2016年3月4日金曜日

第89回「リーシ嫌い」

やっかいな犬の飼い主によく出くわします。自分の犬の糞の後始末をせず、平気な顔でその場を立ち去る飼い主はその一例。前にお話した愛犬の異常吠えを何もせず、放ったらかしにして近所に迷惑をかけている飼い主も一例。しかし、個人的にもっと迷惑でやっかいだと思うのは、散歩時にリーシを使わない飼い主です。今回は、リーシ嫌いな犬ではなく、リーシ嫌いな人間についてお話します。

法律違反


私が今までに住んできた町にはかならず「Leash Laws」がありました。Leash Lawsとは、犬の飼い主に対して、自分の犬を常にコントロールできる状態にすることを義務づけた法律です。具体的には、散歩に出かけたり、公共の場や犬の出入りが認められている私有地に入ったりする場合は、6フィート以内のリーシを用いて、自分の犬の行動を抑制しなければならないという飼い主の責任です。要するに、犬の飼い主に自分の犬も周りも守りなさいというものです。
 
犬好きが陥りがちな悪い癖は、世の中の人間全てが犬好きと思いこんでしまうこと。しかし、世の中には犬が嫌い、怖いと思う人もたくさんいます。また、同類の犬が苦手な犬も多くいるのです。リーシなしの犬に突然近寄ってこられたら、たとえそれがフレンドリーな行為だったとしても、受ける側がパニックになることも多いです。それが少々攻撃的だとしたら、犬同士の場合けんかにつながることも。リーシをしていれば引き離せても、オフの場合は引き離すのが大変困難です。また、オフの犬がジョギングやサイクリングしている人を追いかけている光景を見ることがありますが、追いかけられた方はたまったものではありません。
愛犬を守れるのは飼い主
愛犬は何が何でも自分が守るという信念を持つ私にとって、愛犬をリーシなしで外に出したり、散歩したりする飼い主の気持ちはどうしても理解できません。近所に、玄関の戸を開けて飼い犬2匹をリーシなしで放ち、自分はパジャマ姿のまま戸口で待っている人がいます。犬たちは戸が開いた途端、クモの子を散らすように去って行きます。糞の始末は誰がしているのでしょうか? 誘拐されたり、交通事故にあったりという心配が頭をよぎらないのかと不思議です。知り合いが、リーシなしにしていた愛犬が目の前で車に轢かれ即死したことを「馬鹿な犬」と言っていました。罪の意識を隠す気持ちの表現かもしれませんが、犬が馬鹿だったのでしょうか?
親子が歩く姿
犬と飼い主のリーシ歩行は「人間の親子が手をつないで道を歩いている姿」と同じようなものだと、レッスンの際いつも説明しています。親の手を振りほどいて勝手にどんどん先を歩く子供。駄々をこねて暴れ、半分引きずられるように歩く子供。または、親の手をしっかり握り、時々顔を見上げてはまた前を見て歩く子供。どれが理想の図と思いますか? 犬と飼い主をつなぐリーシは、親子が握る手と手なのです。そして、それは「命綱」でもあるのです。6フィートのリーシで、飼い主は愛犬の安全を確保し、守る。また、あのリーシを使って社会を、自分たちの位置を教え、絆を深めるのです。そんな大切な用具であるリーシをちゃんと使えるようになり、道を歩く姿に誰もが微笑ましい気持ちになる愛犬と飼い主を目指したいものです。
 
次回は、「暮らしやすい犬」と題し、うちの愛犬ノアが一番誇れる部分についての話です。お楽しみに!

