2016年9月5日月曜日

第95回「飼い主の特典」

今年の7月23日に、全米各地で一斉に「Clear the Shelters!(シェルターを一掃しよう!)」というキャンペーンが行われ、家を失くしたペットに新しい家族を見つける運動が行われました。有力メディアの協力もあって、イベントは大成功。合計4万5000匹以上のペットに新しい家族が見つかったそうです。読者のみなさんの中にも、この夏に犬の飼い主になった人もいるのでは? 犬と暮らすと、良いことが一杯あります。今回は、私が日頃からつくづく感じている「犬の飼い主の特典」についてのお話です。

様々な発見と収穫

犬と暮らし始めると、決まったリズムに安堵を覚える犬の習性に合わせるため生活が規則正しくなります。犬と散歩することで運動量も増えます。散歩は、運動量を増やしてくれるという利点だけでなく、自然の変化から、散歩道の家やお店、建物などの移り変わりまで、今までは気にも留めなかったような様々な発見もあり、日常に新たな刺激を運んでくれます。また、犬を連れていると、色んな人から話しかけられるようになり、さらには、「犬好き」という共通点があれば、人種も、年齢も、性別も、言葉をも超えて、多くの人々と親しくなり、犬談義が弾みます。

生きる糧

犬は、飼い主に「なんとかなるさ! 大丈夫。」と思わせてくれる魔法を持っています。何か大変な問題があっても、どんなに心身が疲れていても、何も知らない愛犬の無邪気で健気な姿を見れば全てが吹き飛ばされます。そんな愛おしい愛犬を死ぬまで大事にしようという気持ちがどんどん湧き、人生に張りができ、生きる糧が生まれてきます。愛犬を守るために、一生懸命仕事をしよう。自分自身も怪我や病気をしないよう、健康に十分注意しようという責任感が生まれます。実家の父がいい例です。年老いてからパピーと暮らし始めた頃は、「この子を看取るのは無理だろう…」とそんな寂しい言葉をよく発していました。しかし、責任感の強い父は愛情一杯でパピーを育てました。そのパピーは去年16歳で大往生するまで年老いた父と母に生き甲斐を与えてくれたのでした。

犬に育てられる自分

愛犬家から「うちの犬が人間の言葉を話してくれたらどんなに嬉しいか…」と言う願いをよく耳にします。そう思うところもありますが、実は私は犬との会話が人間の言葉に頼らないところがとても好きです。犬は「犬語」で、人間は「人語」でそれぞれ自己表現するのですが、相手のことに精通していれば「共通語」を話さなくてもしっかり意志の疎通が出来ます。ただ、そこに至るためには、飼い主は、犬という動物を熟知し、愛犬から終始発せられるメッセージをきちんと理解し、お互いを分かり合わなければいけません。忍耐なくては成就できない業、これは子育てスキルと全く同じです。そして、この犬の親業の過程で得るものは、人生の色んな側面で大いに役立つわけです。
人間に生活を100%依存する犬を育てる時、自分自身が本当に大きく成長します。犬を育てながら、自分が犬に育てられる。それは、犬の飼い主の真の特典だと信じます。
次回は、「タイミングは命」と題し、犬とのコミュニケーションにおいてのタイミングの重要性のお話です。お楽しみに!

足並み揃え、愛犬と一生に成長する

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てらぐちまほ在米28年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com