2018年1月5日金曜日

第111回「おしっこ・うんち」

愛犬のおしっこやうんち、日頃からきちんと観察していますか? 排泄物は、犬の健康状態を示す大切な信号です。飼い主は、普段から愛犬の排泄状況や出た物の状態をチェックし、何か変化があれば、すぐに気がつけるようにしていることが大事。今回は、飼い主として知っておきたいおしっことうんちのお話です。

健康のバロメーター

体の調子が悪くても、言葉で説明できない愛犬の健康状態を知るために、排泄する時の行動や排泄物は指標になります。普段から、愛犬の排泄の回数、仕方、量、色、臭いなどに着眼しておきましょう。異常を発見するために覚えておきたいのは、急に排泄の回数が上下するなどの変化を見つけることです。また、出したいのに出せないで困ったり、苦しそうにしたり、悲痛な声を上げたりしたら要注意。
しっかりとしたうんちがたっぷり出たから良い! というわけでもなく、たくさん出ているということは食べ過ぎのサインでもあり、また、食べたものにいらないものが多く含まれていたという意味になります。体に良いものを食べていると、うんちの量が大量になることはありません。食べ物の質を見直して、うんちの量の変化を見てみるといいでしょう。同じ食べ物を食べさせていると、おしっこやうんちの色も臭いも一定のはずですが、もし色や臭いに変化があったり、異常を感じたりしたら、現物を持参して専門家に診てもらうのが良いでしょう。
愛犬ノアがまだパピーだった頃、ちょっと目を離したすきに、容器に一杯入ったワセリンをほぼ全部舐めてしまったことがありました。すると大変な便秘に……。とにかくうんちが出せない。しゃがんではいきむのですが、何も出てこない。ノアも私も焦って困り果てました。色んな人の意見を参考に、ヨーグルト、繊維の多い果物や野菜を一杯食べさせ、とにかく体を動かしました。すると、やっとのことで変な色のうんちが出て、一件落着。今では笑い話ですが、異物を食べて命を落とす犬もいるので、愛犬が食べてはいけないものを口にしてしまわないよう十分気をつけましょう。

犬の連絡網

散歩中の犬の排泄方法を見ていたら、犬のおっしこやうんちが「体に不必要なものを排泄する行為」だけではないことが分かります。犬は、くんくんと地面や木や電柱などの臭いを嗅ぎ、排泄する場所選びに多いに時間を費やします。また排泄の回数ややり方(オスの場合、足の上げ方)など排泄にこだわりも示します。それは、犬たちが自分の排泄物を使って仲間たちとコミュニケーションを取っているからなのです。犬は、他の犬の排泄物の臭いで「いつ」「だれが」「何を食べ」「どんな健康状態で」「どんな精神状態であるか」などが判断できます。また、人間にとってはどうでもいいような排泄の場所や位置選びは、犬の間ではとても重要な意味をなします。そのため犬たちは一生懸命地面などの臭いを嗅ぎ、情報収集します。自分たちの排泄物の臭いが見えない相手との「会話」なのです。排泄した後に土を蹴る行為も同じような意味があります。地面を蹴ることで足の裏から分泌物を出し、それをまき散らして自分の領域表示をします。また、メス犬は発情期には、自分の排泄物で周りのオス犬たちに発情していることを連絡します。ただし、臭い嗅ぎが犬にとって大切な行動だからと、散歩中、終始犬に主導権を渡し、したいようにさせていいというわけではないので誤解のないように。
深い意味がいっぱい詰まった犬のおしっことうんち。これからの散歩で愛犬の排泄を観察し、学んでみると愛犬との生活が一層楽しくなると思います。
次回は「犬の毛色」と題し、細かく分けられている犬の被毛の色についてのお話です。お楽しみに!

“ピーメール”でご近所の仲間に連絡中の著者の愛犬ノア
Photo © Maho Teraguchi

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てらぐちまほ在米29年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2017年12月4日月曜日

第110回「犬とホリデーシーズン」

町中がキラキラときれいなイルミネーションで飾られ、気持ちも躍る季節になりましたね。この時期は、きっと多くのお家でパーティが行われることでしょう。最近は、愛犬も家族の一員として、または主役と化して、パーティに同席するのが当たり前になってきました。今回は「犬とホリデーシーズン」と題し、何かとイベントが続くこの時期に怪我・事故のない楽しい時間を過ごすために、飼い主として気を付けておきたい点のお話です。

痛っ!