親子の散歩姿。愛犬との散歩もこうでありたい

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てらぐちまほ在米27年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2016年1月25日月曜日

第88回「シェルターを離れて」

東海岸に住んでいた頃、14年間アニマ ル・シェルターでとにかくがむしゃらに 働きました。ところが、2014年秋に西海 岸に引っ越し、新生活を築くことに必死 になっているうちに、ふと気がつけばシ ェルター生活から離れて1年という時が 過ぎていたのです。今回は、過去14年間、 生活の大部分を占めていたシェルターで の活動から離れて1年経った今の心境を お話します。

恩返しに

4年半前に他界した愛犬ジュリエット との出会いが、シェルターでの動物愛 護活動の始まりでした。人間に虐待され、 ぼろぼろにされて道端に捨てられた1匹 のピットブル。彼女がたどり着いた先の パセイク・アニマル・シェルターのみん なは、その命を尊び、何とか救おうと懸 命に頑張ってくれました。その彼らの努 力で私とジュリエットは出逢えたのです。 それまで、動物愛護という世界とほとん ど接点がなかった私ですが、彼らの活動 ぶりに大変な感銘を受けました。そして、私もシェルターでチャンスを待っている たくさんのホームレス犬たちの役に立ち たいと15年前にその世界に飛び込んだの です。それはジュリエットの命へ、私と ジュリエットの運命への恩返しでした。

痛んだ心 

大好きな犬たちと思う存分に時間が 過ごせ、たくさんの犬たちと深い絆が築 けるシェルターでの仕事は私にとって夢 のようでしたが、愛するものの無残な運 命を痛いほど見せつけられ、無力を感じ、 悲しみと、悔しさと、怒りで眠れなかっ た夜は数えられません。

シェルターの戸をくぐってやってくる 犬に罪はないのです。彼らが陥った状況 (彼らを手にした人間)のせいで多くの犬 たちは短く儚い一生を終えていきます。1 匹の犬に家族を見つけても、捨てられて シェルターにやってくる犬の数が莫大過 ぎて絶望的になります。クレートの上に クレート、またその上にクレートと、積 み上げられた中に犬たちが窮屈そうに 入っている光景を見て、何度も嗚咽を 上げそうになりました。

それでも、大好きな犬のために、少 しでも役に立っているのならと無我 夢中で働きました。犬の前では絶対 に涙を流さない。自分の中の掟にな りました。後30分で安楽死させら れてしまう犬たちに、最後は楽し い思いのまま逝ってもらおうと一 緒に走って、笑って、そして見 送る。感情を押し殺さなければ できない仕事でした。何年も悲しみや悔 しさを押し殺し、頑張れ頑張れと自分を 励ましてきたせいで、いつの間にか私は 泣けない人間になっていました。14年間も愛するものの辛く悲しい局面を直に経 験し、心が痛みきっていたのです。涙が 枯れきっていたのです。現場を離れ、心 がずたずたになっていたことに気がつき ました。

しかし、私には使命があります。無 念に逝った犬達の命がどれだけ尊いもの であったかをいつまでも覚えていてあげ る、犬のために闘う、この社会問題を周 りの人間と考えていく。現場で体験した ことを絶対に無駄にしてはいけないので す。去年簡単な手術を受けることになり、 緊張の中、麻酔で眠りについた途端、夢 と現実の間から犬たちが何匹も私のベッ ド周りに現れ、私を励ましてくれました。 新たに自分の使命と宿命を確認した体験 です。またシェルター生活という縁が めぐってくるかはわかりません。しかし、 どこで何をしていても「犬と共に生きる」 のが私の道です。



この世の中からホームレス犬が いなくなることが願い

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てらぐちまほ在米27年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com


2015年12月5日土曜日

第87回「嫌な犬」

迷惑ジャック 

ジャックは、斜向えに住む10歳のオスのジャック・ラッセル・テリアです。新居に引越してきた日に、何も知らずジャックの家の前を通りました。すると、窓をガッツンガッツン叩きながら窓越しに私に吠えかかる犬が。それがジャックとの初対面でした。嫌な予感がしましたが、的中。ジャックはとにかくうるさい犬で、彼の家の前を通る犬に、子供に、大人に、物音に、何にでも過敏に反応し、けたたましい声を上げ、玄関の鉄の網戸や窓をバンバン叩き吠え叫びます。前を通るものは迷惑極まりません。 また、ジャックの飼い主が外出すると、今度は「文句吠え」が始まります。戸が閉まった途端、「おい!俺を残してどこに行く!戻って来い!いい加減にしろ!」と言わんばかりの金切り声で吠え叫び続けます。 しかし、ジャックの飼い主が「No」「Stop」「Enough」などとジャックの行動を正すところを見たり聞いたりしたことがありません。

