も増えています。オンラインで安価で簡単に非公式な認定証を入手し、「病に必要」と平気な顔で自分の愛犬を飛行機の乗客席に連れ込んだり、レストランで一緒のテーブルで食事をしたり。しかし、それらの家庭犬は、公共の場で邪魔にならない厳しい訓練を受けたサービスドッグのように平静に振る舞えないことがあり、周りに迷惑をかけるケースが多発しているようです。

人間の勝手

 愛犬ノアは私にとっての世界で唯一のエモーショナル・サポート・ドッグです。彼の存在が、どれだけ日々のストレスや不安・心配・喜怒哀楽の感情のコントロールのバランスを保つために役立っているか…。しかし、私は医師に診断された心身を病む患者ではありません。ネットで非公式の認定証を入手し、ノアを無料で飛行機の座席の横に乗せるような試みはしません。誰も彼もが、きちんとしたステップを踏まずに、安易に、自分勝手にシステムを乱用すると、不必要な問題が起こってしまいます。それに歯止めが効かなくなると、「システムすべて」が廃止になりかねません。そういう人たちのせいで、本当にエモーショナル・サポート・ドッグの力が必要な人たちや、果てには、常識ある犬の飼い主が迷惑するはめになるのです。関係機関は、本当にエモーショナル・サポート・ドッグを必要としている人たちを守るために、認可方法の再検討と、システム管理の強化をする必要があると思います。
 愛犬との暮らしは、自分と愛犬だけの世界ではなく、周りと平和に共存できてこそ、快適なのです。犬の飼い主一人ひとりが、大きな目で物事の判断をすることが、愛する犬を守るのだということを再認識したいものです。
 次回は、「愛情の定義」と題し、愛犬を愛するとは? というお話です。お楽しみに!

システムの悪用・乱用が、本物に悪影響を与えることにもなる

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てらぐちまほ在米28年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2016年11月5日土曜日

第97回「The Sato Project」

The Sato Projectというアニマル・レスキュー団体で、日々情熱を注ぎ活動する、ニューヨーク在住の友人、松村けい子さんをインタビューしました。今回は、そのThe Sato Projectの紹介記事です。
麻穂:The Sato Projectの概要を教えてください。
けい子:2011年に、英国人のクリッシー・ベックルスが立ち上げた団体です。彼女のご主人が映画のスタントマンで、撮影でプエルトリコを良く訪れるようになったのですが、ビーチに捨てられ野犬になった犬達が、あちこちで群れをなし生き延びている姿を見て愕然としたのがきっかけです。プエルトリコには、「デッド・ドッグ・ビーチ(犬の死の海岸)」と呼ばれるビーチがあります。道の行き止まりにある海岸で、家もない、人も居ない「地獄」のような場所。村人はそこに犬を捨てに行くのです。ただ捨てられるだけではなく、火をつけられたり、傷つけられたり、あるいはギャングによって銃の試し撃ちに使われたりと、悲惨な目に遇わされているのです。その虐待された犬たちを救おうと、正義感の強いボクサーのクリッシーが立ち上げたのが The Sato Project* です。現地ボランティアは、毎日ビーチに行って、犬たちに餌や薬を与え、保護して治療もします。保護した犬を去勢したら、アメリカに運び、里親を探して引き渡すという活動を行っています。
麻:けい子さんがThe Sato Projectに関わることになったきっかけは?
け:Facebookを見ていた時、以前に飼っていた犬と、今飼っている犬がミックスしたような犬の写真を見つけました。その犬の一時預かり募集の投稿でした。ただ彼に会ってみたい、彼のために何か出来ればと、いう思いでクリッシーに連絡をしました。それが活動に関わったきっかけです。
麻:けい子さんは、現在どんな活動をしていますか?
け:主に、フォスター・ケアです。保護された犬に家族を見つける前に、人間との生活のハウツーを教える活動です。そして、この活動を少しでも多くの日本人家族に経験してもらえるよう、また知ってもらえるよう、広報活動もしています。
麻:活動をする中で、大変なことはなんですか?
け:ビーチから送られてくる犬の多くは、人間との家庭生活が初めて。ビーチでの生活では見たこともない、階段、エレベーター、自転車、バス、地下鉄、そしてリーシュ歩行。全てに慣れるまで24時間でクリアする犬もいれば、時間がかかる犬もいます。それぞれの犬の性格を短時間で見極めること、また苦手を克服させるのが大変です。
麻:関わってよかったと思える時はどんな時?
け:意味があって地球上に犬として命を授かったにも関わらず、人間の勝手で一度は不必要とされるわけですが、この団体の助けで命を吹き返す、更には思ってもいない幸せを得て犬の一生を全う出来る助けに携われることです。
麻:読者のみなさんに一言メッセージをお願いします。
け:次から次へと休みなく犬を預かっていると、疲れが増して「こんな犬預からなければよかった」と思うこともあります。そんな時に、私の気持ちを察して「見た目はこんなですが可愛がってください、ヨロシク」と目で訴えてくるのを見ると「ごめんなさい」と我に返ります。誰よりも空気を読んで私の気持ちを一番に察してくれるのです。家族が見つからないかもと勝手に判断をしてしまった犬に、「まさか!」の素晴らしい家族が見つかった時、神様がちゃんと見ていて、家族とこの犬を巡り会わせてくれたんだ。この家族が来るのを待っていたんだ、運命ってあるんだな、と思うことが沢山あります。
この活動を通じて、沢山の素晴らしい人に巡り会いました。沢山の幸せを見てきました。是非、この経験をみなさんとシェアしていけたらと思っています。
次回は、「Emotional Support Dog」のお話です。お楽しみに!
*団体についての詳細は、http://www.thesatoproject.org/をご覧ください。

わんぱくだったローラも、家が見つかった今は、
お行儀良い家庭犬に変身。けい子さんと愛犬のハンナと記念撮影。
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てらぐちまほ在米28年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com