実は、そういう私も、この夏自宅で行ったBBQパーティの際に、大怪我をしてしまいました。パーティのことで気もそぞろになっている私を愛犬ノアが不意に引っ張り、顔面から転倒するはめに。足も捻挫し、大変な思いをしました。「浮き立つ」という言葉が物語るように、特別なことがあると、飼い主の気持ちがそぞろになってしまい、普段はきちんと出来ている愛犬の監督もおろそかになりがちです。そうすると、計算外のことが起こってしまう時も。そして、せっかくの楽しい時間にも水を差してしまい、良いところなしという結果に……。
お客さんが気を利かせて愛犬の散歩などを買って出るかもしれませんが、自分の犬が一番分かるのは飼い主です。やめた方が良いと思えばはっきり断る。お客さんでも、変な気を遣わずに、正直に対応すると余計な事故やケガを防げます。また、パーティ中に、愛犬が賑やかな場所から隠れることの出来るスペースと時間を提供してあげることも忘れないで。声を出して気持ちの説明が出来ない犬を守ってあげられるのは飼い主です。特別なイベントの際でも愛犬のことを一番に考えてあげましょう。

今日は特別?

特別な時だからと、犬が人間の食べ物をたくさん頂戴することになるのも、このホリデーシーズンです。しかし、それは犬にとって、健康にもしつけにも良くないこと。人間には美味しいものでも、犬には毒になる食べ物も色々あります(*)。また、色んな人から次から次へとトリートなどをもらい、食べ過ぎでお腹をこわす可能性もあるので、食べる量も気を付けてあげましょう。少々の甘やかしは良いにしても、普段絶対にさせないことを「今日は特別」とさせてしまうと、犬を混乱させることになるので、普段だめなものは特別な日でもだめ。それが本当の意味で愛犬のためになっていることを忘れないように。

ギフトに犬!?

クリスマスに犬をプレゼントにすることについては、賛否両論あるでしょう。私は基本的には賛成派です。それというのも、贈り物はそれだけひとしおの心入れになるので、一生大切にするという気持ちを育む意味ではいいアイデア。しかし、サプライズギフトにするのだけは絶対に避けましょう。命ある犬は、店やオンラインショップで買って、気に入らなかったら返品出来る商品とは違います。犬に返品はありません。ギフトで贈ると決めたら、準備の段階から一緒に楽しむ贈り物にすればいいと思います。
今年のホリデーシーズン、愛犬にも可愛くおめかしさせて、お家でゲストいっぱいのパーティで盛り上がるのもよし。それとも、賑やかなイベントを避け、愛犬と車で遠出のホリデー旅行もよし。怪我や事故のない楽しい時間をお過ごしください。

Happy Holidays!
次回は、「おしっこ・うんち」と題し、犬の排泄物の裏に隠されている意味についてのお話です。お楽しみに!

ホリデーシーズン、愛犬の様子をチェックすることも忘れないように

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てらぐちまほ在米29年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com


2017年11月4日土曜日

第109回「迷い犬」

ハリケーン、地震、山火事と2017年は、いつにも増して自然災害の発生が多かったように思います。世界のどこかで大災害があるといつも考えさせられるのが、混乱の中でもし愛犬とはぐれてしまったら……ということです。今回は、「迷い犬」と題し、万が一愛犬がいなくなった時、また、道端で路頭に迷う犬を見かけた時のために気をつけるべき大事なポイントのお話です。