犬だから…

ジャックの飼い主は、愛想のよい優しそうな若いカップルで、近所付き合いも「上手く」やっています。ジャックのことも、可愛い洋服を着せ換え「可愛がって」います。ただ、散歩や運動はというとトイレのため程度で、敷地外で散歩をしている彼らと出くわしたことはありません。ジャック・ラッセル・テリアの気質を知っている人なら、この犬種がどれ程の体と頭の刺激を求めているかが分かると思いますが、生憎ジャックにはそれらが与えられていないようです。そうして溜まったストレスを吐き出す方法が「異常吠え」。さらには、その問題行動さえ正されないという悪循環の毎日です。

もしこれが人間の子供だとしたら…。家の前を通る犬や人に暴言を叫び続けたり、家族が出て行った後、大声で文句を叫びまくったら、大抵の親は子供を叱り、諭すのではないでしょうか?それが、犬だと「いいか」で済むものでしょうか。ジャックに関してはなぜここまで放任なのだろう?と不思議になります。これくらいの吠えは犬だから仕方ないと思っているのか、迷惑は分かっているけど、何をしていいのか分からずここまで来てしまったのか、はたまた、「愛犬は生きたいように生かせたらいい」と言う自由尊重主義なのか。ラッキーな彼らは、近所がみんな寛大だから、今ままで大きな問題にならずに来たのでしょうが、場合によっては警察沙汰になったり、引越し要請が出たりという可能性もあり。そんないざこざが起こってしまったら、困り果てた挙句にジャックをシェルターに連れて行くのでしょうか。可愛い愛犬にはどうしても厳しくなれないと放任していることで、吠えてるジャック自身も、毎日ものすごいストレスになっているということを飼い主が理解してあげるべきです。

飼い主次第で

私は本当に犬が好きです。この世の中の何よりも好きです。ただ、社会性が養われていない、嫌な面ばかりを出している犬は、犬が大好きだからこそ苦手です。犬にいい姿を思い切り出させるか、醜い動物に豹変させるかは一緒にいる飼い主一つ。飼い主の育て方で全部変わります。犬は飼い主を選べません。ジャックも、もし他の飼い主のところで暮していれば、または、飼い主が奮起していれば、彼の良いところをふんだんに見せて、周りに好感を持たれる犬となれるでしょう。犬としてもっと幸せな日々を過ごせる可能性があるのに…と思うと不憫でなりません。いつか何かのきっかけで飼い主が奮起することを願うばかりです。

次回は、「シェルターを離れて…」と題し、14年間通い続けたシェルターでの活動から離れて一年経った今の気持ちについてのお話です。お楽しみに!


窓越しにノアと私を「攻撃する」ジャック

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てらぐちまほ在米27年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2015年11月5日木曜日

第86回「カリフォルニアのビーチ事情」

颯爽とかっこよくサーフボードに乗りサーフィンする犬。砂浜で仲間と楽しそうにたわむれ、水しぶきを浴びながら海の中に走って行く犬。真っ赤なサンセットを背中に飼い主とのんびり砂浜を散歩する犬。カリフォルニアのビーチでは、犬と飼い主が、生活の一部として海を満喫しているイメージがありますが、実はそうではないのです。今回は、意外なカリフォルニアのビーチ事情についてお話します。

行けども行けども

ジュリエットを飼い始めた直後のことです。「さあ、憧れだった”愛犬とビーチで海水浴“を楽しもう!」と意気込んで車を走らせ海に向かいました。下調べもせずに行ってみると、どこもかしこも「犬禁止」のサインが。ジャージー・ショアと呼ばれるニュージャージー州の長い海岸線のビーチを上から一つ一つ当たりましたが、行けども行けども「犬禁止」。唯一OKだったのが、州立公園のビーチのみ。それからと言うもの、泳ぐのが大好きだったジュリエットを連れて行くのは、もっぱら山の中の川か湖でした。 

ニューヨークに越してからも、事情はほとんど変わらず、数少ない「犬天国ビーチ」であるファイアー・アイランドにだけノアを何度か連れて行きました。この島に行く公共のフェリーボートには犬が同乗でき、「DOG」と記された犬用の切符と犬の料金もあり、そのドッグ・フレンドリーさには顔がほころびました。

犬天国ビーチ

さて、カリフォルニアで見つけた今の住居。付近にある数々の絶景のビーチへは20~30分の距離という便利さ。しかし、「カリフォルニアのビーチは犬と飼い主の生活の一部」というイメージはほぼ夢であったことが判明。所変わっても事情は同じで、衛生面の理由からほとんどのビーチが、砂浜と海水への犬の立ち入りを禁止しています。

そんな犬に悪状況のカリフォルニアでも、評判高いドッグビーチがあると噂を聞きました。一つはLong Beach Dog Beach (www.hautedogs.org/beach.html)。もう一つは、Huntington Beach Dog Beach (www.dogbeach.org) です。この二つのビーチでは、犬も自由に砂浜を駆け回り、海に入ってじゃぶじゃぶ泳ぐことが出来ます。週末はもちろんのこと、平日でも、これらのビーチには、海と自由を満喫する犬とその飼い主がたくさん訪れ、いつもにぎわっています。しかし、美しいカリフォルニアのビーチを犬天国と楽しめるのも、その裏で多大な努力をしている人々がいるからです。これらのドッグビーチは、犬と海をこよなく愛するボランティア団体によって作られ、守られています。彼らが市を説得し、権利を勝ち取ったと言っても過言ではないのです。犬が入れるエリアはきちんと区切られ、また、そのエリアの使用に関して厳しく細かいルールが設けられています。ルールが守れないなら立ち入り禁止。まさしく、それは、海と犬を愛する人たちの自由を守る努力です。

犬好きでなくても、犬天国のビーチを楽しむ犬と飼い主たちの姿を見ていると思わず顔がほころぶもの。機会があれば是非一度訪れてみてください。

次回は、「嫌な犬」と題し、日頃困った気持ちにさせられる犬についての話です。お楽しみに!


ビーチで愛犬ノアと遊ぶ著者

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てらぐちまほ在米27年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com


2015年10月5日月曜日

第85回「飼い主の期待」

親なら子供が生まれた時、その子にさまざまな期待を託すでしょう。「頭のいい子になりますよう」「大物になってほしい!」「優しい子になってください」など。同様に、犬の飼い主も愛犬にさまざまな期待を抱いているのでは?今回は、「飼い主の期待」と題し、自分の懺悔的経験を基に、飼い主の期待がもたらす愛犬との関係についてをお話します。

余裕ができたら

やっと犬を飼うことを決意し迎え入れたジュリエット。そんな彼女との暮らしは、どちらかと言うと無我夢中で、彼女に対してあれこれ期待を持ったという記憶はありません。というのも、ジュリエットは私と出会う前は、人間から拷問、虐待を受ける生活で、飼い主から社会性を学ぶ機会や、十分な運動、また愛情さえも与えられたことなし。期待を抱くより、普通に楽しく暮らせればそれでいい、という気持ちが一番でした。ところが、現在の愛犬ノアをアダプトした頃は、自分に「犬と暮らす」という点で余裕があったために、その頃成長期真っ盛りの彼への期待が、それはそれはたくさんありました。

実はノアと出会う数年前に、その当時通っていたアニマル・シェルターで、「これぞ理想の犬!」という犬を見つけました。当時は高齢のジュリエットとの二人暮らし。残念ながら、どう頑張ってもジュリエットより一回り大きいエネルギー溢れる若い雄犬を迎え入れることは無理でした。しかし、それからも私の頭の中には偶像化したその犬のことが頭の片隅にありました。

何か違う

その理想犬は、なんとも自信に満ち溢れた犬でした。といって他者に恐怖感を与えるようなことはまったくなく超社交的なのですが、実に堂々としていました。だから私は、容姿の似たノアを同じような性質だと勝手に思い込んで、自信に満ちた犬になるのだろうと、大きな期待を抱いていたのです。それもそのはず。うちに来る前に付けられていた名前は「マッチョ(逞しい男)」でした。しかし、実はノアはアメリカで言うなら「チキン」そのもの。体は大きいのに、気の小さい弱心者。ビビリ光線を発しまくるので、いじめるタイプの犬たちに何度も襲われています。私の中で「何かが違う」というギャップを感じていたのは確かです。にも関わらず、勝手に自分の枠に入れようとしていました。しかし、ノアはノア。私の期待に沿えないことは沿えないと、彼なりの意思表示や反発をし、しばらくはちぐはぐな関係が続きました。そのうち、私が「本当のノア」を見ることができ、彼のそのままを受け入れ、それを彼の長所と愛し始めたら、ノアとの関係はぐっと接近しました。