愛犬がいない……

万が一愛犬が行方不明になってしまったことを想定して、以下の準備をしておくことをお勧めします。①マイクロチップを埋め込む:マイクロチップとは小さなガラスのシリンダーに入った電子チップで、そのチップは、注射器のようなものでペットの体に埋め込めます。チップには特定の数字が設定されていて、スキャナーを通すとその数字が読み取れます。チップ販売元に飼い主のインフォメーションを登録しておけば、万が一愛犬が迷子になり、保護された先でスキャンされたら、登録されたインフォをたどって飼い主に連絡が来るという仕組みです。ちなみに、愛犬ノアには、HomeAgainという会社製のマイクロチップが埋め込まれています。②首輪に名札を付ける:愛犬の名前と飼い主の連絡先を記載した名札を首輪につけておきましょう。その際には、書かれた情報が擦れて消えないような名札を選ぶこと。ただ、迷子になった際に首輪が外れてしまう可能性もあるので、マイクロチップは必ずしておくことをお勧めします。③Lost Dogの張り紙を作る:実際に愛犬がいなくなったら、パニック状態になる可能性が大です。普段からいざという時のために写真入りの張り紙を作っておきましょう。また、定期的に内容をアップデートすることを忘れずに。④近所のシェルターなどのリストを作る:保護される可能性のある周辺のシェルターや、警察署の所在地と電話番号やメールアドレスをリストにしておきましょう。また、ソーシャルメディアのLost Dogのサイトもブックマークしておくと良いでしょう。

この子はどこの子?

路頭に迷っている犬を保護したが、シェルターに連れて行くと安楽死させられてしまうのでは? と不安になり、自分の家で飼うか、新しい家を見つけてあげようとする人がいます。一見とても尊い行為に思えますが、実は、そうすることで本当の家族との再会のチャンスを妨げてしまっています。迷い犬を保護したら、まずは動物病院やシェルターなど、マイクロチップが埋め込まれているかを確認できる所に連れて行きましょう。また、近辺のシェルターの掲示板や、オンラインなどで、すでに飼い主がLost Dogとして探していないかも確認すること。自分の犬にしたり、新しい家を探したりするより、どこかで夜も眠れずに愛犬を探している飼い主がいるかもしれないということに焦点を当てて、飼い主探しに力を入れるべし。昨今では、ソーシャルメディア上での情報拡散によりインフォメーションが伝達されて飼い主と愛犬が無事に再会を果たすというケースも多いです。
愛犬と飼い主が離れ離れになってしまうことは悲しいことです。最悪の事態になっても、愛犬が飼い主の手元に戻るように、日頃から出来る限りのことをしておきたいですね。
次回は、「犬とホリデーシーズン」と題し、どうしてもいつもと違うルーティーンになるホリデーシーズンに、犬の飼い主として気を付けたい点についてのお話です。お楽しみに!

飼い主のもとに帰らせて……

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てらぐちまほ在米29年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com


2017年10月5日木曜日

第108回「犬はカガミ」

ホモ・サピエンスの人間と、カニスの犬。生態的に大きく違うこの二つの動物ですが、この二者について私が思う一番顕著な違いは、心と裏腹な行動を取れる人間に対して、犬にはそれができないというところではないかと思います。今回は、「犬はカガミ」と題し、私が日頃から、犬たちは人間の「カガミ」だと感じていることについてのお話です。

犬は飼い主の鏡(カガミ)

グループ・レッスンでも、プライベート・セッションの際でも、途中で犬がとんちんかんなことをし始めたり、集中力を欠いてしまったりすることがあります。しかし、飼い主の方はというと、至って平静。でも、実は、この犬の行動の裏には、リーシを握る飼い主の心理状態が大きく関係しています。人間がいらいらしたり、不安になったり、他の事で頭が一杯になったりしたら、リーシの反対側にいる犬は、その人間の心理状態(エネルギー)を丸写しにした行動に出ます。そういう状態を見かけると、私は、すかさず飼い主に「何かに気を取られていますね?」と問いかけます。すると飼い主の方は「どうして分かったのだろう?」というような顔を見せますが、それは自分の犬が鏡になって飼い主の心理状態を教えてくれているからです。人間がいくら平静を装っていても、犬には隠せません。特に飼い主の心理状態は直接的に愛犬の行動に反映されます。
愛犬の問題行動がうまく改善できずに困惑している人に相談を受けたら、「愛犬は飼い主の鏡なので、愛犬の行動を見て、(飼い主の)進歩具合をはかってください」と話しています。すなわち、愛犬の問題行動が直らないのは、飼い主自身の本気度が足りていないからで、飼い主次第で、愛犬の問題行動は変わるということです。
「犬は鏡! と、常に忘れず思っているので、彼の行動で私達の本気度が分かります。思ったよりもっと、もっと、なんでしょうね。意外と奥深いので、その辺を心してやっていこうと思います。犬がきちんと『まだまだだよ!』と教えてくれているんですね。犬は本当に正直でありがたいです」。トレーニングを担当した、ある飼い主さんの言葉です。

犬は生き様の鑑(カガミ)

犬は、飼い主の心を映し出す鏡であると記してきましたが、私にとっては、犬は生き方の鑑(カガミ)です。すなわち、彼らは人生のお手本。犬は、過去を引きずらず、明日に不安を抱かず、とにかく今を一生懸命に生きます。しかし、我々人間はというと、ついつい昔のことにこだわったり、先のことばかり考えたり……。そんな時は、犬の生き様をお手本にすることを心に刻みます。今をしっかり生きることがすべてにつながる! と。
犬が、信頼したり尊敬したりするものを選ぶ尺度も私にとっては人生の鑑です。お金や名誉や学歴や美貌などはまったく関係ない。彼らが信頼し、尊敬する対象は、心身共に強く逞しく、常に冷静な判断が下せる精神の持ち主なのです。そういう要素を基準に、相手を信頼し、尊敬できるかをはかる犬は私には鑑です。
犬の考え方は、すべてが白か黒。行動も白か黒。グレーゾーンのない、直球勝負で生きる犬の世界は私には鑑です。そして、生きる姿勢の鑑である犬との暮らしは、私にとっては何ものにも代えることのできない貴重な財産です。
次回は、「迷い犬」と題し、もし愛犬がいなくなったら、また、飼い主とはぐれて路頭をさまよっている犬を見つけたらどうするかについてのお話です。お楽しみに!

犬をお手本にして生きたい
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てらぐちまほ在米29年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2017年9月5日火曜日

第107回『犬が運ぶ青少年の未来』

私が尊敬して止まない人物の一人、ティア・マリア・トレスさんは、仮釈放中の犯罪者とピットブルテリアという、いわゆる世間から風当たりの強い二つのグループを組み合わせ、アニマル・レスキュー団体を経営しています。彼女の偉業は、Animal Planetでもシリーズ番組化され(“Pit Bulls & Parolees”。現在も放映中)エミー賞にもノミネートされたほどの評判です。一体、何が偉業なのか。それは、人生のどん底をさまよってきた犯罪者に、ホームレスのピットブルテリアたちの世話をさせることで、今までとまったく違った人生観を見出していく手助けをしているからです。今を懸命に生きる犬たちの姿勢、そして、犬と築く信頼と絆から彼らは再び生きる糧を見つけていきます。
私の住むLAにも似たようなプログラムがあります。こちらは、様々な問題を抱えて暮らす高校生たちと、シェルターで暮らすホームレス犬という組み合わせ。今回は、その高校生たちとホームレス犬のプログラムのお話です。

犬の力

カリフォルニア州のサンタモニカに、K9 Connectionと呼ばれる非営利団体があります。その団体は、様々な問題を抱えて暮らす周辺地域の高校生たちに、シェルターの犬を訓練させることで更生の機会を提供しています。参加している高校生たちは、低所得家庭、またはホームレスの家庭の子供たちで、貧困、家庭内暴力、精神疾患、ドラッグなどの問題と日々向かい合っています。そんな高校生たちが数週間かけて、シェルターの犬に基本的なしつけを教えるのですが、犬にコマンドを教えることはたやすいことではありません。意思が通じ合わないと、なかなか言うことを聞いてもらえません。また、トレーニングは忍耐力を要します。しかし、正しく教えれば、必ずきちんと応えてくれるのが犬。自分が訓練した犬に新しい家族が見つかってシェルターを旅立って行くという経験は、高校生たちの心を揺さぶります。そして、彼らはその経験を通して、生きるということの本当の意味を見出していくのです。