ノアは、牙を剥くことも、唸ることもしません。嫌なら逃げるか観念する。そんなノアですから、赤ちゃんでも、外で初めて会う人でも安心して遊ばせることができます。臆病だけど、ひょうきんで人懐っこいノア。彼のすべてが理解できる今は、以心伝心で何でも分かり合える関係になりました。相手に色々期待を抱くのも愛情のしるし。しかし、現実とのギャップと真っ直ぐ向き合うことが、飼い主の真の愛の証明ではないでしょうか。

*今号で執筆5年になりました。いつもご愛読ありがとうございます。これからも引き続き宜しくお願いします。次回は、「CAビーチ事情」と題し、カリフォルニアのビーチと犬についての話です。お楽しみに!



お互いの長所も短所も全部把握し合った仲に

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てらぐちまほ在米27年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2015年9月5日土曜日

第84回「アニマル・ホスピタルで」

去年カリフォルニアに引っ越して来たばかりの頃の話です。ノアの予防注射のために、近所の動物病院に行きました。触診が済み、注射という段階になって獣医師が「すぐに戻って来ますのでここでお待ちください」とノアを連れて別室に行ってしまいました。どうして別室へ?と不思議に思いましたが、そこのやり方を尊重しようと黙っていました。すると5分も経たないうちに、獣医師がノアと戻って来て、「ノア君はお母さんがいる方がいいみたい。何度も後退して逃げようとするので戻って来ました」と。診察や注射の際には、飼い主の私がいつもサポートすることを話し、首輪をスッと持ちました。ノアはじっと立って注射を受けました。獣医師曰く、飼い主のほとんどが、診察、治療を始めるとパニックになり、診察室一杯にネガティブなエネルギーをふりまくので、大変治療がしにくいそうです。それなら、一層飼い主の姿がない方がスムーズに治療が進むと別室に連れて行くのだとか。もし、飼い主の大半がそうだとしたら、それはとても恥ずかしい話。今回は、動物病院やグルーミングストアなどでの飼い主の対応についてのお話です。

可哀相?

治療を受けたり、グルーミングされたりする際に、犬が慣れないことで緊張したり、嫌がると、飼い主の中には、「うちの子があんな顔をしている…。ああ、可哀相…」とわなわなして、ネガティブなエネルギーを放つ人がいます。すると、犬は自分の置かれている状況が恐ろしいものだと思い、もっと酷く反応します。また、万が一の噛み防止につけるマズルに異常に反応する飼い主もいます。あんな姿にさせられて…とでも思うのでしょうか。これはトレーニングでも同じです。今まで飼い主にチャレンジされたことのない犬は、専門家からの初めての指示で大変戸惑い、抵抗します。そんな様子を見た時、飼い主が「可哀相…」と思えば、犬も今起こっていることが悪いことだと思うでしょう。怪我や病気の治療、グルーミング、そして問題行動改善やしつけのレーニングは、すべて愛犬が快適な生活を送るため、と飼い主が心から理解すれば、犬もついてきます。しかし、飼い主が不必要な心配・懸念・間違った同情を抱くと、犬は自分の身に降りかかっていることはネガティブとしか思えません。