子供の力

このプログラムを体験した子供たちのほとんどが、学校の成績が伸びたり、性格や行動の改善に成功したりしています。夢にも思っていなかった大学に受かったり、将来の道が具体的に描けたり。また、子供たちはプログラムを通して、チームワーク、友情、信頼関係、責任感を学びます。何といっても、自分のことを頼りにし、待っている犬の存在のお陰で、毎日さぼらず学校にやって来ます。もし、彼らにこんな機会が与えられていなければ、高校は中退。また、犯罪に関わる確率も高くなり、一生希望を持たずに毎日を過ごしていたかもしれません。将来彼らが、世間を困らせる存在になるか、世間で活躍する存在になるかは、こういったプログラムの有無が大きく左右するのです。これからの時代を担っていく少年少女たちに、規律と責任感を教えながら、周りと協力することによって、必要とされる気持ち、将来への希望と夢を抱かせる機会を与え、立派な青少年になってもらうことは、私たち大人が取り組むべき義務なのだと思います。
私自身は、このプログラムを見つけてから、多大な興味と関心を持っているので、そのうち必ずボランティア活動を始めたいと考えています。その時は、実体験の記事をここでご紹介します。
次回は、「犬は鏡」と題し、愛犬は様々な角度で、飼い主の鏡になっているというお話です。お楽しみに!

助けて、助けられて

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てらぐちまほ在米29年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com


2017年8月5日土曜日

第106回「Dementia(認知症)」

 愛犬ジュリエットが13歳を超えた頃から、「おかしな行動」を見せるようになりました。部屋の隅で何にもないところをずっと見つめていたり、キャビネットの扉を開けっ放しにしていると、その中に頭を突っ込んで必死で中に入ろうとしたり…。椅子やテーブルの脚など、狭くて通れないようなところに無理矢理入り込みたがり、最後には出られなくなってあがいたり…。どれも脳の老化からくる症状でした。家庭犬の寿命が延びた昨今、多くの飼い主が、愛犬の示す様々な老化現象を経験しています。今回は、犬の老化現象の中のDementia(認知症)のお話です。

主な症状

 日本の実家で飼っていた犬、プルートも長寿だったゆえ、老後になってからはおかしな行動を良く見せていました。例えば、ご飯を食べた直後に、台所に立つ母に即座にご飯をおねだり。それも、全然食べさせてもらっていないような悲壮な声で要求していました。「今食べたところ」ということが理解出来なくなってしまっていたのだと思います。
 犬の認知症で良く見られる症状としては、①徘徊(意味もなくぐるぐる回り続ける)、②夜中の遠吠えや泣き続け、③頻尿やお漏らし、④異常な食欲、⑤理解力の低下によるおかしな行動、などがあります。
 愛犬ジュリエットが高齢になった時、幸いにも、昼夜の逆転による夜中の徘徊や、泣き続けはありませんでした。しかし、同じところを円を描いてクルクル歩き回る老犬の話はよく聞きます。止めるとフラストレーションになるので、安全に歩き回れるように工夫して、させてあげる方が無難でしょう。夜中に泣き続けるのは、近所にも飼い主にもストレスです。なるべく夜熟睡出来るように、昼の間に脳にも体にも刺激を与えてあげましょう。ジュリエットは頻尿・お漏らしがあったので、赤ちゃんのおむつを使ったり、頻繁に外に出したりしてしのぎました。しかし最後の数カ月は、毎夜中、むくっと起きるのを察したら、抱き上げて外に出していました。

予防と対策

 ただでさえ人間よりうんと速く歳を取る犬なので、認知症の症状が出始めたらどんどん加速します。原因追究や、治療法発見はまだまだこれからの段階ですが、しかし、老齢になる前から栄養管理や心身に刺激を与えることで予防につながります。いざ発病しても、飼い主の努力で進行を遅くすることも出来るので、シニア期に入ったら、信頼出来る獣医師に犬の認知症について相談してみるのも良いと思います。
 これらの犬の認知症の行動は「赤ちゃん返り」に見えますが、実は本人(本犬)はちゃんと大人の気持ちも持ったままでいます。飼い主は、それを念頭に置き、愛犬の自尊心を傷つけないように、恥をかかせないように対応するのが大切。犬も自分の心身の変化に戸惑い、困っているので、飼い主はそんな愛犬の行動を絶対に「変」扱いせずに、また異常に落ち込んで悲しがったり、まごついたりせず、極力いつも通りに接しながら、犬には必要なだけの時間をかけさせてあげること。そして、横でしっかり支えてあげることだと思います。このステージの愛犬との関係は、愛のみ。それに尽きます。そして、一心同体で老化に寄り添って乗り越える体験は、飼い主と愛犬との永遠の絆になります。
 次回は、「問題児と犬」と題し、問題行動を起こす子供たちが犬と接したり、訓練したりするうちに自らの更生につながっていくお話です。お楽しみに!
                ジュリエットの認知症が始まった頃。   
              こんな姿勢でじっとしているのを見かけるように
                  Photo © Maho Teraguchi    
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てらぐちまほ在米28年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

2017年7月4日火曜日

第105回「対犬タイプ」

散歩中に、前方から初対面の犬と飼い主が全速力で走り寄って来て、どきどきした飼い主もいるでしょう。誰もが一度は出くわす経験だと思います。愛犬が他の犬に対し社交的ならまだしも、犬が苦手であれば、大変迷惑な行為です。巷には、犬は犬が好きで当たり前と思い込んでいる人が多くいるようですが、それは大きな勘違い。人間にも、社交的な人がいれば、孤独を好んだり、人と関わったりするのが苦手な人がいるように、犬の中にも、同類の犬と遊ぶのが大好きな犬もいれば、他の犬と関わるのが苦手な犬もいます。 今回は、同類の犬に対して犬がどういう行動をとるかについてのお話です。

4つのタイプ

同類の犬に対する行動は、基本的に以下の4つのタイプに分かれます。
•対犬社交的(Dog Social):他の犬との交流を大いに楽しみ、許容範囲が大変広い。相手の犬が少々乱暴・無作法でものんきに構えられる。しかし、対犬と対人の反応は常に同じというわけではなく、犬には大変社交的なのに人間は大の苦手という犬も多い。このタイプの犬で、人が苦手な犬に人慣れさせるには、人間にも犬にも社交的な犬から、人との交流の仕方と信頼することを学ばせるという方法もある。
•対犬寛容的(Dog Tolerant):同類の犬が特別大好きというわけでもないが、平和に共存できる。気を許した友達の犬たちとの交流は楽しみ、知らない犬と初対面でも、大抵、リラックスした態度を保てる。知らない犬が無作法に接してきても我慢できる。
対犬選択的(Dog Selective):同類の犬の友達はいるが、自分の嫌いな犬のタイプがあったり、無作法な犬に対してすぐにきれてしまったりする。対犬と交流する際、自分のルールで仕切りたがることが多いので(許容範囲が狭い)人間による監視とガイドが必要。繰り返し、犬との正しい交流の仕方をリマインドされる必要もある。家族犬との共存は上手くいく場合が多い。
•対犬攻撃的(Dog Aggressive):同類の犬の友達の数はほんのわずかか、もしくはゼロ。異性なら反応が比較的ましという犬もいる。他の犬には大変短気で我慢がない。リーシ歩行中に対犬に悪い反応を見せる場合は、単にトレーニング不足という理由や、リーシを持つ人間のリーダーシップの弱さが原因のことも。ここでも、犬に対してと、人間への反応は同じというわけではなく、同類の犬は非常に苦手でも、人間は大好きという犬も多い。

タイプは変動する

パピーの頃に対犬社交的だったからと言って、その犬が一生対犬に社交的とは限りません。思春期から成犬期の性格形成の段階で、対犬選択的や対犬攻撃的になる犬もいます。また、対犬との交流で、繰り返し苦い経験をしたことでタイプが変わることもあります。反対に、対犬へのリアクションに問題がある犬でも、地道にきちんとしたトレーニングを続けていけば、他の犬との交流や共存が可能になっていくと場合も多くあります。
大切なのは、飼い主が、一方的な期待や希望で愛犬の対犬タイプを決めたりせず、また、間違った分析をしてしまわないこと。自分の判断に不安があれば、専門家の分析と助けを仰ぐのも良案だと思います。愛犬の対犬タイプがどれかをきちんと認識し、他の犬と関わる際には、タイプに合った交流の仕方をさせることです。また、愛犬以外の他の犬に対しても同じように理解し、対応してあげましょう。要するに、同類の犬の友達がいようがいまいが、平和に共存できれば良いのです。
次回は、「Dementia(認知症)」と題し、犬の寿命が長くなったことで多くみられるようになった老犬にある症状のお話です。
          パピーの頃に同類と交流させて、行儀作法を学ばせることが大事
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てらぐちまほ在米28年。かつては人間の専門家を目指し文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人ではDoggie Project(www.doggieproject.com)というビジネスを設立。犬のトレーニングや問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからLAに拠点を移し活躍中。ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com