自分の犬こそ自分で

誰に何をされるのも平気という犬もいます。そんな犬の飼い主なら楽ですが、残念ながらそんな犬ばかりではありません。噛もうとしたり、逃げようとしたり、反応はさまざま。愛犬にとって大切な治療やグルーミングなどをよりスムーズにこなすためには、飼い主の日頃の努力が必要です。歯磨き、爪きり、耳掃除、ブラッシング、お風呂、家の中に入る際の足拭きなど、日頃から家で飼い主がなんでもできるようにしていれば、特別な状況で、愛犬がいつもよりパニックになっても、飼い主がコントロールできるわけです。また、飼い主が冷静でいられれば、専門家からの大切な情報がきちんと聞け、またレベルの高い飼い主だと認められ、専門家とより良い関係作りにつながります。家での手入れですが、最初は上手くいかなくても、根負けせず、楽しくリラックスした雰囲気の中、毎日少しずつ慣れさせていきましょう。大事なのは、飼い主が「なぜ大切なのか」ということを根本的に
理解すること。そうすると、飼い主としてすべきことが見えてくるはずです。

次回は、「飼い主の期待」と題し、自分の経験談をもとに、飼い主が愛犬に寄せる期待と現実のギャップ、それを乗り越えて得るものの話です。お楽しみに!


家での歯磨きを習慣化させることは大切

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てらぐちまほ在米27年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com



2015年8月5日水曜日

第83回「嫌われたくない飼い主」

日本の我が家は、6人家族プラス犬一匹でした。6人もいると「愛犬が誰を一番好きか」という競争になります。一番好かれていると自信たっぷりだったのは長姉。愛犬プルートは、長姉を見ると、尻尾ふりふり大喜びです。それもそのはず、彼女はプルートに対して、厳しい顔を見せたり、しつけに関わったりしたことはなし。そんな局面に立つと、誰かに「叱って〜」「なんとかして〜」と逃げの構えで、自ら立ち向かわず、常に優しい飼い主としての立場を守っていました。しかし、長姉が我が家の愛犬といい関係を築いていたか? となると疑問です。今回は、「愛犬に好かれたい」と願うばかりに取っている、飼い主の間違った行動についてお話しします。

甘やかしのディスペンサー

愛犬がそばにいてくれるだけで私は幸せだから、溢れんばかりの感謝の気持ちを込めて、贅沢三昧、やりたいようにさせている。あのまん丸でつぶらな瞳で見つめられたら、なんでもハイハイと愛犬の大好きなトリートをあげたり、自分の食事まで寛大に分け与えたりもする。犬の大好きなトリートを使って気を惹こうと必死な飼い主もいます。

「駄目!」と叱った時に見せる、あの悲しそうな顔を見るとなんとも可哀相で、どうしてもしつけられない、また、愛犬の間違った行動を正すと、犬に「嫌な人間だ」と思われるとか、やりたいようにしている行動をコントロールするのは「意地悪」と捉えてしまう人もいます。「愛犬に嫌われたくないから」と、犬のしたいようにさせていると心当たりがある人はいませんか?

犬と上手な関係を作れる人は、犬の気を惹こうと一生懸命媚びたりしません。なぜなら、犬と関係を築くために、人間が媚びる必要がないからです。異常に好かれようと努力しても、犬は信用できない人は分かります。反対に、犬が「この人!」と思えば、必ず犬の方から愛情表現を示してきます。

Tough Love

私が学校の教師をしていた時に、子供たちに「私たちが悪いことをしていたらもっと厳しく叱ってください」と言われたことがありました。正直、驚きましたが、子供たちがそこまで上からのガイダンスの必要性を感じていることに感動したものです。まさか犬が「問題行動していたら、きちんとしつけてください」と催促してくることはありませんが、即時に「正す」「褒める」の繰り返しで、きちんとしたガイダンスを提供すれば、どんどん犬が飼い主を信頼するようになり、尊敬できる存在として接してくるのです。

本当の意味の愛犬への愛情とは、いつでも、どんな時でも安心し、ついていける飼い主がそばにいてあげること。信頼され、尊敬される飼い主であること。そう思われるためには、犬に不可欠な質と量の運動を提供し、犬が立派な社会の一員となるためのしつけをし、そして、健康管理をすること。それこそが、愛犬をこよなく愛しているということではないかと思います。そうなって初めて、犬は「この人!」と感じ、飼い主は本当の意味で犬から愛されるのです。

次回は、「動物病院にて」と題し、獣医師やグルーマーなど、犬の専門家たちが困っていることについてお話しします。お楽しみに!

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てらぐちまほ在米27年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com